武装神姫 ~Je vous aime à jamais~ 作:冬沢 紬
俺は手鏡をしげしげと見つめていた。これが……今の俺。
ボディは
「あ、いいね! 今の女の子っぽい!」
その場で俺は落ち込んだ。
鏡の前で崩れ落ちている俺に、さらに追い討ちをかけるかのような影が迫った。ご主人だ……。それはもう、本当に嬉しそうな満面の笑みで俺を見ている。
俺はもう、それを見ているだけで大体何させられるのかを感じ取った。
俺の口からは、怒涛の勢いで拒絶の言葉があふれ出る。
「いや、無理無理無理無理! バトルとか無理! せめてリアパーツを!」
そう言って俺専用のリアパーツを見やるが、それに限らず専用武装は軒並み閉店状態だった。仕方ないので、せめて剣だけは欲しいとM8ライトセイバーを2本借り受けた。
しかしそれだけだと常時展開していないといけないから、鞘を作ってもらうことにした。参考にしたのは某ストラーフの漫画。背面に安定するように装備すると、リボルバーとジャマダハルも装備した。ジャマダハルには無理を言って単発式グレネードランチャーを付けて貰った。ちなみにリボルバーは元からホルスターがあった。
「しかし……こんな装備で勝てるのか……」
「女・の・子!」
ダメ出しを食らった。
「ご、ごめんね、ご主人様……?」
「うん! よしよし、それじゃご褒美に、胸部アーマーとレッグシールドをプレゼントだよ」
屈辱ッ!
「それで、お……私の対戦相手って、誰だ……誰なの?」
「うふふ、それはこの私です!」
俺の目の前にやたらと気位が高そうな、薄紫色の髪をした神姫が飛び降りてきた。
俺が相手のデータを思い出そうとする前に、勝手に俺の中で相手神姫のデータが呼び出されていく。
ヴァイオリン型MMS紗羅檀。主に音響系の武器を使用している場合が多い。遠距離線を主眼に運用されるのが常。しかし近接にしても、長刀とナイフを使い分けてくるため死角は少ない。
なんだ……これは……頭の中で戦い方がシミュレートされていく……。こんな風に戦闘を進めればいいのか? そうすれば俺は勝てるのか?
「俺の神姫で、名前は『ミーリス』っていうんだ。よろしくな!」
鈴木がご主人のことをニヤリと見遣る。
それを尻目に俺は戸惑いながら、装備を手にバトルステージに入っていく。
「がんばれ、ユカリ! 負けないでね!」
負けたら……どうなるんだろう、俺。
寒気がする中、姫沢部長の声によってバトルが始まった――
◇ ◇ ◇
長期戦は確実に不利。ゆえに短期決戦しかない。
バトル経験の少ない俺は長期戦になるほど体力(今の俺にあるとすればだが)を消耗してしまう。その上俺の手が読まれやすくなる危険がある。戦闘での駆け引きというのに全く不慣れな俺は、どうにかこの差を埋めねばならない。
どうにかできるとしたら、機動力だろう。俺はハンドガンを抜くと6発をほぼタイムラグなしで撃ち込みつつ、障害物の中へと駆け込んだ。バリケード戦でしか俺の機動力は発揮できない。正面からの撃ち合いには圧倒的に火力が足り無すぎる。
パッと見たところ、相手はアイゼンイーゲルを装備していたように思う。おそらく障害物を破壊しながら制圧する戦法だろう。ほら、破砕音が聞こえてきた。
そうなると、逆に中央広場は手透きになる。俺は中央広場を一気に横断して相手の背面を取る作戦に出た。
しかし、敵をこちらに引きつけておかなければならない。相手も馬鹿じゃないだろうから、背後も警戒するだろう。そこで生きてくるのが単発式グレネードランチャーだ。
少々危険な作戦だが、恐らくこれが成功すれば大なり小なりダメージが行くはず。大ならよし、小なら警戒しだしたところをゲリラ戦法で徹底的に引っ掻き回してやるまでだ。
考えている間にもジャマダハルで3点バーストを使い応射し、常に応戦の意思があることを確認させ続ける。
俺は仰角で単発式グレネードランチャーを放ち、弾切れになったジャマダハルを投げ捨てた。それと同時に、もう走り出している。
リアパーツも無いから推進に加速できるものなど何も無い。スラスターなど付いていないから急制動をかけることもできない。頼れるのは、この両の足だけ。
視界が溶けていく。あの目標まであと少し。
だったんだ。そのときは。
ガガガガガッ っという激しい銃撃音と共に足元が弾ける。
「そんな程度の陽動で目を濁らせるほど、私の瞳はビー玉じゃないつもりですけれど?」
ミーリスのアイゼンイーゲルは俺をまっすぐに捕らえていた。
やはり素人考えだったか……。しかし、やばい。圧倒的に、不利。近くに遮蔽物があるとはいえ、一息で飛び込むのは不可能。しかも飛び込んだところでそれごと銃撃されれば一巻の終わりだ。
考えろ……絶対に何か手はあるはず……。
相手の動きに集中して……。
――システ………起………――
何かが、見えた気がした。
俺は、動かなかった。動けなかったわけではない。中らないと判ったのだ。相手の視線、性格、銃口、トリガー……。全てが遅い流れの中で、見えたのだ。そして直感した。これは、中らないと。
事実、俺が隠れようかと考えていた障害物が消し飛んだだけで、銃弾は流れ弾にしても飛んでくることは無かった。
「あらあら……恐怖のあまり動けなかったんですか? まぁ、仕方ありませんよね、ガトリングで狙われれば……。私とてヒヤリとしますし」
言わせておけばいい。俺は今、最高にイイ気分なんだ。脳内にあらゆる情報があふれかえる。それを俺は冷静に超スピードで並列処理していく。
暑い……でも、冷たい……。
思考が加速する。俺は、ユカリで、ユカリは私。
ドクンと、何かが奮えた気がした。
そして、全てが繋がった。
――システム・ディルージュ、起動――
私は前方に飛び出していた。一瞬で距離を詰め、右前方へと飛び込んで銃撃を回避。そのまま銃身を思いっきり蹴り飛ばしてやる。するとそれは綺麗にミーリスの手から離れ、全壊判定が下った。
私は止まらない。M8ライトセイバーを展開すると同時に突き出し、リアパーツごと串刺しにして破壊する。
もう既に用は済んだとばかりに、私は三角跳びの要領で障害物の間を駆け上がり、障害物の間に身を潜めた。しかし私の後姿はしっかり捕らえられていたようだ。今度はアルヴォPDW9を構えたミーリスが障害物の陰から現れる。私は横っ飛びにそれをかわして、障害物から障害物へと駆け抜けた。
弾切れを誘発するために姿を現しては物陰に飛び込むという行動パターンを続ける。第一、私には遠距離武器など無いんだもの、撃ち合いなんてできるわけが無い。
リアパーツが無い私は、壁を蹴って移動することで無理やり三次元的な機動を獲得している。だから、足場が破壊されてしまえば近づくことすらままならないのに……。未だ解決策は見えない。
一体いつになったらミーリスのSMGは弾切れを起こすの!? さっきからずっと撃ちっぱなしじゃない!
私は悲鳴を上げそうになりながら回避を続けるが、もう限界だった。集中力が切れ、足がすべる。
たった一瞬姿勢を崩しただけだった。しかしそれは永遠にも等しい隙。ミーリスは満面の笑みで私に銃口を向けて――
ガキンッ
鋭い金属の音と共にホールドオープンしたまま、銃弾はいつまで経っても出なかった。
「「弾切れっ!?」」
お互いが認識すると同時に剣を展開し、同時に吶喊する。
「っ、! いい加減に、負けを認めたらどうですか!?」
神経を研ぎ澄ましている私にとって、会話できるほどの余裕は無い。反射的に返事をするだけだ。
「そっち……こそ!」
ミーリスは右手にボウソード:ノートゥング、そして左手にはボウナイフ:リジルを構えて向かってくる。対する私はM8ライトセイバーが一振り。
私は剣道の形三段目の「突き」をそのまま再現した。地を這うような剣先は燕の如くその身を跳ね上げる。
相手の形など関係ない。不可避の切っ先が確実に喉元を抉る……が、神姫の反応速度ならばそれすらも対処が可能だ。ボウナイフ:リジルの剣腹を使って紙一重、防がれた。
しかしそれすらも想定の範囲内。体の勢いは殺さずに手の内でM8ライトセイバーを逆手に握り返すと、相手の右足元に潜り込んだ。
そこは既に敵の死角。間合いを潰されては何もできない。
私はM8ライトセイバーを振った――
◇ ◇ ◇
「いやー、すごかったね! ユカリいい娘いい娘~」
「頭をなでる……ないでよ! 別にお……私は勝とうと思って戦ったわけじゃないんだから! あくまで慣らしだから、そんな褒められることじゃ……」
それにしても、あの感覚は何だったんだろうか。しつこく頭をなで続けるご主人を避けながら、俺はそのことだけを考え続けていた。