武装神姫 ~Je vous aime à jamais~ 作:冬沢 紬
「うーん……こりゃ、左腕の根元から逝ってるねぇ。肩から丸ごと修理だよ」
部長の言葉に、落胆しながらご主人は尋ねた。
「じゃぁ、明日の予選は……?」
「このまま出るしかないねぇ」
「ゲラゲラゲラ」
「なんでユカリはそんなに余裕なの!?」
別に余裕ってわけじゃない。最早負ける気がしないだけだ。あ、それが余裕か。
HUDとあの意識が引き伸びるような感覚さえあれば、大会の優勝も夢ではない……と思う。武術の達人になれば、同じように時間の流れが遅く感じるらしい。
どこかで聞きかじった知識を頭の中で流しながら、私はクレイドルの上に座る。
「ご主人様、とにかく充電を。ちょっと動きすぎたかな」
別にアラートだったり心許なかったりするわけじゃないけれど、電池残量を呼び出してみると少々気になる。
いつもこのクレイドルと接続される感覚が、ゾワゾワして好きじゃないけど、今はなんだかクレイドルな気分なのだ。
「ひゃンッ……。うぁ……」
部長がご主人に告げる。
「これは~、ショップで見てもらった方がいいよ。オリジナルだからどこか変になってるかもしれないし……。正直、ウチの部活じゃあ修理できないかな……」
ご主人は落胆のため息をつく。
「そう、ですか……」
そうなると、お金がなーとか呟くご主人。わかる、わかるぞ! だからそんなときは!
「ご主人様! そんなときは、エアパスタだよ!」
あ、姫沢部長が固まった。
「ゆ、ユカリ……? 聞くけど、エアパスタって……?」
そんなの決まっているだろう。エアーなパスタだ。ふむ、1から説明しようじゃないか。
「まず、お皿が目の前にあります」
「うん、そうだね。それで?」
私は手で「こうっ」と円を描いた。そしてその両脇に手を添える。
「食器がありますね。フォークとスプーン」
ご主人は冷や汗を流しながらそれを見ている。
「熱々のパスタです。これだけじゃあ味気ない」
部長はどこか遠い目をしている。ああ、これは経験者の目だ。鈴莉は……完全に頭にハテナマークを浮かべている。
「お次に、好きなソースをかけます。トマトソース? ホワイトソース? いやいやそれとも季節の山菜?」
意を決したようにご主人が俺に声をかけた。
「そ、それで……?」
「うん! おいしそうなパスタが出来ましたー!」
鈴莉が尋ねる。
「え? でもそれって、普通のパスタじゃ?」
私はニコニコとした笑顔のまま言い放った。
「と、いう空想。さぁ、喰え」
「いや喰えじゃないでしょぉぉぉ!!?」
ばかな! どこに欠点があるというんだ!
「いや、目の前にパスタがあるってことじゃん! 喰うじゃん! ね? ご主人様?」
「いや、無いからね!?」
「もー。いちいち文句が多いご主人様だなぁ」
ご主人は天井を仰いで両手を頭に当てる。そのままうがーっと吼えた。
「あぁもう! どこから突っ込めばいいのか!」
「やだ、ご主人様……。突っ込むなんていやらしい……。キャッ」
ご主人は無言でPCに向かって何かを入力し始める。
「えーと。CSCの初期化の方法はっと」
「サーセンっしたぁ!!」
流れるような、流麗な土下座。今のは決まった。
「はぁ……。まぁ、いいや。それより明日の大会だよ。本当に大丈夫なの?」
「もちろーん。大丈夫だよ。いきなり優勝候補とかに当たらなければ、充分可能性はあるよ! で、明日は何時にどこ集合なのかな?」
部長は復活したのか、ケータイを開きながら言った。
「んーと……そうだね。大会開始が午前10時だから、朝8時に部室集合でいきましょう。あとでメーリス回しとくよ。今日はこれで解散ね。早く寝て明日に備えること!」
本日は鶴の一声で解散となった。各々明日に不安を感じながら……。