武装神姫 ~Je vous aime à jamais~   作:冬沢 紬

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14th Ride

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も今日とて部室に向かう、俺とご主人。ご主人もようやく工具セットを自前で購入し、それっぽくなってきた。

 

「こんにちはー!」

 

「へろーぅ」

 

 今日の挨拶はイングリッシュ。うん、そんな気分だった。他意はないんだ。

 

 私はご主人のポケットから肩に飛び移ると、そのまま近くのテーブルに飛び移った。ぐるりと見回すが、誰もいない。挨拶損だったか!

 

「今日は一番乗りみたいだね、ユカリ」

 

「そうねー。やはりスピードで私たちに勝てる神姫はいないっ!」

 

 くるりと回り、決めポーズ。いやー、歳柄もなく(中の人2X歳)やってしまったけれど、いいね、堂々とこういうのが出来るのって。

 

「あれ? 誰か居るっスか?」

 

 そう言って奥の準備室の扉が開いた。そこには着替え途中の……鈴莉がっ。

 

「うわ、ご、ごめん! 見るつもりじゃ……」

 

 そう言ったが、慌てているのはご主人だけだ。

 

「あはは、そんな慌てなくっていいっスよ。そんなセクシーなカッコじゃないっスから。でもま、着替えてくるっスね」

 

 そう言って奥に引っ込む鈴莉。青いのう、ご主人。これはこう言って楽しむのよっ!

 

 扉が閉まる直前、俺はその中に滑り込む。

 

「りんりー! 私もお着替えー!」

 

 そう叫ぶと鈴莉の少々薄い胸に飛び込む。

 

「きゃっ、くすぐったいっスよ、ユカリ!」

 

 そのままもぞもぞ胸ポケットに移動しようとしたとき……感じる殺気ッ! 私は一瞬でそこから飛びのき、準備室の机の上に着地した。

 

 視界に映るのは……エンネ。少々型落ちしたとはいえ、未だ最新鋭機の貫録は健在か。

 

 しばらく相対して睨み合っていると、エンネが口を開いた。

 

「あなたからは邪な気配しかしないのですっ! この場でたたっ斬らせてもらうのです!」

 

「ふん、大口をたたく……。負けた時、悔しいぞ?」

 

 即座にHUDを立ち上げ、全身の力を抜く。だらんと両肩は垂れ下がったままだ。

 

「武装もしていないただの神姫相手に負けるいわれはないのです」

 

 その瞬間全モーターを駆動してトップスピードに移行。俗に云う、BD(ブーストダッシュ)だ。

 

「その、ただの神姫にテメェは負けるんだよォォォォ!」

 

 相手の間合いは試合を見て見切っている。一瞬しか見ることができなかったが、その間合いは私の目の奥に焼き付いているんだ!

 

 エンネの予備動作を完全に見切り、間合いギリギリで急制動、相手を中心に左へ高速ステップ。人間がこんなことをやったら、グレイアウトどころか……いや、これは少し違うか。とにかく失神どころでは済まない症状になるのは間違いない。

 

 私は無造作に蹴りをたたきこむ。しかしギリギリでそれを防がれるが、ブーストジャンプしながら放ったそれは容易に防げるものではない。

 

 私は勢いを殺さず倒立反転を始動とした、逆方向からの拳打で体勢を崩したエンネをふっ飛ばした。私はためらうことなく追撃を選ぶが、エンネの立ち上がり際の斬り上げで、一瞬足を止めてしまった。だからこその、バックステップ。しかし、私は見誤っていた。エンネの実力を。

 

 間合いが、伸びた。私はぞくっとした感覚に従って右に体を投げる。結果的にいうと、それは正解だった。左腕に引っかかった剣先。その剣――ジークリンデ+ブリュンヒルデは、ブリュンヒルデにちょっとした改造がなされていたのだ。スラスター……。それが、私の左腕の明暗を分けた。

 

 スラスターのブーストにより無理やり広げられた攻撃範囲は、私の左腕をいとも簡単にもぎ取っていった。

 

 その瞬間、走る激痛。

 

「痛ッッッてェェェェェ!!! やってくれたわね、この鉄屑がぁ!」

 

 HUDは赤く染まり自分のアラートをひっきりなしに伝えてくるが、すべてのマイナスインフォをカットする。私はその場に落ちていた釘を手にすると、錆だらけのそれを手の内で弄び、しかと握りしめた。

 

 脇で鈴莉が騒いでいるが、そんな問題ではない。これは、矜持だ。武装神姫として、マスターの名誉のためにも負けることは許されない。

 

 ソウ、ワタシハ、負ケルコトハ許サレナインダ――

 

「ジェノサイッ」

 

 一言だけ残すと、私は青く染まった(・・・・・・)HUDの中、駆け出した。が、遅い。何もかもが遅い。故障のせいだろうか。私の一挙手一投足も、エンネのBDすらも。

 

 

 

 エンネのBDすらも?

 

 

 

 すべてを、理解した。ああ、このカラダは最強だ。私が私を正しく理解してあげれば、いくらでも新たな力を提供してくれる。いくらでも勝つ手段を提示してくれる。

 

 ブーストして加速するエンネのジークリンデを軽く避け、捻り込みながらの突きを首めがけて繰り出す。そして、静止。

 

「私の勝ちね」

 

 エンネはその場で崩れ落ちた。

 

「私の、負けなのですか……」

 

 私はゆっくりと釘を手放すと、意識を手放した。

 

 今は……ただ、……眠いんだ……。

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

「Set up. Checking all device. ……All systems GO. ユカリ、再起動(リブート)します」

 

 よく見知った天井だ。

 

 規則的な天井の梁に、石膏ボードのようなプレート。ええ、部室ですね。

 

「すいませんでしたァァァァ!」

 

 俺は意識が覚醒すると同時に仕出かした事の重大さに気づき、パーフェクツ・ドゲザをしたのだが……足りない。パーフェクツなドゲザには、何かが足りない。

 

「あ、左腕」

 

「『あ、左腕』じゃないでしょ! なんでそんなに冷静なの!?」

 

 ご主人は慌てているが、俺はへらへらと笑った。

 

「いやー、マジすみません。御苦労かけます、ご主人様」

 

 隣に立っていた鈴莉が、本当に済まなそうに謝る。

 

「ウチのエンネが……申し訳ないっス」

 

「ツン!」

 

 エンネだけは謝る気がないようだ。

 

「エンネ!」

 

 対して俺はそんな態度も気にすることはなかった。

 

「いいって。これは元はといえば俺……私が悪いんだし。ね?」

 

 困った顔でご主人も笑う。

 

「とにかく、修理をしないと。余ってる腕パーツってある?」

 

「えーと、私はないっス」

 

 その時、部長たちが部室に入ってきた。

 

「いやー、ついに明日っスね……明日ですね、予選」

 

「そうだね鈴木君、あ、一年の子には伝えたっけ?」

 

 俺たちは顔を見合わせた。

 

「明日?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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