海斗が武器を全て撃ち落したかと思うと、同時に辺りは煙幕に包まれていた。
「さっきの武器と一緒に煙玉も投げていたか」
「あれだけの攻撃を正確に撃墜しながら次の一手を準備するとはなかなか関心ですね」
老執事二人が冷静に分析する。
「あらかじめ今回の試験にあたり執事服に仕込んでいたのだろうな」
「九鬼の制服は何かと改造されやすいですからね」
メイド執事ともに何人もそんな者を知っている。
思えば海斗と李は仲が良かった。
この準備もそれを考えればおかしくはない。
武神が相棒に抜擢されたとはいえ用意を怠らないのは流石の慎重さだ。
「ム……」
「煙幕の動きが妙ですね」
煙は海斗たちを取り囲むように動いてゆく。
それはどう見ても煙の自然な動きとは思えなかった。
「なるほど、気で操作しているのか」
「武神が封じられているとなるとこれをこなしているのは当然そういうことですね」
あれでは遠距離からの攻撃はほぼ有効打とはならないだろう。
気とは便利なものでその性質を変化させることで多彩な使い方ができる。
斬撃に変化させる者もいれば、熱に変換する者もいる。
目の前のそれはそんな無限の用途がある気をうまく使いこなしていると言えるだろう。
執事たちが面白がって眺めるなか、煙幕の中では……
「下手に動くなって言っただろうがっ!」
「あいたっ!」
百代が海斗にどつかれていた。
「普通に気づいてるだろ、わざと跳ぶように仕向けられたってことは」
「いや、分かっていても体がいつものくせで反応してしまうんだよ」
「偉そうに言うな(バシッ」
「だから痛いって言ってるだろ。お前美少女に対するツッコミが容赦なさすぎだ。ツッコ
ミの強さじゃないだろ!」
「別に“このくらい”なんともないだろ?」
「なんともないわけあるか、痛いって言ってるだろ!大体…………ん?」
そこでジッと目を見つめてくる海斗に気づいた。
何かを訴えかけるような……
「百代。お前は俺の護衛対象じゃない、俺のペアだ」
「……なるほどな。なら私は私としての仕事を果たすとしよう!」
煙幕が四散して視界が開けると同時に百代が走り出した。
しかしそこに海斗がついていくことはない。
「戦闘スタイルが変わった……?」
「どうやら煙の中で何事かしていたらしい」
百代は従者の一人に一気に接近する。
先ほどまでは意図的に避けていた間合いだ。
「あんなに近づいては……勝負を諦めたか?」
当然従者は迎撃を試みる。
百代はそれを手のひらでいなし、そのまま腕をつかみ投げ飛ばした。
「!?」
「武神をなめるな」
先ほどまでは機械の反応を恐れ、相手との接触さえ避けていた。
しかし今のやりとりで従者部隊の拳をいなす形とはいえ防御し、反動も恐れず投げ技とい
う攻撃にまでつなげた。
完全に何か吹っ切れたとしか思えない。
「しかも投げ技とはな……」
百代が投げ技を使うことはほとんどない。
というのも投げ技はいわゆる柔の攻撃に属する。
すなわち自分よりも力強い者に対しての有効打として一般的なのだ。
百代ほどの実力を持っていれば縁遠くなってしまうのは仕方ない。
何より普段は気弾ひとつで済む話なのだから。
そしてそんな百代がこの局面で投げ技を選んだことに驚いた。
相手の攻撃を受け止めた衝撃や自分が放った殴打の反動のリスクを考えると、投げ技とい
うのはこの場での最善手といえる。
ブザーを恐れ満足に接触もできなかった百代がそこまで冷静な判断をできた。
やはりその原因を考えるとすれば……
「あの男か……」
先ほどまで心配してずっと百代に視線をおくっていた男は完全に背を向けている。
それは相棒として信頼しきっている背中だった。
「煙幕の中から微かに聞こえた打撃音、おそらくは川神百代にブザーが鳴らない限界の最
大値の強さを示唆したのでしょう」
「受けても問題ない衝撃を体感で覚えさせたのか」
咄嗟のひらめきもさることながら揚羽や老執事たちが感心したのは、何よりも本調子が出
せない百代を切って捨てるのではなく戦力としてともに戦おうとしたことだ。
「局面を冷静かつ客観的に捉え、人材を生かすか……」
海斗という男に戦士として以外の才をはっきりと感じていた。
そのうえその男は……
「ふぅ、やっぱ数が多いな」
また一度に四人を相手して撃破する。
武力の面でも百代に負担がいきすぎないように多くの敵を受け持っていた。
「この調子でいけば問題なく全滅させられそうだな」
「ところが、そう簡単にはいかねーんだよなあ」
「ふぅ……海斗の相手は正直遠慮したいですが」
「おいおいマジかよ」
気づけば従者の層が変わっていた。
そう、レベルが一段階上にシフトしたように。
「序列15位、ステイシー・コナー……」
「序列16位、李静初……」
「いくぜ!」
「いきます!」
久しぶりに李さん出せた気がする。
心に一縷の安寧が……。