PM9:05
騒音が聞こえる。
爆発音に酸で何かが溶けるような音、何かを砕く破砕音、ゴロゴロという落雷のような音も絶え間なく聞こえる。
何故私はこんな騒音の中眠っていた……?
そうだ、確か
耳を澄ませて周囲の音で状況を推測しようとするが、色んな音が混ざり過ぎていて一体何が起こっているのか音だけでは判別できなかった。
疲労のせいか重い瞼を開け、周囲の状況を改めて確認してみると、そこは地獄絵図だった。
天からは雷の雨が降り注ぎ、大地からは地表を割いてマグマが噴き出し、巨大な
しかし、周囲がそんな天変地異にも等しい有様となっていながらも何故か結標の周囲だけはまるで区切られているかのように綺麗で、逆に不気味さを感じさせた。
「一体……何が起こっているの……?」
「お、やっと目ぇ覚めたみたいやな」
聞き覚えのある関西弁が聞こえて後ろを振り返ると、そこには陰陽師の格好をしたクセっ毛の男がいた。
「貴方は…確かさっき助けてくれた……陰陽師?」
クセっ毛の男は「まぁ、間違ってはないけど」と苦笑いで呟いた。
「僕は
今は訳あって副業中って感じやな。
そんなことより君、早よ逃げ。
此処に記された所に僕等のアジトがあるからそこで待っといて。
そこやったら安全やからさ」
熾城はそう言ってアジトの場所を記した地図を渡した。
因みにその地図には端に右下の角が伸びた五芒星が描かれており、術者と術者が承認した者以外が触れたり、見たりすると発火するようになっている。
「悪いけど断らせてもらうわ。
私は
自分が招いた事態ぐらい自分で解決してみせるわ。
いや、解決しなきゃならないのよ。自分のためにも」
結標は確固たる意志の宿った眼で熾城を見つめた。
「それなら心配せんでええよ。
「だからこれは私がやらないと…「それに」
熾城は結標の言葉を遮り、彼女を危険から遠ざけるためにあえて冷たい言葉で非情な現実を突きつける。
「
こいつらだけじゃない。
君が知ってるような浅いとこやない、深い闇に浸る暗部の連中もや。
そんな化物が跳梁跋扈する中
「それ…は…」
結標は周囲の地獄のような景色に目をやり、あまりの惨状に目が揺らいだ。
「はっきり
責任感じて最後まで貫こうとする精神は好感もてるけど、君の命を捨ててまでやるもんじゃない。
命は皆平等に1個しかないんやから大事にし」
揺らいだ目は遂には俯き、見えなくなった。
しかし、俯いていた時間はそんなに長くはなかった。
次に顔を上げた時、結標の目は揺らいではいなかった。
真っ直ぐと熾城と目を合わせ言った。
「………信じて…いいのね?」
「そこは君の判断に任せる」
そう言って熾城は朗らかに笑った。
「……分かったわ。
悪いけど
「ああ、任せとき」
結標は
(あの娘はまだ弱いからな…。先の事を考えたら情けないけどどうしてもあの娘を頼らなあかんから、せめてその時までは僕等が責任持って面倒見んとな)
「それが大人ってもんやろ。
なぁ、イフリート」
熾城は上空の
「宇宙空間まで吹き飛ばしたのによう生きとるわ。
やっぱどこの世界でも悪魔はタフなんやなぁ」
頭上に描いていく魔法陣はどんどん複雑かつ奇形になっていく。
「これでダメ押しや」
魔法陣は完成した。
円で縁取った五芒星を星図に見立て、星図内には数多の星座が描かれていた。
そして、中心の、本来なら北極星が位置する場所には黒い光点があった。
「宇宙。始まりは爆発。
なれば終わりは何か。
爆発。否。収束。否。崩壊。否。それは闇。闇に飲まれ、光は潰える。『黒の極点』」
魔法陣の中心に描かれた黒点が広がり、星座を全て飲み込んだ時、魔法陣は消え、上空にあった赤い光点を飲み込むように突如闇が現れ、大空を闇が覆い尽くした。
これで最低でも行動不能にはなるだろうと思っていたが、大空を覆っていた闇に異変が生じる。
「………まさか」
闇から僅かな
光は闇を引き裂き次々と漏れゆく。
「…………」
熾城の頬を一筋の冷や汗が伝った。
しかし冷や汗に反して熾城の口角は上がっていた。
遥か上空の闇から聞こえるハズのない声が聞こえた。
粉塵などの雑味のない、純粋な炎のみによる爆発は大空を覆っていた全ての闇を破壊した。
「図ニ乗ルナ。人間風情がッッッッ!!!」
闇より出でたイフリートはその様相を変貌させていた。
人の原型はなく、全身は赤褐色になり体長も4m程に肥大化していた。頭には捩くれた2本の黒い角が生え、目は強膜が黒く、瞳は炎のような煌々とした灼眼となっていた。背には一対の黒い蝙蝠のようでいて、ドラゴンのような硬質さの翼を持ち、臀部からは赤黒いマグマのような色彩の硬質な尾が生えていた。
今ここに、本物の悪魔がその力を解き放った。
神話に語られる、天使に並ぶ強大な力を。
だが、異世界の天才陰陽師はそれを見て……
哂っていた。
「くくく、こりゃぁ久しぶりにおもろい戦いになりそうやわ。
君に敬意を表して教えたるわ。
官位従四位下・播磨守、安倍氏初代当主
それが僕のほんまの名前や」
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