武装神姫 ~Je vous aime à jamais~ 作:冬沢 紬
いよいよ、始まる。神姫同士の戦いが、目の前で!
「オールウェポンフリー。その他は公式戦準拠ね。OK?」
「お、OK。いつでもい、行けますよ」
シスター型ハーモニーグレイス“エレニア”。武装はローブに腰部アーマー。ローブの下にはどんな防具をしているのかは見えない。そして何より目に付くのは、右手で支えている巨大な
対するは天使型アーンヴァル“りりこ”。武装はスタンダードなトランシェⅡタイプを装備している。背面のウィングと、巨大な補助ブースターがまず眼を引く。手に持っているのはLC3レーザーライフル。大きさだけならこちらも負けていない。立ったりりこの1.3倍くらいはあるのではないのだろうか。そして両腕のホルダーに装備されたM8ライトセイバー。これはmk2セットからの流用装備だろうか? 元々のトランシェⅡはM4ライトセイバーだった気がする。背面にはSMG……あれはヘルゲートブラスターだろう。
そして、姫沢部長が試合開始のカウントを始めた!
「セット……3……2……1……スタート!」
両者、一斉に距離を取った。一際高い障害物の上に飛び乗ったりりこは、巨大なLC3レーザーライフルを軽々と構えチャージを始める。それを見たエレニアは十字架の長い方をりりこに向けた。
「銃口も無いのに、どうやって……?」
鈴木先輩が、楽しそうに答えた。
「まぁ、見てろって」
次の瞬間、僕は眼を疑った。エレニアの持った十字架が開いたのだ! 正確には、十字架の長い部分が上下に割れ、そこから銃身が姿を現した、といったところだ。
「お兄のために、やられちゃえっ!」
エレニアはそう叫ぶと、りりこを仕留めるべく凶暴なフォルムと化した十字の武器を解き放った。かなり速いサイクルの発射音と共に無数の弾丸がスコールの
しかしりりこは軽く2、3歩ステップして後ろに下がると、自由落下して障害物の陰に隠れてしまった。しかし危ういかな、巨大すぎるレーザーライフルが障害物の陰から見えてしまっている!
エレニアはまだ移動していないことを確認し、しめしめとばかりに殲滅十架を構えた。そして高速で回りこむと同時に殲滅十架の全火力を開放した。
そこには……無残な姿のみが残されていた。
それはLC3レーザーライフルのみ、だったけれど。
「ど、どこに……っ! う、うわぁぁぁ!」
突如上空から現れたりりこが、ヘルゲートブラスターをフルオートで発射しながら落ちてきたのだ。判定はもちろんりりこの勝ちだった。
「ごめんなさい、お兄……」
「あちゃー、や、やられちゃったか……。仕方ないよ、な、なんてったって部長が相手なんだし、久しぶりの殲滅十架だっただろ?」
一方、りりこは対照的に無邪気な笑顔を見せていた。
「やりました、マスター! りりこ、えらいですか?」
「うんうん。えらいし可愛いしカッコいいし、もう文句なしだね!」
……神姫バカ。
でも、うらやましい。僕も早く自分の神姫を動かしたい!
一通り神姫と
「さて……案外早く決着ついちゃったけど、どうだった? もう1戦見たい?」
うーん、もう1戦見たい気もするけど、それよりも……。
「すごく面白かったんです! ですけど、その……早く僕も神姫が欲しくって!」
すると姫沢部長が少し難しい顔をした。どうしたんだろうか。
鈴木先輩も加賀先輩も、ちょっと申し訳なさそうな、何かを堪えるような表情をしている。
なんだか妙に怖くなったので、思い切って聞いてみることにした。
「な、なんでしょうか……? 何かありましたか?」
ほほをポリポリと掻きながら、姫沢先輩が申し訳なさそうなニコニコ顔になった。
「えーとね、神姫の値段、知ってる? 部での神姫ってのは無いから、各自で買わなきゃならないんだ……」
な、なんだ……そんなことか。それならもう、たぶん解決済みだ。
「大丈夫です、僕、神姫持ってるんです」
そういって、僕は鞄を見た。
部長たちはよくわからない、といった表情を見せる。
「さっき神姫が欲しいって言ってたけれど……。あるんでしょ? ひょっとして、やり方がわからない?」
その通りなんだけど……微妙に違うんだなぁ。
「はい、そうなんです。でもちょっと違って……本体は、家の物置の中から見つけたんです。だから周辺機器とかわからなくて……」
鈴木先輩がなるほどねー、と何回かうなずいた。
「じゃ、OSとかさえあればいいな。それなら話はまぁ、……あ、そうだ。CSCとかも買ってこなきゃならないんだよな?」
確かにね、と姫沢部長が同意する。
「CSC? って、なんですかそれ……?」
僕の質問に加賀先輩が解説してくれた。
「CSCってのは、し、神姫の性格を決定付けるものなんだよ。こ、攻撃と回避にステータス振りたいとか……。ほ、ほら。こういうの」
そういって見せてくれたそれは、綺麗に輝く宝玉みたいなものだった。
あったかな、そんなの……。もしかしたら、まだ見てない付属品ケースにあったかも。
とりあえず神姫を見せて欲しいという先輩たちの要望もあって、僕は神姫を取り出した。
しかし、先輩たちの反応は芳しくなかった。
……いや、寧ろ驚愕している、といった風だろう。
「な、なんだこれ……見たこと無いぞ!? 赤い素体ってことは……ランサメントみたいだけどそんなはずないし、アークでもない……あと全体的に赤いやつってあったか?」
「べ、紅緒」
「いやいや、あれの素体は黒でしょ……」
先輩同士で意見を出し合うのに、全く僕はついていけない。
やがて先輩の話がまとまったようだった。
「結論。これはオリジナルの神姫だ。他に付属のパーツとか紙とか無かった?」
慌てて僕はその神姫と一緒に物置の中に眠っていたケースを取り出した。
「おお、ふむふむ……。あ、ここが開いて。これが手引書ね……」
ものの数秒で僕が見つけられなかった説明書を見つけてしまった先輩たち。そして、僕の神姫の名前が判明した。
「これは……こう書いてある。『赤鬼型・ディルージュ』って」
赤鬼型……なんだか強そうだ。かっこいいし!
「お……ご丁寧に、こんな所にCSCまであったぜ! うーん、丁度セットできる限界数、3個か。説明書にはこれを装備して、他のCSCは絶対に使用するなって書いてあるな」
「なら大人しく従うべきだね。オリジナルはとかくデリケートなものだから……」
「で、でもなんだか、もうCSCセットしてあるけど?」
「じゃ、これ予備かな……?」
先輩の助言であれよあれよと神姫のセットアップが進む。クレイドル(※ゆりかご状の、神姫用充電器)で初期充電して、PCから神姫のセッティングをしていく。
「これで、あとは起動でエンターするだけだよ。よくできました! これで結城君も神姫マスターの仲間入りだね」
「しかしオリジナル神姫か、いいなぁ……」
「だ、誰もが憧れる境地だよね」
起動しようとすると、姫沢部長が僕に訊ねた。
「そういえば、名前はもう決まっているの?」
もう決まっている。これしかない、という名前が。
「はい。決めました。この神姫と僕が出会った偶然……それを記念して、『ユカリ』にしようと思います」
そして、僕はエンターを押した。