遂に始まろうという卒業試験
海斗たちは戦闘準備位置についていた。
「百代が封じられてるってことを抜きにしても、やはりこれはなかなか気持ちのうえで圧
倒されるものがあるな」
ずらりと並ぶ九鬼のメイドに執事たち。
その数は十や二十ではない、単位は人で数えるより部隊数で認識する方が賢明だろう。
そして仮にも九鬼の従者部隊、一般の格闘家に比べればその強さは油断ならないものがあ
るのは間違いない。
そんな連中をこれだけの数まとめて相手にしなければいけないのは簡単とは言えない。
「どれだけの相手だろうと関係ない、私がなぎ倒すだけだ」
このやる気満々の味方も抑えなければならないしな。
「フム、どうやら始まる前には間に合ったようだな」
「おお、ようやく来たかヒューム、クラウディオ」
「私は急かしたのですが、どうもヒュームがのんびりとしていましてね」
「クラウディオ、あまり俺のせいにばかりするな」
「ですが、そもそも試合を観戦したいと言ったのはヒュームでしょうに」
「俺はあの男を見極めなければならないからな」
ヒュームは思い出していた。
あのタッグマッチのエキシビションで燕・百代という実力者を相手に見せた異様な強さ。
そして未だに解決していない謎が多く残る最後の攻防。
本人ははぐらかしているつもりのようだが、大きすぎるものは隠しきれないのが常だ。
どれだけ上手く隠そうと関係ない、真実は確かに存在するのだから。
「フ、俺も暇になったものだな」
「そうでしょうかねぇ。実際、あの学生の動きには目を見張るものがあったのも事実。将
来有望との判断がなされれば九鬼の人材確保にもつながります」
「暇つぶしでも業務でもよいわ、退屈はさせないはずだ。さあ始まるぞ」
揚羽の一言を引き金にしたかのように従者軍団が動く。
「よし状況が状況だ、俺から出来るだけ離れないように行動することを心がけてくれ」
「私に任せておけ、一掃してやる」
「ったく……言ってるそばから!」
百代は注意も聞かず飛び出していく。
「要は相手の攻撃に当たらなければいいんだろう!」
「仕方ねぇ、無理やり守るしかないか」
勝手な行動とはいえやはり百代は百代だ。
複数の執事を相手にしながらその殴打は全て避けきっている。
「このくらいのハンデで私は止められないぞ」
敵の攻撃を受け流した体の流れでそのまま蹴りのフォームに入る。
「百代!下手に攻撃をすれば機械が反応するぞ!!」
「っ!?」
揚羽の警告に百代の脚が触れる寸前で止まる。
普段の百代なら用意されたルールに縛られることなどないだろう。
だがそんな百代を抑えたのは先ほど聞いた“不合格”という言葉だった。
自分一人のことなら特に躊躇することもなかっただろうが、海斗の卒業がかかっているこ
とを考えた瞬間百代の動きに制止がかかっていた。
「くそっ!」
百代の反撃が来ないことを確認した相手が黙っているわけもなく、すぐに仕掛ける。
百代も攻撃を受けるのを避けることだけに専念する。
それでも自分から手は出せずかわし続けるだけではキツくなってくる。
「おら!」
そんな百代の援護に入るようにやっと並んだ海斗が相手を殴り飛ばす。
「自分一人で行こうとするなって言ったろ」
「くっ、煩わしいな」
「とにかくここは俺が中心になって戦うから……ん?」
真っ先に囲んで近接戦闘を仕掛けてくるかと予想していたが、従者たちは後退し始めた。
そしてある程度の距離をとると……
「ちっ、飛び道具に切り替えてきたのか!」
海斗と百代は投擲されたナイフやクナイを避けていく。
相手の距離も離れている今ならと、分散させる意味でも少し距離をとった海斗。
しかし分散どころか遠距離攻撃は百代に全て集中した。
「くそっ、これは端っから百代を狙いに来てるな!」
それはすなわち海斗の卒業試験を失敗させにきているということだ。
おそらく従者たちには前もって何らかの形で揚羽から話がいっているのだろう。
百代が取り付けている装置さえ反応させれば試験は終了であることを伝え、失敗におさめ
たものには褒賞を用意しているとか、大方そんなところか。
それならば正攻法で俺を倒すよりも手足をもがれたように満足に戦うことのできない武神
についた勝利のスイッチを押すほうを遥かに簡単で、そちらを選ぶのは当然だ。
「いつもなら奥義で叩き落としてやるのにな……っ」
自分の攻撃の反動で機械を反応させてはいけない。
そう考える百代に残されている手段は避けることしかなく、それも相手の手数の多さに苦
しくなってくる。
そして百代が回避のために宙へ跳んだ。
……いや、“跳ばされた”。
空中で身動きの取れないところを狙い撃ちにするために。
本来なら気の波動で武器を吹き飛ばしたり、いくつかをわざと受ける方向で被害を最小限に
にとどめ瞬間回復など、対処の手はいくらでもあるだろう。
しかし今の百代では万事休すだ。
「しまっ……!」
キンという金属音が無数に響く。
「ム、あれは……」
ヒュームの目に映ったのは無数の飛び道具が一つの撃ち漏らしもなく撃墜されていく光景。
その離れ業にも別段驚いた様子もなく、表情は微かに笑っていた。
「暗器ですね」
海斗がどこからともなく取り出し使用した武器。
その姿はクラウディオもよく知る李と重なるものがあった。
「まだまだ楽しめそうであるな」
逆境にも立ち向かう男の姿がそこにあった。