境界線を越えた先にあるもの   作:✟クロス✟

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第九話 勇者、悪魔の母と対峙する

Side 如月

 

地下の地下鉄道へとテロリストを追って降りてきた私は眼前の光景に驚愕した。

地下道の壁面には悪魔がよく使う、アラビア文字によく似た文字がびっしりと刻まれていて、等間隔に陰陽術で使うような札が張られていたのだ。

それらはおそらく陰陽術式の結界と何か別の魔術を組み合わせたものなのだろうと思う。

なぜなら結界の中心の地面に大きな魔法陣が描かれていてそれと直結しているからだ。

 

あれはいったい何の為の魔法陣なんだろう。

嫌な予感しかしないね。

 

「あら、もう追っ手が来ちゃったんだ」

 

地下道の奥の暗闇から一人の女性が歩いてきた。

その女性は綺麗な茶髪のセミロングに碧眼でエルフのように耳がとんがった端正な顔立ちをしていた。

身体も出るとこは出ていて引っ込むところは引っ込んだまさに理想的な体型だった。

だが服装が素肌に全開ジージャンにホットパンツと露出度が極度に高いものだった。

そう、その女性の第一印象はまさに…

 

「へ、変態だァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

この一言に尽きる。

 

だってあの(・・)神裂火織をも越える露出度にあの羨まけしからんワガママボディーが醸し出す色気が見事に合わさって絶世の美痴女にしか見えないもん!

 

「へ、変態じゃないわよ!

これは天草式の聖人神裂と一緒で術式に必要だからこういう格好をしてるだけなんだから!!」

 

「はいはい、変態はみ〜んなそう言います」

 

「こ、こいつムカつくわねぇ」

 

変態は手を握り締めてプルプルと震わせて必死になにかに耐えているようだった。

 

禁断症状でも我慢してるのかな?

ってことは私襲われる!?

まさか女の子もいけちゃう口だなんて!?(驚)

 

「だから変態じゃないって言ってんでしょうが!!

それとこれは禁断症状じゃなくて貴女への怒りを抑えてるの!!い・か・り・を!!

あと私の名前はリリスよ!」

 

(リリスって淫魔だよね?

ってことは結局変態ビッチじゃない。

ていうか地の文にまでツッコミを入れるなんて凄いツッコミセンスだね。リリス……恐ろしい娘‼︎)

 

まぁ、これ以上時間をかけるとヤバそうだからツッコまないけど。

その証拠に地面に描かれた魔法陣の光がさっきより僅かに大きくなってるし。

 

「それより、貴女はいったい何をしようとしているの?

目的は何?」

 

「フっ、私の目的はあの頃から何も変わっちゃいない。

私の目的はイブへの復讐。手段は、イブの子達、つまり今を生きる全人類を皆殺しにすることと私の子供達を殺した神々を皆殺しにすることよ。

そして最後は自身の子を無惨に殺されて傷心のイブを惨殺する。

フフフ♪あの駄神共も皮肉な物ね。

自らの愚かな行いが原因で全てを失うっていうんだから。

私なんていう危険な存在を転生なんてさせなければ少なくとも人類が絶滅の危機に瀕するようなことにはならなかったでしょうに」

 

「そんなこと、この私がさせると思う?」

 

 

「思わないわね。

でも、それがどうしたの?

貴女から感じられる魔力からして相当な使い手だってことは分かる。

だけど、私の前じゃ単純な強さなんて意味を持たないのよ。

それに、私は魔法陣が発動するまで時間稼ぎをすれば良いだけだから無理して貴女に勝つ必要もないしね。

そのための手段がこの結界と魔法陣。

この魔法陣は発動すると無数の悪魔(我が子)を魔界より召喚するゲートとなるのよ。

ただ膨大な量の魔力を使うせいでどうしても発動に時間がかかっちゃうのよねぇ。

まぁそこは龍脈の上に描くことで龍脈と私の魔力を同時に注ぐことで短縮したんだけどね。

もともとは10時間ぐらいかかるんだけどこれのおかげで1時間で済みそうだわ。

しかも念のために張っていたこの結界のおかげでここで戦えば15分ほどにまで短縮できそう。

この結界は結界に伝わった衝撃、魔力などのあらゆるエネルギーを全て魔法陣発動のエネルギーに回す効果があるからね」

 

「なっ、悪魔召喚をする気!?」

 

普通ならいくら龍脈の力を借りたとしても万単位で人間を生贄に捧げないと魔界と現世を繋ぐ大魔術なんて使えないけど、こいつはそんな大量の生贄なんて用意していない。

ということはこいつは自分自身の魔力だけでその万単位の生贄分の魔力を持っているってことか。

この圧倒的なまでの魔力量と動機からしてリリスって名前のチート転生者じゃなくて私と同じように、神話や異世界からそのときのままの状態で転生された不純物(イレギュラー)みたいだね。

魔力関係の転生特典を貰って膨大な量の魔力を手に入れたパターンなら普通は『無限の魔力』を手に入れるだろうし。

う〜んそれにしても同じ名称だとややこしいなぁ。

よし!リリスみたいなパターンのやつは天然不純物(ネイチャー)と呼ぶことにしよう。

それにしても、リリス…アダムの元妻にして悪魔の母…か。

相手が相手だし結界のせいで派手に戦えないから今回は衝撃が逃げないような繊細な肉弾戦で行くしかなさそうかな。

 

「……貴方がどんな目にあったか知ってるし、それでどんな気持ちになったかもだいたい想像できる。

復讐なんて意味がないものだなんて綺麗事を言うつもりもない。

だけど、それでも私は貴女を倒してこの世界を、私の大切な人を、護ってみせる」

 

「ハッ、何がどんな目にあったか知ってるよ。

言っておくけど貴女の知識が伝承に基づく物だというならその知識は半分不正解よ」

 

「どういうこと?」

 

「まず第一に私は性行為のことでアダムと揉めてなんていないし、いろんな悪魔と好き好んで性行為をした訳でもないわ。

私はそんな尻軽女じゃない。

その証拠に見ての通り私の足は伝承では神に蛇に変えられていたけど実際はそんなことはなかったしね。

まぁ毎日夥しい数の我が子を産まされてその内100人を殺されてたってのは本当だけど」

 

「 ……伝承が所々間違っているってのは分かった。

もしかしたら貴女は本当はいい人でイブこそが本物の悪なのかもしれない。

でも、だからといってそれが私がここで貴女の行いを見過ごしていい理由にはならない

私も、これ以上大切なものを失うのは嫌だからね 」

 

「フフフ、まぁいいわ。

邪魔をするというなら消すだけよ」

 

私は一気にリリスの懐に潜り込みビルをも一撃で粉砕するほどの左拳の突きを鳩尾に叩き込み、血を吐きながらくの字に折れ曲がって吹き飛びそうになるリリスの右腕を右手で掴み引き留めながらそのまま右肘を顎に叩き込み、止めに顔面に渾身の左ストレートをぶち込んだ。

その衝撃で右腕が引き千切れたリリスはそのまま吹き飛びそうになるが、足を踏んでリリスの背後に空間魔法【ボックス】で空間に固定した50cm四方の透明な立方体を展開させることで阻止した。

それにより、リリスの体はバキゴキグキッ!という骨が折れる音を鳴らしながら立方体に凭れるようにしてへし折れた。

 

「フフ、魔法陣にエネルギーがいかないよう注意しながら戦ってるようじゃ私を倒す前に魔法陣への魔力供給が完了しちゃうわよ?」

 

「なっ!?」

 

リリスは傷など最初っから無かったかのように、手を使わずに腹筋だけで血まみれの身体を不気味に起き上がらせた。

血飛沫を撒き散らしながら引き千切れた右腕も何事もなかったかのように再生していた。

 

あれだけのダメージを受けたにも拘らず瞬時に再生するだなんて…。

流石は悪魔の母と言ったところね。

 

「いつまで足を踏んでるつもり?」

 

リリスは私に右拳を鳩尾に叩き込み、そのままその莫大な魔力を開放させて大爆発を起こした。

私はそれを瞬時に防御性魔法陣を展開して防ぐが、十枚ですらまだ足りず、防御性魔法陣を貫通した爆発の衝撃が私を吹き飛ばした。

リリスは追い打ちをかけるように私の方へ右手を翳してまるで歌を歌っているかのような流麗な呪文詠唱をし、魔法を発動した。

 

「さぁ、地獄の苦しみの一端を味わいなさい。

 

地の底で血に塗れ、己が全てを理不尽に奪われた永遠の苦しみを味わう悲しき咎人は血が固まり塞がった喉をその圧倒的憎悪の叫びによりこじ開け、その叫びを天まで轟かせた。

 

『l血反吐吐く叫び《ブラッディスクリーム》』」

 

リリスを中心として発生した断末魔の叫びのような大音響が亡霊の幻影と共に莫大な衝撃波となって襲いかかってくる。

私はそれを詠唱破棄した風魔法『レーレ』で自身の周囲を真空状態にして無効果した。

にも拘らず何故か全身の骨が軋むようなダメージを受けた。

 

クッ!やっぱり物理法則なんて軽々と越えて来るか!

 

『血刀【ブルート】』

 

『硬剣【ドゥーラ】!』

 

リリスは魔法で赤黒い血のような色合いの刀を創造、私は鋼色のロングソードをアイテムボックスから取り出し、互いに同時に動き、ちょうど魔法陣の真上で私の上から叩き斬るように振り下ろしたロングソードによる上段斬りとリリスの刀の掬い上げるような下段斬りが激突した。

 

「クッ!」

 

激突の勝者は私だった。

私の斬撃は当初の狙いである頭から逸れはしたものの、ブルート(リリスの刀)

ごと右腕を肘の辺りから切り落とした。

 

だけど、何かがおかしい。

魔術主体のリリスが接近戦勝負に出たこともそうだけど、なによりいくら苦手な接近戦であろうとあのリリスがここまであっさりとやられる訳がない。

明らかに手を抜いている。

だけどどうして?

いくら不死に近い超速再生能力を持つといえどその命令を下す脳が破壊されれば超速再生できずに死ぬというのに……。

いや、待てよ。

どうしてリリスは本来完全に逸らすことができた斬撃を頭から逸らすだけにとどめた?

頭以外の一部を大きく損傷する必要があったのか?

……まさか!?

 

「気づいたようね。

だけど…、もう遅い!!」

 

さっき切り落としたリリスの刀の先が一人でに動き出して私の脇腹に突き刺さった。

 

「あ"あ"ああああああっ!!」

 

リリスは私が痛みで声を上げた隙を狙って切断された右腕を勢い良く振って流れ出ている血を私の口に入れて、私は思わずその血を飲んでしまった。

 

「フフッフフフフ♪

これで貴方の運命は私の思うがままよ」

 

「クソッ!やっぱり…、これが狙いだったのね。

かつて神の理不尽な神罰により毎日100人の我が子を殺された貴女が海に身を投げ自殺したことを悲しんだ、貴女を説得していた3人の天使が、貴女を蘇生させると同時に授けた、これから生まれる我が子の運命を男なら8日、女なら20日、私生児なら一生操ることができる能力を授かったという貴女自身の伝承を基に作った魔術の下準備である貴女の血を私に飲ませるという行為を達成するために態と苦手な接近戦勝負に出て、さらに手を抜いたのね」

 

「フハッハハハハハ!

そこまで賢いと気味が悪いわねぇ。

フフフ、貴女の推論は徹頭徹尾正解よ。

私の魔術『血脈の宿命』はさっき貴女が言った伝承を基にしたもので、私の血を飲ませることで対象を我が子とし、男なら8日、女なら20日間操るという術式よ。

ちなみに私の血に加え、私と婚姻関係にない男の血も飲めばその者の運命を一生操ることができるわ。

だから私の血を飲んだ貴女の運命は既に私の支配下という訳よ。

貴女はなかなか楽しかったわ。

でも、私は忙しいの。

だから、そろそろ『死んでちょうだい』」

 

「『断る!!』」

 

パリィィィィィィン!

 

薄いガラスが割れるような音と共に私に掛かっていたリリスの魔術が破壊された。

 

「なっ!!『血脈の宿命』が打ち消された!?どうして!?」

 

「『血脈の宿命』には弱点があるからよ。

それは天使がリリスの気まぐれで人間達が苦しまぬようにと渡した天使の名を刻んだ護符。

正確にいえばその護符に宿った天使の力(テレズマ)が貴女の弱点よ」

 

「確かにこの魔術の弱点は天使の力(テレズマ)よ。

だけど一人の人間が集められる程度の天使の力(テレズマ)で完全に打ち消せるほど私の魔術は安くないわ。

そんなことができるのはそれこそ本物の天使ぐらいか聖なる右を持つ者ぐらい。

人間でこの魔術を打ち破るのはたとえ聖人でさえ不可能よ」

 

「うん、貴女の魔術は確かに人間一人が集められる天使の力(テレズマ)程度で完全に打ち消せるほど安くはない。

だけどね、さっき貴女自身が言ったように人間じゃなかったら、天使ならば打ち消せるんだよ」

 

「ハッ!自分が天使だとでも言うつもり?

天使の象徴とも言える輪も翼も無いのに?」

 

「いや、天使であって天使ではないかな。

だって私は天使とフィアのハーフだからね(・・・・・・・・・・・・)純粋な天使じゃないから通常時は翼を消すことが可能ってわけ」

 

私は背に左右一対計二枚の翼を展開させた。

 

「フフフ…、アッハッハッハッハ!

なぁんだ、天使といっても所詮は大天使程度か。

熾天使じゃないならなんとかなりそうね。

それにフィアだかなんだか知らないけどそのせいで更に天使の力が弱まっているだろうしね」

 

「残念、私は大天使でも熾天使でもないよ。

そもそも貴女のいた世界と私がいた世界は違うものなんだから天使だって違うものに決まってるでしょ。

私の父さんは私のいた世界の天使の最上級、『アンジェラス』の天使長で、母さんは炎のように赤い眼と髪が特徴の私の世界の最強種族『フィア』で史上最強と謳われた冒険者よ。

だから弱まるどころか『アンジェラス』と『フィア』両方の良い所取りをして更に強くなってるよ」

 

「フッ、どちらにせよ、私がやることは変わらないわ。

私は魔法を発動してこの世界と魔界を繋げ、復讐を果たしてみせる!」

 

リリスの魔力が桁違いに膨れ上がったかと思うと、リリスの目が碧眼から黒眼に変わり、黒目の中心には緋く光る正位置のKENのルーン文字が刻まれていた。

 

確か正位置のKENはダイナミックなエネルギーや情熱って意味があったね。

てことはあれはあの膨大な魔力の象徴ってことかな?

魔力が膨れ上がったのは魔法陣へ供給している魔力量を減らしたからだと思うし。

若しくはあのKENのルーン文字が魔力の総量を上昇させているのか。

いや、おそらくその両方か。

 

「そんなことはさせない。

貴女を倒して絶対に阻止してみせる!」

 

私とリリスは互いに右手を相手へ翳し、詠唱を始めた。

 

「天におわす、万物を天法の下に裁く法の神エレアよ。

深き闇に飲まれた復讐の鬼を聖なる断罪の光で撃ち貫け」

 

「闇の暗泥は神の光をも飲み込み、ありとあらゆるものを喰らい尽くす」

 

「「『シャオ・バルガルド』

『フェアティルゲン・アッペティート』!!」」

 

私は何億何兆という数の光の矢を一束にまとめて放ち、リリスは黒や茶色、紫という暗色をごちゃ混ぜにしたような色合いの泥の濁流を放った。

光の矢と濁流は一瞬の間拮抗したがすぐに濁流が押し勝って光の矢は呑まれた。

 

でも、この程度で終わるほどこの魔法は易くないよ!

 

「爆ぜろ!」

 

濁流に呑まれた光の矢はその言葉を合図に起爆し、内側から濁流を吹き飛ばした。

その時に発生した莫大な音と光によって一時的に視覚と聴覚を失なって隙ができたリリスに向かって天使の力(テレズマ)を高密度に圧縮して拳に纏った一撃を鳩尾に叩き込んだ。

 

「ガハッ!」

 

リリスは体をくの字に曲げて、口から血を吐いた。

私はそこに追撃として左フックを叩き込んだ。

だけど、拳はリリスが霞のようになって消えたせいで空を切った。

 

「視覚と聴覚を奪われても魔力を周囲に放出していれば感知できるのよ!!」

 

周囲の空間が罅割れ、そこから無数の触手が伸びて体を縛る。

だが相性が悪かったようで、触手は体を覆う天使の力(テレズマ)に焼かれて一秒と経たず焼失した。

それでも一瞬の隙は生まれてしまい、リリスの蹴りが腹にめり込み、そのまま結界まで吹き飛ばされてしまった。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

一撃一撃に全力をこめた戦闘は短期といえど消耗し、天使の力(テレズマ)はまだ余裕があるけれど体力があと一撃分しか残ってはいなかった。

だけど、あの様子だとリリスも魔力の残りは少ないみたいだね…。

次の一撃が正真正銘最後の激突になる。

だから、その前に…

 

「ねぇリリス、貴女に一つ聞きたいことがあるんだけど」

 

「………なによ?」

 

「どうしてアダムとイブへの復讐じゃなくてイブへの復讐と言ったの?

伝承では貴女はアダムのことも天使の説得にも聞く耳を持たないで正式に別れるほど嫌っていたはずだけど」

 

「それは違う!!!!」

 

リリスは私の言葉に端正な顔を歪めて激怒した。

彼女は一度目を閉じて、自身を落ち着け、ゆっくりと語り出した。

 

「私とアダムは確かに正式に別れたわ。

だけど、それはイブの策略に追い詰められた末に断腸の思いで決めさせられたものなのよ」

 

「イブの策略?」

 

「…あいつは私の子供達とアダムを人質にとったのよ。

アダムと別れなければ子供達とアダムを殺すと言ってね。

だから私はアダムに貴方のことが嫌いになったから別れましょうって嘘をついて別れたのよ。

まぁ、結局別れたせいで(クズ)の怒りを買って、子供達はみんな殺されてしまったんだけどね。

 

……だから私は決めたのよ。

たとえ悪魔の母になってでも、これが結果的にアダムを苦しめることになったとしても!それでも!!あの忌々しいクズ女に私と同じ思いをさせて、その末に殺してやると!!!」

 

リリスは涙を流しながら悲痛に叫んだ。

 

「…そんなのは……、そんなのは間違ってる!!

貴方は子供を失う悲しみを痛いほど知ってるのに!

貴女はアダムにも貴女が感じたその悲しみ苦しみをもう一度味あわせるっていうの!?」

 

「っく!………黙れ!!

お前に私の何が分かる!!」

 

「私には貴女の想いはわからない。

だけど!そのアダムまでも苦しめてしまうやり方が間違っていることぐらいは分かる!!」

 

「………黙れ…。

………黙れ、……黙れ、…黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレェェェェェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」

 

リリスは狂ったように叫びながら、今の感情を体現するかのように背から青と黒の入り混じった翼を噴出させた。

 

「ウォォォォォォォォォォァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

リリスは背から噴出しているドス黒い翼を推進力とし、爆発的な速度で向かってきた。

私はそれを迎え撃つためにありったけの天使の力(テレズマ)を右拳に込めた。

翼もそれに応じて眩く光り輝き、頭上には円を貫くように先端を突出させた十字架のような形の天使の輪が顕現した。

 

「復讐に逃げることなんて誰にでもできるんだ。

でも、貴女には自身を犠牲にしてでも子供達とアダムを護ろうとした誰にもでも真似できない強さがあったでしょう!!」

 

眼前にまで迫ったリリスは拳を振りかぶった。

 

復讐(悲劇のヒロイン)なんてしてる暇があるなら」

 

リリスは背の翼の噴出で拳を加速させた。

 

「まずはアダム(大事な人)をその性悪女からもう一度護ってみせろ!」

 

リリスが振り下ろした拳とクロスカウンターを狙った私の拳が交差した。

 

「この大馬鹿野郎が!!!!」

 

リリスの拳より早く私の拳がリリスの頬を捉え、地面へと叩きつけた。

地面に叩きつけられたリリスは魔力が切れたのか、背から噴出していた翼も消え、眼ももとの碧眼へと戻っていた。

悪魔召喚の魔法陣も核となる術者が倒れたせいか、スゥーと消えて自然消滅していった。

 

「やっと…、終わった…」

 

 

 

 

 

 

 

「いえいえ、まだまだ始まってすらいませんよ。魔法世界の勇者さん」

 

 

 

 

 

 

「ッッッッッッ!!!」

 

背後に濃厚な殺気を感じた私は咄嗟にリリスの倒れている方向へ飛びながら空中で体を捻って背後を見た。

 

「流石は勇者。殺気には敏感ですね」

 

そこには黒いロングジャケットを羽織った艶やかな藍色の長髪をうなじで縛った空色の瞳の男が不敵に笑んで立っていた。

 

「あれだけの殺気をぶつけられれば一般人でも気づくわよ。

それより、貴方は何者?」

 

「私は…いえ、私達はAO(AntiOrigin)

原作を破壊し、新たな世界を築く組織ですよ」

 

「アンチ…オリジン…」

 

私は警戒心を高め、戦闘態勢に入った。

 

「御安心下さい。今回私はリリスさんを引き取りに来ただけで戦闘をするつもりはありませんから」

 

「はい、そうですかって素直に渡すと思ってるの?」

 

「虚勢は張らなくていいですよ。

結界がなくなった今、ここで戦えば地下道なんて簡単に崩落し、その上にある地下街や地上にも被害がでます。

そんな状況下では貴女は全力で戦えないでしょう

何よりリリスさんとの戦いで消耗した貴女にはもう私と戦えるほどの余力は残っていないでしょう」

 

「それでも私は退くわけにはいかないのよ。

どんな勝ち目がない状況でも護るべき者がいる限り戦い続ける。

それが勇者ってもんでしょ」

 

「愚かですね。

ですがその愚かさは、嫌いではありません」

 

男の右眼の瞳が空色から紋様の入った血のような赤黒い色に変わった。

その瞳を見た途端、私は一体どんな攻撃を受けたのかも分からぬまま意識を失った。

 

 

SIDE:三人称

 

「魔法世界の勇者。

枷が掛けられているにも拘らず、大した武器も使わずしてここまでやるとは…、相変わらず桁外れの戦闘能力ですね」

 

彼は地に伏す如月を見下ろしながら、彼女とリリスの戦いを一部始終見た感想を一人呟いた。

そう、彼はあの戦闘をずっと見ていたのだ。

原初の女にして悪魔の母にも、魔法世界を救った勇者にも気づかれずに。

 

「組織の一員としてはここで危険の芽を摘んでおいた方が良いのでしょうが、今回の仕事はあくまでリリスさんの引き取りだけですし、彼女のことは放っておきますか」

 

男はそう言って、倒れているリリスを持ち上げて肩に担いで、なんらかの力を用いて地面に漆黒の闇沼を現出させた。

その漆黒の沼にはまるで死後の世界と繋がっているような不気味さがあった。

 

「勇者よ。私達の中には何の信念も持たない強大な力を持っただけの小悪党もいます。

ですから、敵をも助けるだなんて思わず、モンスターを狩るようにただ殺すことだけを考えなければいくら魔王を倒した貴女と言えどAOには勝てませんよ」

 

男は既に意識のない彼女にそう言い残し、沼の中へと消え去った。

 

 

 

 

第七学区、窓のないビルにて、『人間』アレイスター・クロウリーは一つのディスプレイを眺めていた。

それは地下鉄道にて行われた如月とリリスの戦闘を記録したものだった。

 

「ふむ、まさか異世界には天使とのハーフまで実在するとはな。

いや、それよりも気を引くのは神話や伝承に登場するもの達がこの世界に力を持ったまま転生していること、そしてそれらの大半を手中に収めるAOの存在か」

 

アレイスターが見ているディスプレイは場面が変わり、自らをAOと名乗った人物を映し出していた。

 

「AOを利用すれば更なるプランの短縮が可能となるだろう。

プランへ影響する行動をとるという危険性はあるが、それも修正可能な範囲に収めれば良い話だ」

 

それに対し、まるで空気かのような影の薄さの黒髪黒目、美形でも不細工でもない、背も高くなく、かと言って決して低い訳でもない、中肉中背で、強いて特徴を挙げるとすればその圧倒的なまでの無個性さが個性と言えるような無表情の男ーー佐藤浩二(こうじ)

 

不純物(イレギュラー)は単体、もしくは小組織程度なら対処できるでしょう。

しかし、AOはおそらく大組織です。

それも、下っ端ですらLevel5第三位以下相当の力を所持しているほどの。

そんな大きな爆弾をプランに組み込んでも本当に大丈夫なのでしょうか」

 

「問題ない。如月樹を上手く使えば充分対処できるさ。彼女が動けば彼女が救った人々も彼女を護ろうと様々な形で動くからな。それにいざという時は私が直接手を加えれば済む話だ」

 

「……そうですね」

 

アレイスターはディスプレイを閉じ、別の新たなディスプレイを展開し、作業を進めていった。




用語説明

アンジェラス

樹の世界の最上級の天使の位。
一対の白い翼と天使の輪が特徴。
光の象徴で、神の補佐官的な立ち位置。

フィア

炎のような赤い眼と髪に雪のように透き通った綺麗な白肌が特徴の樹がいた世界で最強の種族。
身体能力だけでなく、知能、魔法に関してもズバ抜けている。


2014/0629
武器を使わずしてここでやるとは→大した武器も使わずしてここでやるとは


2014/0620

リリスの伝承を知らなくても分かるように大幅改変
ただし大筋はそのままで変わったのはリリスの過去などに関係するセリフや一部戦闘描写など
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