紋白の声が届き何かを決意したように見える海斗。
そして海斗の不審な動きは誰もが見逃さなかった。
「何かを口に入れた?」
「遠目でしたが薬のようにも見えましたね」
観戦していた揚羽とクラウディオが。
「海斗、それはっ……!」
「アン?何しやがったんだ、あいつ」
百代を守る李とステイシーが。
「まだ楽しめるための準備……とでも思っていいのか?」
対峙しているヒュームが。
海斗の様子に注目していた。
「ふぅ…………久々だな、高揚するこの感覚、」
海斗がぶつぶつと呟きはじめる。
周りは海斗の雰囲気が変わったのにすぐに気づいた。
(なんだ……この異様な気は……)
先ほどまでとはまるで違う。
相手を威圧し刺すようなピリピリした気をヒューム自身、肌で感じていた。
対して海斗は確かめるように拳を握り、解きを繰り返していた。
「ヒューム、実力者と見込んで頼みがある。……死んでくれるなよっ!」
次の瞬間、音が、震動が炸裂した。
凡人が見れば大爆発が起こった程度しか分からないだろう。
ただ結果だけは誰に目にも明らかだった。
ヒュームが傷つけられていたのだ。
「貴様……、なかなか質の悪い初撃だな。ぐっ……!」
地に両の足で立ってこそいるが、ヒュームにしてみれば考えられない被ダメージだ。
一瞬で繰り広げられた光景を実力者の百代の目はしっかりと捉えていた。
海斗が言い終え技を発動した瞬間ヒュームを地のトンネルが覆い、その穴から気の波動砲
が貫いた。
簡潔に見たままを言えばそれだけなのだが……
(なんだ、今のは……。川神流畳がえし、いやそれを遥かにパワーアップさせた技の応用
で相手を地のトンネルに閉じ込めて、逃げ場も威力の分散箇所も塞いだ上であの高出力の
気のビームを穴から撃ち込んだのか)
あのトンネルは威力をヒュームに集中させるだけでなく、こちらに衝撃の余波を流れさせ
ないことも考慮しているのだろう。
その必殺の光線をおそらくヒュームも攻撃で相殺した結果があの大爆発なのだ。
相当に人間離れした攻撃ではあるのだが百代が驚いているのはそこではない。
言葉で説明したように百代もやろうと思えば、いやある程度の実力者ならば簡単ではない
とはいえ、可能であろう。
しかし言葉で説明しただけでもあんなに長い工程を一瞬でこなしてしまったのだ、海斗は。
「今ので仕留めるつもりだったんだがな」
「それは考えが甘すぎるな……っ!」
ヒュームが言い終える前にまた地面が動いた。
先ほどと同じ攻撃だと早く反応できたため今度はトンネルに捕まる前にその卓越した脚力
で遥か空へと跳躍する。
「……『アイス』」
「あれは燕の平蜘蛛の技!」
「リング!」
空中での回避は不可能である。
ヒュームほどの実力者ならばそんな常識は通用しないのだが、動きは鈍くなる。
そこに海斗が放った高速の飛び道具リングの数は十や二十ではなかった。
そのうち数発がヒュームの体をほんの少しかする。
「これは……!」
そのかすめた箇所が瞬く間に凍結してゆく。
リングの前の技で気を冷気の属性へと変換していたのだ。
「はぁっ!」
「ぐ……っ!」
海斗は技を放った直後にヒュームの背後にとんでいた。
そのまま回し蹴りを見舞う。
ヒュームも流石の反応をしたが、凍結による微細な硬直が回避も防御も妨げた。
「俺がこう何度も吹っ飛ばされるとはな」
「むしろ距離を飛ぶことで威力を軽減してる老獪な男が何を言ってるんだか」
「確かにパワーやスピードはなかなかの素質だが、あれだけの技を撃ってせいぜい二発程
度しかかすらないようではまだまだ正確性には欠けるな。気の無駄遣いでスタミナ切れを
起こすのも時間の問題だ」
「…………確かに無駄っちゃ無駄か」
――
「揚羽様!報告です、記録用のカメラが故障してしまいました」
揚羽たちの観覧席に駆け込んできたのは後ろでこのステージを管理している従者の一人だ。
「そんなもの他ので代用すればよかろう、何十台あると設置していると思っているのだ」
「それが……ひとつ残らずすべて氷漬けにされておりまして」
「氷だと!?」
「ふふ、してやられましたね。まさかヒュームが出てくる前までの戦闘の中で全てのカメ
ラの位置を把握していたとは。そしてヒュームを相手取りながら正確に狙う、とんでもな
いですね彼は」
「感心している場合か、クラウディオ!」
「しかしもう壊れてしまったものはどうしようもありません。おそらく彼は戦闘を記録と
して残されたくないのでしょう。代わりに彼が思う存分実力を発揮してくれるというなら
良いではないですか」
クラウディオは優しげな笑みを浮かべながら言った。
聡明な執事は既に海斗の戦い方を楽しんで見ていた。
「海斗はやはり凄いのであるな!」
海斗の活躍に紋白がきゃっきゃと飛び跳ねて喜ぶ。
それを見てさらに目尻が下がるクラウディオであったが、急に真面目な顔に戻ると……
「これは久しぶりに見れるかもしれませんね」
「何をだ?」
「……ヒュームの本気です」
バトル書いてると恋愛書きたくなり、
恋愛書いてるとバトルを書きたくなるんですね。
今はステイシーとのイチャイチャが書きたくて仕方ない