この本当にやめるんではないかというハラハラ感のある
私の作品でこそ通じるネタですよね。
「赤子よ、俺が直々に卒業試験を行ってやる」
「流石に大人気ないんじゃないか」
「フン、知らんな。俺は今川神学園の一年生だ」
「そんな屁理屈こねられてもな」
軽い口調で話してはいるが状況は切迫していた。
ヒュームレベルの実力者を前にして誰かをかばいながら戦うのは骨が折れるどころの話で
はない。
それでなくても百代が一撃でもくらえばゲームオーバーの状況だ。
「李!ステイシー!こっからは二人がかりで百代についてくれ」
「言われるまでもねー!」
「全力を尽くします」
「安心しろ、俺は百代を狙うつもりはない」
「ハンデを負ってる相手には本気にならないってわけか?」
「フン、違うな。俺にとっては誰が相手であろうと大した問題ではないということだ」
「自信の塊みたいなセリフにこうも説得力があるのも新鮮だな」
どちらかといえばやられ役の三流が使いそうではあるが、ことこの老執事が使うととても
冗談とは受け取れない。
「だが百代を狙わないでくれるのは好都合だ。こっちも卒業が一瞬の気まぐれで止められ
ちゃやりきれないからな」
「赤子、何か勘違いをしていないか。貴様にはブザーはないが戦闘不能になれば失格とな
るのだぞ!」
一瞬のことだった。
言い終わると同時にヒュームは数十歩以上空いていた距離を一気に詰め、鎌の一振りのよ
うな強烈な蹴りを放った。
「ほう、よくガードしたな」
「ガードを貫通する蹴りしといてよく言うぜ」
「今の速さに反応できただけ上出来だ」
海斗はヒュームの高速の一撃にも咄嗟に腕で防御の姿勢をとっていた。
そこまではよかったのだがヒュームの放った一撃はガードありきでそれを突き破るような
威力の必殺技だった。
結果的にガードの上からでも体力を持っていかれてしまった。
ただ海斗であったからこの程度で済んでいるのだ。
並の格闘家であればガードを完全に無に扱われ、今の一撃で勝負が決していただろう。
「中途半端なしぶとさが逆に苦しみを生んでしまうとは皮肉だな」
「好きでしぶとくなったわけじゃないんでね」
ヒュームは先ほどから意図的に挑発的な言葉を多用していた。
というのもヒュームは覚えていた、あの夜海斗が九鬼の最高レベルの執事たち相手に一矢
報いた底力を。
たまたまだと言ってしまうのは簡単だが、偶然で九鬼を守る執事が足をすくわれていたの
では笑い話にもならない。
柄にもなく目の前の男に何か可能性を感じていたのだ。
「このままいけば、すぐに試験は終わる。失敗という形でな」
「そうならないよう努力するさ。中途半端なしぶとさとやらを駆使してな」
だが目の前の海斗はあの時のような力を振るおうとはしない。
まるで何かを躊躇しているようだ。
「何を考えてるのかは知らんが、迷えば終わるだけだ」
「くそっ!」
また瞬間移動からの強烈な蹴り。
今度は連撃で繰り出してくる。
海斗もガードしつつさばいて、反撃を入れようとするが……
「ハァッ!」
相手の動きなどものともしないような気をこめた一撃を振るう。
周りにも衝撃波を発生させる威力のそれに海斗は吹き飛ばされ後退した。
(このままじゃ、まずいよな……)
海斗は考えていた。
力を解放して戦うのは簡単だ。
しかし模擬演習での訓練や相手が油断している場合とはわけが違う。
今のヒュームは赤子と揶揄しながらも本気で試験不合格にさせようとしてきている。
そんなヒュームを凌ぐだけならまだしもやりにいこうとするならば、それ相応の力を出す
必要が強いられる。
ここは人の目が多すぎる。
九鬼という大きすぎる舞台、従者たちばかりかこの卒業試験自体をデータとして記録して
いるかもしれない。
仲間たちは海斗の力を知ってもそれをべらべら誰かに話すような真似をしなかった。
ずっと律儀に黙っていてくれたからこそ自分の過去も関係なく、今こちらの世界で普通の
生活が送れていると言ってもいい。
ここで力を出してもいいのか。
勝たなければ九鬼での生活はまだ続く。
それも悪くないことかもしれないが、仲間たちには心配をかけてしまうだろう。
一つ言えるのは、行使することになればそれは今までこちらの世界では使ったことのない
レベルの力になるということだ。
「……これ以上続けてもつまらんな」
ヒュームは期待外れだったという目でとどめを刺すべく脚を振り上げる。
………
「海斗、勝つのだぁ!!今日まで海斗は我の執事であるぞーー!」
―ガシッ
「ム……」
海斗はヒュームのその強力な蹴りをしっかりと止めていた。
「主の命令は絶対なのだぁ!我の執事が勝手に負けることは許さんぞー!」
響いたのは紋白の声。
精一杯大きく叫んだ声だった。
「だそうだ。悪いがここでみじめに負け姿をさらすのは紋白の名誉に関わるらしい」
ヒュームをはじき返し、距離を取る。
海斗が白い錠剤のようなものを懐から取り出し口にいれた。
「今、何を口に含んだ」
「はは、いいぜ。出し惜しみはなしだ」
紋ちゃんの言葉は結構海斗を動かしてますね。
揚羽たちとの戦いを止めたのもそうですし。
そんなところから将来人の上に立つ紋白の才能みたいなものも
感じてもらえればみたいな意図で書いてます。