真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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昨日投稿するつもりが予約忘れました。
急遽入れる予定のない1話を差し込んだので少し遅くなりましたがどうぞ。


留守番完了

「ただいま」

 

 

久しぶりに家に帰ってきた海斗。

 

 

「おかえり、海斗」

 

 

出迎えてくれたのは天衣だった。

 

 

「なんで身構えてるんだ?」

 

「いや、海斗が久しぶりに帰ってきていいことがあったということは、私の経験上この後

不幸なことが起こると思って……」

 

「まあ大丈夫だ」

 

 

窓から天衣めがけて飛び込んできた金づちを受け止めながら言う。

 

 

「不運からは俺が守る」

 

「海斗……、ありがとう。よかったらこのハンカチを使ってくれ」

 

「ん、ハンカチ?」

 

「手が汚れてしまっているぞ」

 

「うわ、この金づち油でギトギトじゃねぇか!」

 

「私の不運は二重にも三重にも張り巡らされているんだ」

 

「いや得意げに言われても全然かっこよくないから」

 

 

治安の悪い場所にあるため、この際窓から金づちが侵入してきたことに関してはツッコミ

を入れないつもりだったが、流石に油は意味が分からない、中華料理屋じゃあるまいし。

これが天衣の不運のなせるわざか。

 

 

「ただ海斗に守られるのはやはり嬉しい」

 

「あぁ」

 

 

天衣がにっこりと可愛い笑顔を見せてくれる。

この表情は天衣がここでの生活で取り戻したものだ。

そして、天衣の本来の魅力なのだろう。

 

 

「そうだ!海斗に是非見せたいものがあったんだ。待っていろ」

 

 

そう言ってどこかに行ってしまう天衣。

いや、どこかと言っても勝手知ったる自分の家なので分かるのだが。

あっちは……台所のほうか。

 

 

「ほら待たせたな。できたぞ」

 

「これは……」

 

 

テーブルの上に置かれたのはシンプルな野菜炒め。

驚くべきはクオリティではなく、作っている人だ。

この前まで川で獲った(獲れないときのほうが多い)魚をそのままたき火で焼いていたよ

うな生活をしていたあの天衣がだ。

 

 

「遠慮せずに食べてくれ、海斗のために作ったんだ」

 

「それじゃいただきます」

 

 

野菜炒めを一口口に運ぶ。

味はというと、美味しかった。

もちろん料理をし慣れている由紀江などのそれとは違うが、それでも美味しいという感覚

に間違いはなかった。

 

 

「美味しいぞ、天衣」

 

「そうか!これで少しは私も恩返しができたのだな」

 

「ああ、本当に美味い。……ただ、そんな見られてたら食べづらいんだが」

 

 

天衣はテーブルに両肘をつきながら、ずっと横で海斗の食べる様子を見ていた。

それもじーっと食べている口元や顔ばかりを見つめ続けてくる。

本人はその自覚すらないのか、指摘をしても体勢を崩さぬままこてんと首をかしげるだけ

だった。

 

 

「ごちそうさま、美味かった」

 

「そうか、後片付けは私に任せてくれ」

 

「何から何まで悪いな、いきなりどうしたんだ?」

 

 

天衣は手慣れた手つきでさっと皿洗いを済ませてしまうと笑いながら戻ってきた。

 

 

「ふっふっふ、海斗がいない間これで勉強をしていたからな」

 

 

取り出したのは“家事完ぺきガイドブック ~分かりやすいイラストつき~”という文庫

サイズの本だった。

窓のそばに行って座ると、常連の猫たちが寄ってくる。

天衣はいつもそうしているかのように、猫を片手で撫でながら本を読み始めた。

 

 

「最初はなかなか上手くいかなくてな、何度も失敗を重ねたんだ」

 

「失敗?」

 

「ああ、大家さんに食べてもらっていたのだが、どうも口に合わなかったらしい」

 

「ちなみに最初はどんなものだったんだ」

 

「材料に私が川暮らしをしていたときによく食べていた雑草を使ったり、あとは手順通り

に作ったはずなのに加熱していたら妙に変色してしまったり……」

 

 

なるほど、以前までの貧乏生活と不運が影響して悪い方向に進んでしまったのか。

というか、大家がうるさく顔を出してこない理由が分かった気がする。

しかし、さっきの野菜炒めは何の問題もなく美味しかった。

自分がいない間にどれだけ努力をしてくれたのだろう。

嬉しそうに本を眺める天衣を見て、海斗はそんな風に思うのだった。




天衣さん、ごめんなさい。
そもそも本編でまだあまり出番がないので、設定はほぼ妄想です。
家事できないけど、もの覚えはいいタイプな天衣さん。
海斗のために料理本を読んで勉強しました。
家でゆっくりこんな感じで過ごしてると思います。

まじこいP楽しい
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