武装神姫 ~Je vous aime à jamais~ 作:冬沢 紬
「な……、何だこれええぇぇぇぇぇ!!」
転生して第一声がそれだった。
だって考えてみろ!? いきなり小さな人形になってるんだぞ! いやまぁ、確かにあの神野郎は約束を果たしたろう。でも……これは……。
俺が混乱していると、目の前の入道が俺に話しかけてきた。
「やぁ、始めまして。僕がキミのマスター、結城 和一だよ。よろしくね」
え? いやま、神姫として起動したからにはマスターがいるだろうさ。だからってな、何なんだよ! 納得以前に俺は混乱の極みだってのに!
「い、一体俺はどうなって……」
すると、脇のニコニコした顔のやつが結城と名乗った自称・俺のマスターに話しかけた。
「あ~、こりゃたぶん前のマスターの設定が残ってるね……。そうすると戦闘データの蓄積はあるけど、フォーマットしとく?」
ふぉ、フォーマット!?
「や、やめてくれ! そんなことをしたら俺が死んでしまうじゃないか!」
冗談じゃない、せっかく転生までして永らえた命、こんなところで死んでたまるか!
俺はあわてて飛び起きて、バックステップで距離を取った。しかし思わぬほどの体躯の反応に、バランスを崩して尻餅をついてしまった。
「いっててて……。なんなんだ、これは! うまく体が動かない……」
再びニコニコ顔の男が口を開いた。
「あー、それは仕方ないよ。だって久しぶりの起動でしょ? そしたら各部の磨耗とか油切れとか……」
いや、そういうのじゃないと思う。単純に体の操作に慣れていないだけだ。だって、両手両足の駆動部分自体は滑らかに動く。問題があるのは
しばらくグーパーグーパーしていたらだんだんと感覚にも慣れてきた。すると、少し周りの状況も見えてきた。
……で、この冴えない高校生が俺のマスターだって?
「して結城とやら」
「な、なぁに……?」
妙に緊張しているようだ。俺も緊張してしまうじゃないか。
俺は努めてリラックスしたように、クレイドル(※神姫用充電器。PCとの接続にも使う)に寝そべって話し始めた。
「ここは、どこだ? そして今はいつだ?」
「
そんなに……俺が生きていた頃から30年も後じゃないか……。一応普通の高校らしい。てか何だ、神姫研究会って。
とにかく、と頭を振って、今最も気になっていることを聞いた。
「俺は、誰だ」
「キミは赤鬼型神姫“ディルージュ”。名前は“ユカリ”だよ」
ユカリ……。元々の俺の名前と同じだ。突然名前を呼ばれた時に反応できないってことはなさそうだけれど、何の偶然だろうか。
そして赤鬼型神姫“ディルージュ”……。これは俺が自分で作っていた、オリジナル神姫だ。何の因果か、ここまで続くと流石に偶然じゃあないだろう。おそらくあのいけ好かない神とやらが、粋な取り計らいというやつでもやったに違いない。
ああ、腹が立つ。
本来ならば俺がマスターになって、姫たちに囲まれてきゃいきゃいと黄色い声に包まれながら、ステキ神姫ライフを送る筈だったろうに!
そう思うと、目の前でマスターだと自称してヌボーっとした笑みを浮かべているこいつが、急に憎らしく見えてくるから人間というのは不思議なものだ。
そうやって怒りを燃料として怒りをさらに増幅させていく悪循環の輪に水を浴びせたのは、
「えっと……、ユカリ? 大丈夫? その、もしよければ早速バトルしたいんだけど……」
「バトル、だと……?」
頭がグルグルしていた俺は、ためていたものをつい口に出してしまった。
「あんたのことは、まだマスターと認めたわけじゃないんだからな!」
立ち上がり、俺はビシッと結城なんちゃらに小さな指を突きつけた。
自称『ご主人』は困った顔をして、後ろのメンバーに相談をした。というか自称『ご主人』、もしかしてお前が一番ヒエラルキーが低いのか。
「どうしましょう……。PCからマスター設定で権限を上書きとか……?」
それにヒョロッとした不健康そうな男が応じる。
「そ、それより初期化して1から設定したほうが早いような気がするけど」
初期化!? 冗談じゃない! さっき俺がやめろって言ったのを聞いていなかったのか、こいつは!
俺は慌ててヒョロ男を遮った。
「ま、待て待て待て! 初期化とか冗談じゃない! 落ち着け、な? Be Coolだ。Love & Peaceだ」
慌てすぎて、自分でも支離滅裂だとわかるほど。
ヒョロ男は「でもな」と話を再開した。
「た、確かに戦闘データはもったいないけど、そうは言っても言うこと聞かないんじゃ、しょ、しょうがないしな」
反射だった。脊髄反射で口に出していた。そうでなければ、生存本能が口を操っていたのだろう。
「わ、わかった! 言うことを聞く。結城とやら、お前の言うことは何でも聞いてやる。だから、な? フォーマットとか、絶っ対やめてくれ……」
そう哀願して、机についていた自称……いや、ご主人の手にすがりつく。
俺の中には恐怖しかなかった。恥や尊厳といったものを放り捨ててでもしないと、本当に取り返しのつかないことになる。そう、死ぬのだ。他の神姫たちはどう思っているのかはわからない。しかし、少なくとも俺は、俺の心は人間なのだ。一度目は神とやらの気まぐれで助かった。しかし二度目がある保障は全く無い。いや、その“一度目”すらも普通の人は手にすることができず死んでいく。俺は例外中の例外もいいところ、本当に幸運だったのだ。
二度目は、無い……。
「だから……だから、お願いだ……。死にたくない! 俺はまだ死にたくないんだ! 頼む、何でもするからフォーマットなんて……」
泣きそうになりながらご主人を見上げる。
ご主人はにっこり笑うと、俺にやさしく語りかけた。
「じゃあ、3つ、お願いね?」
◇ ◇ ◇
俺はノートPCの隅っこでシクシクと泣いていた。
「
それというのも、さっき言質を取られてしまった、『何でも言うことを聞く』が原因だった。ならばとばかりに結城のヤロ……ご、ご主人様は俺に無茶なことを言い出しやがった。
約束させられたのは以下の3つ。
1・結城 和一のことを“ご主人様”と呼ぶこと
2・バトルには機会がある限り積極的に参加すること
3・女の子らしい言葉遣いをすること
帰りたい……。
独り落ち込む俺を尻目に、軽い足取りでバトルのセッティングをしているご主人。今は何やら回りの人のお古の武装を借りているようだった。
一段落したのだろうか、くるりと振り返るとまるで穢れなど知らないような笑みを向けた。
「これ、使って!」
手渡されたのは、ずいぶんと使い古されたハンドガンとアサルトライフル。ハンドガンの名前は何だったか……。そこらのサードパーティー製のものだろう。見たことの無いリボルバーだ。
アサルトライフルはジャマダハル。AKによく似た量産型の銃である。
何か大切なものが抜け落ちたかのような顔で、俺は呟いた。
「リアパーツは? アーマーは? ヘッドセンサーは……?」
ずっと同じ笑みのまま、ご主人は一言答えた。
「ごめんね?」
ご、ごめんねって何だ、おい! バトルしたいならせめてアーマーくらいは用意してくれ! 素体のままどうにかするなんて、夢のまた夢だろう!?
「ご、ご主人……様、頭に蛆か何か湧いちゃった……の?」
そう言いながら渋々と専用のバトルフィールドに一足先に入って武器の状態を確認する。
まずはリボルバー。こちらはジャムが絶対に起こらない構造なので、あまり心配しなくてもいいと思う。
ガガガガガガゥン……
派手な音と共に銃弾は吸い込まれるようにして目標のバリケードへと吸い込まれていった。
なんだったか、こういうのは皆中とでもいうのだろうか。……違うか。
特に問題も無い。標準的な……って待て。標準的だと? なぜ標準的だと分かるんだ。俺はこっちに来て、武器を触ったのは初めてだし、もとより拳銃など触れたことも無い。ただ、わかるのだ。体に染み付いたとでもいうべきだろうか、よく馴染む。
こっちのジャマダハルにしてもそうだ。流れるようにマガジンの装填からコッキング、そしてセレクターの操作。自然に構え、最も反動を御し易い姿勢で射撃を始める。
この銃には3点バーストなど付いていないので、指切りしか方法が無い。しかし俺は正確に3発ずつ刻んでいく。まるで熟練した兵士のようだ。
30発の弾倉を丸ごと撃ちつくすと、俺はフィールドから出た。
「ね、ね! どうだった?」
早速ご主人が俺に簡素王を求める。
「悪くはない。特に問題も無く使いこなせそうだ。ただ、早いところ専用装備が欲しいところだな」
顔を上げてご主人を見上げると、何故か怒った顔をしていた。何でだ。
「言葉遣い! 直さないとだめだよ? 今のマスターは僕なんだから!」
俺はがっくりと膝を付いた。そうだった……。そういう約束だったな……。だめだ、細胞レベルで拒絶しているからか、油断するとすぐにもとの口調に戻ってしまう。
「えーと、その……ご、ごめんなさい。次からはしっかり気をつけるから……」
それで今のところは納得したのか、気をつけてね? と念を押されただけで済んだ。よかった……。