武装神姫 ~Je vous aime à jamais~ 作:冬沢 紬
ご主人のポケットの中。俺は、強制シャットダウンされていた。
――というのも。
◇ ◇ ◇
自宅にて。
「ねーねーご主人様聞いてよ聞いてよ!」
「な、何? ユカリ……」
俺はその場でクルリと1回転すると、買い物袋を指差した。
「フライングユニットなのだ!」
「……うん、知ってるからね?」
俺はわかってないなーと肩をすくめ、首を数度横に振った。
買ってきた袋からパッケージを出して、危うげなくそれを持ち上げると、そのままクルクルと踊りだした。
「あっ、ちょっ! 危ないよ!」
「これがッ! おどらずにッ! いられるかァァァァァァァ!!」
フゥッ、と息をつき得意げにご主人を見上げると、見たこともない形相のご主人が立っていた。
俺は額を机の天板にこすり付けていた。
◇ ◇ ◇
キュゥウン!
「Set up. Checking all device. ……All systems GO. ユカリ、
見知らぬ天井だ。
規則的な天井の梁に、石膏ボードのようなプレート。……学校じゃないか。
そして俺は、クラス中の生徒に囲まれていた。
「……なんぞ?」
俺が上半身を起こしたら、俺は女の子の手の中に移っていた。
……事情を説明してもらおうか、ご主人。
「かわいー!」
「ゆかりちゃん? ゆかりちゃん!」
「私も欲しいなぁ……」
あまりの重圧に、うあー! っとなった。つまりは見世物パンダだろう!? そもそも神姫なんて見慣れて……って意外と高額だからそうでもないのか?
とにかく俺を握りしめる女子生徒の中で、暴れわめいた。
「それはダメ! ギュッと握っちゃダメ! 『みぎぃっ』ってなる! ご主人様っ! ご主人様はいずこ!?」
救出されたのは担任が教室に入ってきてからだった。
そのままの流れで、俺はご主人の胸ポケットに入ったまま、高校の授業を受けていた。本当はカバンに入っていなくてはならないらしいが、そんな窮屈なところにいられるか。かといって離れるには危険が多い。小さい体というのは意外と恐怖心が大きくなるも
ので。
そんなわけで、俺もボーっと例題を眺めていた。
「ご主人様ってバカなの? 常に脳みそがミキサー状態なんでしょ? オ……ワタシにだって分かるのに」
「な、なんで神姫が……ユカリが分かるの!?」
まぁそりゃぁ、曲がりなりにも大学生やってましたから……。高校一年レベルだったらわからなくはないさ。
「ほら、『何が起こったんだ!?』は英訳すると『What’s the f#%kin’ shit on me!?』じゃないの? で、こっちの『ちゃんと運転してください』は『Did you bought your license!?』でしょ? 『彼女は私の親友です』。これは『She is my bitch』ねー」
「本当に合ってるのかなぁ、これ……」
「結城君。では、例題を英訳してください」
早速指名されたようなので、俺は得意げにご主人を見た。自信満々とは正にこのこと。
「えーと……」
英語の先生(外国人)の悲鳴がこだました。
◇ ◇ ◇
放課後。俺とご主人は部室に向かっていた。
「ユカリ……。合ってるんだけどね? 合ってはいたんだけどね?」
「ならいいじゃない」
「授業初日から目をつけられたよ!?」
目立つのは基本的にいいことだ。俺もご主人がパンキッシュでアナーキズム的なアヴァンギャルディストだと鼻が高い。
「せめてもの恩返し……受け取って♪」
内心、爆笑。確信犯(←誤用)的な俺。
とにかく、俺は早く空を飛びたいのだ。翼が4枚とかロマン過ぎる。部室の扉をくぐる時にはもう、「早く出して!」とポカポカご主人を叩いていた。
「こんにちは!」
ご主人も張り切っているんだろう。無理やり衝動を堪えたような挨拶だ、不恰好だぞご主人。……でも、何もワクワクしているのは俺ばかりじゃないということだ。
中にいた部長と鈴木がそれに応じて挨拶を返す。それを聞きながら、さっそくとばかりにカバンからウェスペリオー型の武装セット――本体は無い――を取り出した。
「おお!」
パッケージを開けて武装のセッティングを始めようとした。そこで俺は待ったの声をかけた。
「セッティングやる! オ……わたしがやる! クレイドルに接続して!」
ご主人は渋々といった感じで、「まぁ、ユカリなら……」とか言いながらクレイドルの準備をした。ごちゃごちゃ言わんと、最初っからそうしていればいいのよ!
俺はセットアップ用のディスクをノートPCに放り込むと、勢いよくクレイドルに座り込んでセッティングを開始した。
できる、とわかったのだ。どうしてとか、理屈じゃない。ウィングの開閉速度から噴射口の調節、武器レスポンスの調整、あらゆる項目が俺の脳内で広がり、処理されては消えていく。イメージ的には、多重立体型HUD(Head-Up Display)だろう。
俺は「終わった!」と叫ぶと、ご主人に接続を要求した。こればかりは自分ひとりじゃできない。
そこで、部長たちが固まっているのに気付いた。
「ユカリ……ちゃん? どうしてできるの、そんなこと。普通クレイドルから神姫が数値設定をしたって話は聞かないよ?」
何!?
「できるものはできるんだから、しょうがない……でしょ!」
俺は初めて知ったことにびくびくしながら、自分の中身は人間だからなぁとか考えていた。
部の2人は自作機だからかなぁ……? とか相談していた。廃棄処分とか……ないよね?
◇ ◇ ◇
俺は机の端に立っていた。下にはマットが敷いてある。背中には丸ごと巨大スラスターと化した“テュフォン(以後スラスター)”。これで機動力を得る。そして翼基部のブースターで基本的な推進力を得る。そして“ヴェルテクス”をもう一個ばら売りしていた“テュフォン”に接続、“ヴェントス”を引き金として背面に直接接続された巨大ライフル2挺とした。ミサイルポッド“ニンブス”も“テュフォン”上部に接続し、あらゆる角度から撃てるようにしてある。
近接武装は鉤爪状の“カルクス”を両腕に装備している。まぁ、おまけみたいなものだ。基本的に遠距離から戦う俺は、最初は近接武器なんぞ要らんわ! と言っていたが、次第に不安になってきた。それでとりあえずの接続をしたのだ。
そして今。飛翔の時ッ!
「忍法ッ! アイキャンフライインザスカイオブザワールドひゃっほーう!」
「忍法!?」
俺はご主人を無視して飛び出した。
すごいスピードだ! これは限界まで出したらだれも追えないんじゃないだろうか。2枚目の翼を展開、滑空に入る。
空気が流れていく。足元には何もないにもかかわらず、俺は今……今!
すばらしい。飛ぶとはこういうことだったのか。何物からも解放された、極限までの自由!
俺は背面からヴェルテクスを展開、トリガーを握り、滑空状態で部屋を飛び回りながら机の上にあった的用のボール紙を狙い撃つ。俺の脳内には両の角から送られた情報がHUDとして展開されている。
ティティティ……、という音とともにすべてをロックオン、5つとも2秒もかからずに沈めた。その後、ホバリング体勢で空中に制止した。
どうだご主人! すごいだろ!