武装神姫 ~Je vous aime à jamais~ 作:冬沢 紬
俺は死んだ。死んだらみんなはどうなると思う?
……死んで、俺は今、戦っている。
――敵位置捕捉、1000ミリ先の障害物陰から……会敵まであと3……2……1……。
対するワタシの武装はM8ライトセイバーが一振りだけだった。先ほどの撃ち合いでアルヴォLP4ハンドガンは予備弾倉も含めてすべて撃ちつくしてしまった。もう一振りあったM8ライトセイバーも敵のリアパーツの破壊に、引き換えとしてしまった。
しかし胸部アーマーとレッグシールドくらいしか防具らしい防具を装備していないワタシにとっては、それだけでも充分な快挙といえる。フル武装の神姫相手にショートソード2本とハンドガン1丁で渡り合うなんて、馬鹿げている。その馬鹿げていることを、ワタシは今やっているんだ。
敵の攻撃はそのほぼ全てが一撃必殺、掠ろうものなら機動性がガクッと落ちて、すぐに勝負が付くのは目に見えている。
一撃も、触れさせてはいけない。
敵神姫がアルヴォPDW9を構えたっ!
ワタシは必死に転がって銃撃を回避する。
カキンッ!
耳障りな金音と共に銃撃音が止み、敵の武器はホールドオープンしたまま動作を停止している。そのままPDWを廃棄したところを見ると、もう残弾は無いらしい。
「っ、! いい加減に、負けを認めたらどうですの!?」
武器が1つ無くなったところで、敵の神姫の声にもワタシは一々反応していられるだけの余裕は無い。だから何も考えずに反射で声を出す。
「そっち……こそ!」
お互いが激突する。
持ち替えた敵の武器は、右手にボウソード:ノートゥングという名の剣。そして左手にはボウナイフ:リジルという短剣。リジルを前に突き出しノートゥングを水平に振りかぶったままで、一直線に駆けて来る。
ワタシはM8ライトセイバーを下段から突きに持っていく……と見せかけてライトセイバーを逆手に持ち替え、敵の右手側に超低体勢で潜り込む。そこには、充分に振りかぶられたノートゥング。一見すれば自殺行為だが、違う。それは浅慮というもの。ワタシはさらに、一歩踏み込んだ。
「しまっ……」
――これで、間合いを殺したっ!
そう。武器にはそれぞれ適した間合いがある。一般的にナイフよりも槍は強いが、そこが狭い狭い部屋だったならばどうだろうか。振り回せない槍は唯の重石と化し、使い手を苦しめるだけである。
それと同じこと。相手が剣を振りぬこうとするならば、振りぬく前に間合いを潰せば、ワタシの勝ちだ。もちろん、言うは易しであるが。
だが、ここは既に敵の間合いを詰め切った場所。ここからならば致命打にはなり得ない!
「遅い!」
M8ライトセイバーの切っ先が跳ね上がり、狙うは敵の首唯一つ――!
◇ ◇ ◇
大学生の俺は、落ちこぼれだ。俺はどうしようもなく神姫が好きで、それに大量の時間と金を掛けまくった。その結果が、落ちこぼれという烙印だった。
だが、俺は全く後悔していない。
食事は毎日2食はエアパスタを食べている。最近では料理本の立ち読みを始めたので、そのレパートリーはとどまるところを知らない。そして味も匂いも知らない。
……つまり俺は毎日2回は食事を抜いている、ということである。神姫破産しないのは、非常に割のいいバイトに上手くありつけたというのもあるが、エアパスタが大きいだろう。
俺は今日も講義が終わると同時に、行き付けの模型店へ向かって神姫をお迎えした(※神姫を購入すること)ところだった。
通いなれた道。独り暮らしの自宅への道。
「帰ったら……早速作りかけの神姫を完成まで持ってかなきゃな。オリジナル神姫……ある種の到達点だぜ」
ニヤニヤしながら歩く俺……おっと、自己紹介がまだだったな。俺の名前は
大きく溜息を吐く。確かに、神姫達はかわいい。それは間違いがない。しかし、公式の設定は
でも……。
「俺はいつでも準備万端なんだけどなぁ。動いてくんねーかな、姫様?」
現実は、そうはいかない。それはあくまで、物語の中のアンリアル。だから俺はいつも夢想する。朝起きて、姫達が口々に「おはよう!」と俺に囁いてくれるのを……。
「へへ……へへへ……」
だから、俺は気が付かなかった。
信号は赤。立ち止まって、腕の中の大切な存在に想いを馳せる。天にも昇る気持ち、というのは正にこのことを言うのだろう。
右方50メートル。ケータイ電話を片手に運転するトラック。
ようやく念願のマリーセレス型とプロキシマ型が店頭に並んだのだ。どれほど待ちわびたことか!
右方10メートル。歩道に乗り上げたために慌ててハンドルを取るも、その大型トラックは大きく
ふと顔を上げると、辺りが薄暗い。周りの人が何かを叫んでいる。でもまぁ、関係無いだろう。俺はいつだって独りだったし、独りのほうが好きだ。だから今日も俺ぎゃぐぇぁ
◇ ◇ ◇
俺は、左にいた。俺は、俺の左にいた。倒れこんだ、毎朝よく見るそいつは、頭部が潰れて悲惨なことになっていた。トラックの下敷きだ。
周りの人にはどうなってるのか見えないみたいだけど、俺には見えた。トラックのあるはずの歩道の上に立ち、トラックの下敷きで見えないはずの俺の死体を見ていた。
その体は、しっかりと神姫を抱きしめていた。
神姫は無傷で、汚れも無く……それだけは胸を張って誇れることだと、俺は満足して、逝った。
白い光に導かれて、俺はどこへ行くのだろうか。天国か……いやいや、地獄だろうか。何にせよ、神姫が無いだろう事が唯一にして最大の心残りである。
「姫達……きっといい人たちに貰われていくんだぞ……」
そして、俺の意識は消えた。