武装神姫 ~Je vous aime à jamais~ 作:冬沢 紬
僕は
僕はある決意を胸に、ここ……神姫研究会部室前にいる。
武装神姫――優雅に舞い、勇ましく戦うその姿に惚れたのは、僕が中学生だった時のことだ。
当時、僕は何の目的もなくゲームセンターに通っていた。武装神姫というコンテンツにはその頃はまったく興味が無くて、いつも人が集まっているけど完全に無視して通っていた。
ある時、特に何という理由も無かったのだけれど、僕はいつもは近づかないブースに近づいていったのだ。そこで、見てしまった。
そのとき見たのは確かアーンヴァル型とジルダリア型のバトルだったと思う。かっこよくて美しくて……僕も高校になってアルバイトして、きっと自分だけの神姫を手に入れてやるんだと決意した。
そして2040年春。僕はここにいた。
深呼吸して、少し汚れている『神姫研究会』という札のかかった扉を今一度見つめる。そして、かばんの中にある
これから、夢にまで見ていた神姫との高校生活が、はじまる。一歩前に進み、目の前の扉を掴んで……開けようとしたら、唐突に扉が内側から開いた。
「うおっと! ……おや? 君は新一年生かな?」
言っては悪いが、そう、一言で表すとさえない風体の人がいた。上級生、学年章の色からすると3年生だろうと思う……。
その人はニコニコしながら僕のことを見つめていた。そりゃぁ、もしかしたら入部して後輩になってくれるかもしれない人を見たらニコニコするだろうけど……。この人はなんというか、そういう顔なんだろう。いつも落ち着いてニコニコ笑っているタイプ。
僕はボーっとそんなことを考えていたが、我に返ってあわてて挨拶をした。
「あ、はい! えと、入部希望の1年です。結城 和一っていいます!」
目の前の人は相変わらずニコニコしながら扉を大きく開き、少し脇に移動して僕の通り道を空けた。
「ようこそ、我らが神姫研究会へ。とりあえず中に入って、色々見ていくといいよ」
そういって僕を中に誘ってくれた。
「おっと、自己紹介が遅れたね。俺の名前は
アーンヴァル使い……あの、白くってカッコいいやつか! って、この人部長だったんだ……。
僕は少しおっかなびっくり、そろそろと部室に入っていった。
顔を上げて部室を見渡そうとすると、2対の眼に見つめられているのに気がついた。居た堪れなくなったので少しふりかえり、部長の姫沢先輩を見やる。
僕の目線を『紹介してくれ』と言っていると取ったのか、姫沢部長は僕の方に手を置いて作業中の(驚いたことに、眼は僕のほうを見ながらも正確に手を動かしている!)部員たちに声をかけた。
「ちょっといいかな、みんな。入部希望の1年生だ。名前は……結城 和一君だ。そうだな……まず、自己紹介をしようか」
すると2人とも手を止めて、僕の方に向き直った。
背の高いヒョロッとした先輩――この人は2年だ――が、まず最初に口を開いた。
「お、俺は
次は加賀先輩の向かいに座っている、なんというか……その、神姫をやりそうにない格好の――あのアクセサリーとか、絶対校則違反だと思う――2年生が口を開いた。
「部長~、早速新人ゲットですか! 相変わらず抜け目無いッスね……。俺は紗羅檀使いの
軽そうな見た目に反して、神姫に並々ならぬ愛情を注いでいるらしい。鈴木先輩のカバンから何冊もの神姫関連の書籍が見え隠れしている。
「ホントはあと2人いるんだけどね。いまは居ないみたい」
そう言って後ろから僕を追い越して、部屋の片隅に部長が歩いていく。そしてごそごそと何をか引っ張り出そうとしているようだった。
それを見た2年の先輩2人も急いで手伝いに駆け寄る。
「あー、そうッスね。手っ取り早くデモンストレーションとかいいかも」
「そ、そうだね。で、だ、誰がやるんですか?」
先輩たちがトントン拍子に話を進めていくので、僕は何が何だかわからなかった。でも、何か大掛かりなことをやろうとしているみたいだ。神姫ってきて大型って言うと……まさか!
「先輩が神姫で対戦するんですか!?」
姫沢部長は相変わらずなニコニコ顔をさらに嬉しそうに、わざと区切って言った。
「大・正・解♪」
セッティングを終えたそれは、縦横が2メートル、高さは1メートルもあろうかという巨大な正方形のアクリルケースだった。中にはケースの底に固定された数々の障害物。
そうだ。これはステージだ。先輩たちの手作りの、神姫たちへの手作りのステージなんだ。
「じゃ、早速やろうか。じゃあ俺と……加賀君。りりこ対エレニアでいこうか」
? 誰だろうその、『りりこ』とかって。
「ああ、ごめんね。これ、ウチの姫たちの名前なんだ。結城君も考えておいたほうがいいよ、名前。いざという時に慌てて考えてませんでしたー、なんてなったら神姫がかわいそうでしょ?」
そっか……名前。すっかり忘れてたや……。
「それにね、例えば『アーンヴァルは俺の嫁!』って言ったら、全国のアーンヴァル使いからボコボコにされちゃうんだよね。それも含めて名前をつけてあげるんだ。マスターから姫様への、最初の贈り物だね」
「なるほど。ちゃんとつけてあげないといけませんね……。なにがいいかな……」
「ま、追々考えていけばいいよ。これからデモンストレーションだ。楽しんでほしいな。準備は良いかい? りりこ」
すると、姫沢部長の胸ポケットからピョンと飛び降りた、白い影が1つ。アーンヴァル型の神姫!
その神姫、りりこは右手をグッと握ると、明るい声で返事した。
「はい! マスター。がんばります!」
「紹介するよ。この娘がりりこだ。かわいいでしょ?」
……親バカ、というか神姫バカ……。やっぱりいつもニコニコしていても、部長も神姫バカなんだ……。
「じゃ、じゃあエレニア。頼んだよ」
「うん! 任せておいてよ、お兄!」
シスター姿の神姫、エレニアはそう答えると、加賀先輩の用意したツールボックスに近づいていった。その中に武装が収納されているらしい。カチャカチャと音がして、中からエレニアの身長ほどもありそうな巨大な十字架を取り出した。それを見た鈴木先輩が、うわぁ~と声を出した。
「最初っから
そう言われるほど、凄いものなのだろうか……? 僕には唯の十字架にしか見えなかったので、何がどう凄いのか鈴木先輩に尋ねてみた。
「パニッシャー? なんですか、それ? そんなに凄いんですか?」
苦々しげな顔で、鈴木先輩が答えた。
「ああ……。こいつの自作武器なんだけどな、性能が凄すぎるの何の……。レギュレーションがそもそも公式ギリギリのピーキーな設定の上、一部の制限アリ大会では何回かペケ食らってる曰付だ。グレネードとLMGを搭載している上、近接戦でもハンマーとして使ってきやがる。ネタ元は35年くらい前の漫画な」
そんなものが……すごいなぁ、自作まで!
加賀先輩が鈴木先輩のセリフを引き継いだ。
「こ、公式戦だと偶に使えないから、こんな時じゃないとおおっぴらに使えないんだよ。ち、チート扱いされるし。そんなに悔しいなら、じ、自分でも作ればいいのにさ」
「バカ言うな。お前レベルの武器自作ッカーなんて、そうそういてたまるか!」
そう言うと椅子にどっかりと座り、僕に椅子を勧めてきた。
「ほら、座りな。立ったままじゃつらいだろ?」
「ありがとうございます。それじゃぁ……」
僕は言葉に甘えて、勧められた椅子にかけた。
相変わらずニコニコ顔の部長が、ニヤリと笑ったような気がした。
「さて、じゃあ始めようか……」