武装神姫 ~Je vous aime à jamais~ 作:冬沢 紬
今日も今日とて部室に向かう、俺とご主人。ご主人もようやく工具セットを自前で購入し、それっぽくなってきた。
「こんにちはー!」
「へろーぅ」
今日の挨拶はイングリッシュ。うん、そんな気分だった。他意はないんだ。
私はご主人のポケットから肩に飛び移ると、そのまま近くのテーブルに飛び移った。ぐるりと見回すが、誰もいない。挨拶損だったか!
「今日は一番乗りみたいだね、ユカリ」
「そうねー。やはりスピードで私たちに勝てる神姫はいないっ!」
くるりと回り、決めポーズ。いやー、歳柄もなく(中の人2X歳)やってしまったけれど、いいね、堂々とこういうのが出来るのって。
「あれ? 誰か居るっスか?」
そう言って奥の準備室の扉が開いた。そこには着替え途中の……鈴莉がっ。
「うわ、ご、ごめん! 見るつもりじゃ……」
そう言ったが、慌てているのはご主人だけだ。
「あはは、そんな慌てなくっていいっスよ。そんなセクシーなカッコじゃないっスから。でもま、着替えてくるっスね」
そう言って奥に引っ込む鈴莉。青いのう、ご主人。これはこう言って楽しむのよっ!
扉が閉まる直前、俺はその中に滑り込む。
「りんりー! 私もお着替えー!」
そう叫ぶと鈴莉の少々薄い胸に飛び込む。
「きゃっ、くすぐったいっスよ、ユカリ!」
そのままもぞもぞ胸ポケットに移動しようとしたとき……感じる殺気ッ! 私は一瞬でそこから飛びのき、準備室の机の上に着地した。
視界に映るのは……エンネ。少々型落ちしたとはいえ、未だ最新鋭機の貫録は健在か。
しばらく相対して睨み合っていると、エンネが口を開いた。
「あなたからは邪な気配しかしないのですっ! この場でたたっ斬らせてもらうのです!」
「ふん、大口をたたく……。負けた時、悔しいぞ?」
即座にHUDを立ち上げ、全身の力を抜く。だらんと両肩は垂れ下がったままだ。
「武装もしていないただの神姫相手に負けるいわれはないのです」
その瞬間全モーターを駆動してトップスピードに移行。俗に云う、BD(ブーストダッシュ)だ。
「その、ただの神姫にテメェは負けるんだよォォォォ!」
相手の間合いは試合を見て見切っている。一瞬しか見ることができなかったが、その間合いは私の目の奥に焼き付いているんだ!
エンネの予備動作を完全に見切り、間合いギリギリで急制動、相手を中心に左へ高速ステップ。人間がこんなことをやったら、グレイアウトどころか……いや、これは少し違うか。とにかく失神どころでは済まない症状になるのは間違いない。
私は無造作に蹴りをたたきこむ。しかしギリギリでそれを防がれるが、ブーストジャンプしながら放ったそれは容易に防げるものではない。
私は勢いを殺さず倒立反転を始動とした、逆方向からの拳打で体勢を崩したエンネをふっ飛ばした。私はためらうことなく追撃を選ぶが、エンネの立ち上がり際の斬り上げで、一瞬足を止めてしまった。だからこその、バックステップ。しかし、私は見誤っていた。エンネの実力を。
間合いが、伸びた。私はぞくっとした感覚に従って右に体を投げる。結果的にいうと、それは正解だった。左腕に引っかかった剣先。その剣――ジークリンデ+ブリュンヒルデは、ブリュンヒルデにちょっとした改造がなされていたのだ。スラスター……。それが、私の左腕の明暗を分けた。
スラスターのブーストにより無理やり広げられた攻撃範囲は、私の左腕をいとも簡単にもぎ取っていった。
その瞬間、走る激痛。
「痛ッッッてェェェェェ!!! やってくれたわね、この鉄屑がぁ!」
HUDは赤く染まり自分のアラートをひっきりなしに伝えてくるが、すべてのマイナスインフォをカットする。私はその場に落ちていた釘を手にすると、錆だらけのそれを手の内で弄び、しかと握りしめた。
脇で鈴莉が騒いでいるが、そんな問題ではない。これは、矜持だ。武装神姫として、マスターの名誉のためにも負けることは許されない。
ソウ、ワタシハ、負ケルコトハ許サレナインダ――
「ジェノサイッ」
一言だけ残すと、私は
エンネのBDすらも?
すべてを、理解した。ああ、このカラダは最強だ。私が私を正しく理解してあげれば、いくらでも新たな力を提供してくれる。いくらでも勝つ手段を提示してくれる。
ブーストして加速するエンネのジークリンデを軽く避け、捻り込みながらの突きを首めがけて繰り出す。そして、静止。
「私の勝ちね」
エンネはその場で崩れ落ちた。
「私の、負けなのですか……」
私はゆっくりと釘を手放すと、意識を手放した。
今は……ただ、……眠いんだ……。
◇ ◇ ◇
「Set up. Checking all device. ……All systems GO. ユカリ、
よく見知った天井だ。
規則的な天井の梁に、石膏ボードのようなプレート。ええ、部室ですね。
「すいませんでしたァァァァ!」
俺は意識が覚醒すると同時に仕出かした事の重大さに気づき、パーフェクツ・ドゲザをしたのだが……足りない。パーフェクツなドゲザには、何かが足りない。
「あ、左腕」
「『あ、左腕』じゃないでしょ! なんでそんなに冷静なの!?」
ご主人は慌てているが、俺はへらへらと笑った。
「いやー、マジすみません。御苦労かけます、ご主人様」
隣に立っていた鈴莉が、本当に済まなそうに謝る。
「ウチのエンネが……申し訳ないっス」
「ツン!」
エンネだけは謝る気がないようだ。
「エンネ!」
対して俺はそんな態度も気にすることはなかった。
「いいって。これは元はといえば俺……私が悪いんだし。ね?」
困った顔でご主人も笑う。
「とにかく、修理をしないと。余ってる腕パーツってある?」
「えーと、私はないっス」
その時、部長たちが部室に入ってきた。
「いやー、ついに明日っスね……明日ですね、予選」
「そうだね鈴木君、あ、一年の子には伝えたっけ?」
俺たちは顔を見合わせた。
「明日?」