武装神姫 ~Je vous aime à jamais~   作:冬沢 紬

8 / 15
8th Ride

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ご主人のポケットの中。俺は、強制シャットダウンされていた。

 

 ――というのも。

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 自宅にて。

 

「ねーねーご主人様聞いてよ聞いてよ!」

 

「な、何? ユカリ……」

 

 俺はその場でクルリと1回転すると、買い物袋を指差した。

 

「フライングユニットなのだ!」

 

「……うん、知ってるからね?」

 

 俺はわかってないなーと肩をすくめ、首を数度横に振った。

 

 買ってきた袋からパッケージを出して、危うげなくそれを持ち上げると、そのままクルクルと踊りだした。

 

「あっ、ちょっ! 危ないよ!」

 

「これがッ! おどらずにッ! いられるかァァァァァァァ!!」

 

 フゥッ、と息をつき得意げにご主人を見上げると、見たこともない形相のご主人が立っていた。

 

 俺は額を机の天板にこすり付けていた。

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 キュゥウン!

 

「Set up. Checking all device. ……All systems GO. ユカリ、再起動(リブート)します」

 

 見知らぬ天井だ。

 

 

 規則的な天井の梁に、石膏ボードのようなプレート。……学校じゃないか。

 

 そして俺は、クラス中の生徒に囲まれていた。

 

「……なんぞ?」

 

 俺が上半身を起こしたら、俺は女の子の手の中に移っていた。

 

 ……事情を説明してもらおうか、ご主人。

 

「かわいー!」

 

「ゆかりちゃん? ゆかりちゃん!」

 

「私も欲しいなぁ……」

 

 あまりの重圧に、うあー! っとなった。つまりは見世物パンダだろう!? そもそも神姫なんて見慣れて……って意外と高額だからそうでもないのか?

 

 とにかく俺を握りしめる女子生徒の中で、暴れわめいた。

 

「それはダメ! ギュッと握っちゃダメ! 『みぎぃっ』ってなる! ご主人様っ! ご主人様はいずこ!?」

 

 救出されたのは担任が教室に入ってきてからだった。

 

 そのままの流れで、俺はご主人の胸ポケットに入ったまま、高校の授業を受けていた。本当はカバンに入っていなくてはならないらしいが、そんな窮屈なところにいられるか。かといって離れるには危険が多い。小さい体というのは意外と恐怖心が大きくなるも

ので。

 

 そんなわけで、俺もボーっと例題を眺めていた。

 

「ご主人様ってバカなの? 常に脳みそがミキサー状態なんでしょ? オ……ワタシにだって分かるのに」

 

「な、なんで神姫が……ユカリが分かるの!?」

 

 まぁそりゃぁ、曲がりなりにも大学生やってましたから……。高校一年レベルだったらわからなくはないさ。

 

「ほら、『何が起こったんだ!?』は英訳すると『What’s the f#%kin’ shit on me!?』じゃないの? で、こっちの『ちゃんと運転してください』は『Did you bought your license!?』でしょ? 『彼女は私の親友です』。これは『She is my bitch』ねー」

 

「本当に合ってるのかなぁ、これ……」

 

「結城君。では、例題を英訳してください」

 

 早速指名されたようなので、俺は得意げにご主人を見た。自信満々とは正にこのこと。

 

「えーと……」

 

 英語の先生(外国人)の悲鳴がこだました。

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 放課後。俺とご主人は部室に向かっていた。

 

「ユカリ……。合ってるんだけどね? 合ってはいたんだけどね?」

 

「ならいいじゃない」

 

「授業初日から目をつけられたよ!?」

 

 目立つのは基本的にいいことだ。俺もご主人がパンキッシュでアナーキズム的なアヴァンギャルディストだと鼻が高い。

 

「せめてもの恩返し……受け取って♪」

 

 内心、爆笑。確信犯(←誤用)的な俺。

 

 とにかく、俺は早く空を飛びたいのだ。翼が4枚とかロマン過ぎる。部室の扉をくぐる時にはもう、「早く出して!」とポカポカご主人を叩いていた。

 

「こんにちは!」

 

 ご主人も張り切っているんだろう。無理やり衝動を堪えたような挨拶だ、不恰好だぞご主人。……でも、何もワクワクしているのは俺ばかりじゃないということだ。

 

 中にいた部長と鈴木がそれに応じて挨拶を返す。それを聞きながら、さっそくとばかりにカバンからウェスペリオー型の武装セット――本体は無い――を取り出した。

 

「おお!」

 

 パッケージを開けて武装のセッティングを始めようとした。そこで俺は待ったの声をかけた。

 

「セッティングやる! オ……わたしがやる! クレイドルに接続して!」

 

 ご主人は渋々といった感じで、「まぁ、ユカリなら……」とか言いながらクレイドルの準備をした。ごちゃごちゃ言わんと、最初っからそうしていればいいのよ!

 

 俺はセットアップ用のディスクをノートPCに放り込むと、勢いよくクレイドルに座り込んでセッティングを開始した。

 

 できる、とわかったのだ。どうしてとか、理屈じゃない。ウィングの開閉速度から噴射口の調節、武器レスポンスの調整、あらゆる項目が俺の脳内で広がり、処理されては消えていく。イメージ的には、多重立体型HUD(Head-Up Display)だろう。

 

 俺は「終わった!」と叫ぶと、ご主人に接続を要求した。こればかりは自分ひとりじゃできない。

 

 そこで、部長たちが固まっているのに気付いた。

 

「ユカリ……ちゃん? どうしてできるの、そんなこと。普通クレイドルから神姫が数値設定をしたって話は聞かないよ?」

 

 何!?

 

「できるものはできるんだから、しょうがない……でしょ!」

 

 俺は初めて知ったことにびくびくしながら、自分の中身は人間だからなぁとか考えていた。

 

 部の2人は自作機だからかなぁ……? とか相談していた。廃棄処分とか……ないよね?

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 俺は机の端に立っていた。下にはマットが敷いてある。背中には丸ごと巨大スラスターと化した“テュフォン(以後スラスター)”。これで機動力を得る。そして翼基部のブースターで基本的な推進力を得る。そして“ヴェルテクス”をもう一個ばら売りしていた“テュフォン”に接続、“ヴェントス”を引き金として背面に直接接続された巨大ライフル2挺とした。ミサイルポッド“ニンブス”も“テュフォン”上部に接続し、あらゆる角度から撃てるようにしてある。

 

 近接武装は鉤爪状の“カルクス”を両腕に装備している。まぁ、おまけみたいなものだ。基本的に遠距離から戦う俺は、最初は近接武器なんぞ要らんわ! と言っていたが、次第に不安になってきた。それでとりあえずの接続をしたのだ。

 

 そして今。飛翔の時ッ!

 

「忍法ッ! アイキャンフライインザスカイオブザワールドひゃっほーう!」

 

「忍法!?」

 

 俺はご主人を無視して飛び出した。

 

 すごいスピードだ! これは限界まで出したらだれも追えないんじゃないだろうか。2枚目の翼を展開、滑空に入る。

 

 空気が流れていく。足元には何もないにもかかわらず、俺は今……今!

 

 すばらしい。飛ぶとはこういうことだったのか。何物からも解放された、極限までの自由!

 

 俺は背面からヴェルテクスを展開、トリガーを握り、滑空状態で部屋を飛び回りながら机の上にあった的用のボール紙を狙い撃つ。俺の脳内には両の角から送られた情報がHUDとして展開されている。

 

 ティティティ……、という音とともにすべてをロックオン、5つとも2秒もかからずに沈めた。その後、ホバリング体勢で空中に制止した。

 

 どうだご主人! すごいだろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。