真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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皆さん感想をありがとうございます。
いつも楽しみに読ませてもらっています。
なんというかあの時一度だけではなく、その後も毎回
感想をくださっている方には頭が上がりません。
ではバトル真っ只中の本編をどうぞ。


赤子返上

「ヒュームの本気が出るかもしれませんね」

 

「それはまずいぞ」

 

「なーに、心配ありません姉上。海斗なら大丈夫です!」

 

 

揚羽はヒュームの実力をその身で感じたこともある。

だからこそ不安もよりリアルなものだった。

それに比べると紋白はヒュームの力を目の当たりにしたことがない。

だがその瞳はそんな単純な理由で大丈夫と言っているのではないと物語っていた。

それは心からの信頼の眼差し。

 

 

「大体、紋はよいのか。海斗を焚きつけたりなどして、試験が成功すれば執事は卒業して

九鬼から離れてしまうのであるぞ」

 

 

そう、揚羽はそこが疑問であった。

誰に目から見ても分かるほど紋白は海斗に懐いている。

そんな海斗の卒業を応援するというのはどういうことなのか、むしろ不謹慎ではあるが不

合格になってとどまってほしいなどと思いはしないのだろうかと。

そんな思いに答えるかのように紋白は真剣な面持ちで言った。

 

 

「姉上、我は海斗を九鬼の執事として迎えたいわけではないのです。我は出来ることなら

……海斗を九鬼として迎えたい」

 

「紋……」

 

「おやおや、紋様にここまで想ってもらえるとは彼も幸せ者ですね」

 

「正直ライバルも多いのですが、我は海斗のためならどんなことでも頑張るつもりであり

ますぞ!」

 

「大人になったな、紋」

 

 

海斗を手に入れるなら執事にしながらでも十分に狙えるし、むしろそのほうが好都合な点

も多いであろう。

しかし紋白は海斗のことを好きな他の者たちともフェアに勝負すべく、主従の関係という

アドバンテージをリセットしようとしているのだ。

その分自分が頑張って魅力的になればよいという考えのもとに。

海斗の存在が紋白にとってとてもいい影響になっていることは明らかだった。

 

 

「なればこそ、この勝負しっかりと見届けなくてはな」

 

 

――

 

 

「まさかこの俺と戦いながらカメラに気を回すとはな」

 

 

情報はすぐにヒュームのほうにも届いていた。

技の正確性がない?全くの逆だった。

全てのカメラを寸分たがわず狙っておきながらその軌道上にヒュームを入れて、何発かを

かすらせたのだ。

これ以上のテクニックがあるだろうか。

 

 

「……いいだろう。流川海斗、貴様を赤子と呼ぶのはもうやめだ。ここからは実力者とし

て扱ってやる!」

 

 

――

 

 

百代たちは遠くから二人の様子を眺めていた。

 

 

「……海斗」

 

 

百代がつい名前を呟いたのは不安の表れだった。

ヒュームの赤子という口癖。

あれは圧倒的実力からの余裕と若者を奮起させるための挑発であるほかに、その強すぎる

自身の力へのセーブの意味も持っているのではないか。

相手を赤子と侮ることで逆に自分の本気を抑制する。

つまり相手を対等と認めることはその容赦ない力が存分に振るわれてしまうということ。

 

 

「ヒュームのじじいがあんだけ真剣になるってのもなかなか見れねぇから新鮮だな」

 

「海斗がそれだけの実力の持ち主なのです。手練れって誰でも分かるほどに、ふっ」

 

「よくこんな状況でギャグを言えるぜ……」

 

 

李とステイシーは百代を狙って襲いかかってくる従者たちをさばきながら、すっかり海斗

たちの戦闘に見入っていた。

三人も見つめるなか戦況は動いてゆく。

 

 

――

 

 

「最初に言っておこう」

 

「あ?」

 

「力を出し渋れば後悔の間もないと思え」

 

 

次の瞬間ヒュームは消えていた。

海斗は咄嗟に体が動いていた。

意識したのではなく本能が行った操作、久しぶりの感覚だった。

強烈な蹴りがすれすれの位置を横切る。

 

 

「防御ではなく回避を選んだのは正解だ」

 

 

あれを防御すれば防いだ体の部位が吹っ飛ばされると言っても過言ではないほどのそれだ

けの威力を秘めた蹴りだった。

 

 

「だが次への備えが甘すぎる」

 

 

後退のために少しだけ地から離れた足。

わずかすぎるその隙を縫ってヒュームの二撃目が海斗の腹に叩き込まれた。

蹴りの圧倒的攻撃力はその場で炸裂し吹っ飛ばすことさえ許さない。

 

 

「言っただろう、油断をするなと。……っ!」

 

 

ヒュームは後ろからの蹴りを体をひねってかわす。

見れば海斗を捉えたはずの足が貫いていたのは海斗が着ていた上着だった。

 

 

(空蝉の術……こいつあずみの使うような忍術まで)

 

 

「だが、不意打ちを二度も三度も食らってやる俺ではない!」

 

 

海斗にしてみれば相手の知るところではない空蝉からの完璧な奇襲だったのだが、ヒュー

ムはそれを瞬時に看破しかわしてみせた。

となれば一気に形成は逆に傾く。

攻撃後の海斗のほうが一転して無防備だ。

 

 

「流石に二度続けては空蝉も使えんだろう!ジェノサイドチェンソー!」

 

 

ヒュームはとどめとばかりに必殺技を放つ。

 

 

「…人間爆弾!」

 

 

その判断は速かった。

海斗は気を調整し爆発の規模を控えめにし、自分の体を強制的にその場から離すことを優

先させた。

当たれば終わりの一撃は空を切る。

 

 

「……まさかここまで粘られるとはな」

 

「はぁ、こっちの台詞だよ。老人のくせに信じられない動きばっかしやがって」

 

「なら降参でもしてみるか?」

 

「馬鹿言え、ここまで来て負けられるかよ」

 

 

海斗は先ほどの錠剤の入った瓶を取り出すと、そのまま中身を一気に口に入れた。

 

 

「はぁぁ…………っ」

 

(また気が増幅しただと……)

 

「ヒューム、いくぜ。俺の真剣見せてやる」




やはりヒュームも最強の名にふさわしいほどの実力です。
海斗はどう戦うのか。

次はとあるの方も更新しようかと思います
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