武装神姫 ~Je vous aime à jamais~ 作:冬沢 紬
世界が歪む。右に、左に、上に、下に。私は今、バルカンの嵐とダンスしていた。
オート回避による着地硬直を無くす為に、マニュアル回避に切り替えている。爆散していく足場の上で華麗にバック転を決め、言い放った。
「武装神姫の名を語るなら……一発ぐらい中ててみたらどう?」
「上等ですファッキンシット!」
とはいえ、避けてばかりじゃな……。
やはり武装と場馴れから来るのか、最初の奇襲が終わってしまえば中てるのはかなり難しい。けれども、こんな場所で負けるわけにはいかない。勝って勝利を――べ、別にご主人様に捧げたいとかそういうわけじゃ……。
「よそ見とは余裕ですねサノバビッチ!」
「チッ」
一気に距離を詰めてきたヴューナのレーザーソードが横薙ぎに襲い掛かってくる。俺はブーストを逆噴射してそのまま足を開き、股割のような体勢でそれを避ける。私はそのまま両足を引き戻し、その力のままスラスターを駆使して右拳を振りぬいた。
狙い過たずそれはヴューナの腹を捉え、彼女は姿勢を崩した。そこを好機とばかりにヴェルテクス2挺を向け、ゼロ距離でぶっ放しまくった。
バシュンバシュンバシュンバシュン!
受け身すら取れずに追撃を喰らいながら地面を転がるヴューナ。私は止めとばかりにニンブスからミサイルを浴びせる。
煙が晴れたとき、そこにはディコ・シールドを構えたヴューナがいた。
「流石にデザートはお腹一杯……というわけね」
「ええ! とんでもない味でしたサック!」
銃口をゆらさぬままに敵をロックして、私は溜息をついた。
「その口癖。とてもアーンヴァルとは思えないわね。まぁ、マスターがアレだったからしょうがないか……」
「マスターの悪口は……許しません!!」
突如、ヴューナの動きが変わった。フェイントを織り交ぜた剣戟が私に襲い掛かる。
右から下段を通しての掬い上げるような逆袈裟斬りから転じて、流れるような鋭い突きに変ずる。
……だが、足りない。
そんなんじゃ、足りない。
私は突き出された剣の柄を、逆に前に出ることによって無理やり掴んだ。そして、一気にこちらに引き寄せる。
体勢を崩し、こちらに体を預けるようによろけるヴューナの頭を逆の手で掴むと、そのまま腹に膝蹴りをかます。
まだ、終わりじゃない。
ふらふらと地面から立ち上がろうとするヴューナをヴェルテクスの銃口で地面に縫い付ける。
あとは、おしまい。
悲鳴を上げて逃げようとするヴューナに向けて、いや、“向けて”すらいない。押さえつけた銃口はそのまま、文字通りの意味のゼロ距離で両手の引き金を引きまくった。
「やめろ、試合は終わりだよユカリ! オーバーキルだ!」
ご主人の声も聞こえない。
きっと、私の口元は醜く三日月に歪んでいるだろう。……愉悦の笑みを浮かべて。
私はホログラムに変わり、風に吹き消えていくヴューナに向かって最後の一発を叩きこむと、空を仰いだ。手をかざし、目を細める。
私も足元からホログラムに変わっていく。ひとつため息をつくと、ご主人のことを想像して軽く暗い気分になった。
◇ ◇ ◇
「ユカリ! どうしてあんなことを!」
「実際に戦闘してるわけじゃないんだから、CSCだって傷つかないし。勝負ってのは無情なものなんだよ、ご主人様」
俺とご主人は睨み合っていた。話は平行線。あの後ご主人は相手の張野とかいうのに謝っていた。俺がぷいっと横を向いていると無理やり頭を下げさせられた。ぷんぷん。
そして今。休憩スペースの机の上で、俺はてくてくと歩き回っていた。
「私たちは神姫だよ? 武装し、マスターの敵をことごとく討ち果たす姫だよ? 過程はどうあれ、私は“神姫だった”よ?」
俺はそれっぽくテキトーなことを言ってみる。
「でも、ユカリ……。今度からはもっと紳士的に戦ってほしい。あ、淑女……かな? と、とにかく、ユカリが、その、怖いって……思っちゃったから。自分の神姫のくせに、情けないマスターだよね……でも、ユカリ。約束してほしい」
う、そこまでガチで言われるとは思わなかった……。別に根の深い問題じゃないし、テキトーに返事して、後はその場のノリかな……。
俺は天板の上、歩みを止め、ご主人の顔を見てこう言った。今の俺には、こう言うしかなかった。
「わかった。以後気を付けるよ、ご主人様」
結局、ご主人の目は最後まで見れなかった。
こうして、俺とご主人の初の対外戦は終わった。
◇ ◇ ◇
俺はご主人の頭の上に乗って部のメンバーのところに帰還した。意外と安定感のある頭の上だが、念のためと髪の毛を握りしめている。時々下から「痛い! ユカリ痛い!」と聞こえてくるのは気のせいだと思う。
「あ、すみません。今戻りました」
神姫ブースのモニター前で待っているはずの部のメンバー。ご主人が声をかけるが、返事が無い。
のんびり屋のご主人は2、3度髪の毛を引っ張って、それでやっと気付いたみたいだ。部のメンバーに流れる緊張した雰囲気を。
「かわいい後輩だから……って大目に見るわけにはいかねぇんだよ」
とは、裕明だ。なにやら剣呑な雰囲気が漂っている。チャラ男っぽい風体だから、余計に凄味がある。タバコの煙さえもそこを避けて通っているようだ。
それに対するのは……。
「これは私の根幹にかかわる問題ッス! 絶対に譲るわけにはいかないッス!」
小さな体で、精いっぱい虚勢を張っているように見える鈴莉。
いったい何があったんだ!?
ご主人の肩に留まって、2人で顔を見合わせた。
「あの、何が……」
「私が勝ったら、語尾を普通の敬語に戻してもらうッス! コレ(語尾)は私のものッスよぉぉぉ!!」
俺とご主人は同時に溜息をついた。
「なるほど。うん、まぁ、何というか……、がんばって。2人とも」
俺はそういうとご主人の頭の上に戻り、「ろぼゆーき、はっしーん!」と叫んで髪の毛を引っ張って、カスタムスペースにその足を向けさせた。
俺は降りた途端に、土下座した。