戦闘は書きはじめると早いです。
海斗は真剣を見せると言った。
その言葉に違わぬように海斗を取り巻く雰囲気が変容していく。
そして驚くことに海斗の気が無くなっていったのだ。
「これから勝負をしようというのに気をゼロの状態にするとは何事だ?」
「言っただろ、俺の真剣を見せるって」
海斗の気が収束したのとともに場を宣告以上の静けさが包む。
まるでこの空間すべてを海斗という人間が支配しているかのようだ。
「そうして手を抜いても私には勝てるというのが、お前の真剣か!」
「自分の気を全部取っ払ったことってないだろ?結構身軽だぜ」
百代は先制攻撃を仕掛けた。
否、先制すら取れてはいなかった。
気弾を放とうとした手は、拳ひとつ分も動くことなく海斗に掴まれていた。
(なんだと、速すぎるぞ!)
内心は捉えきれなかったスピードに驚いたが、それを表面に出している暇はない。
武力だけでなく、戦闘中の状況判断の速さも武神と言われる所以だ。
百代にとって相手が至近距離にいるのは好都合だった。
(零距離の人間爆弾をくらえ!)
「考えてくることくらい、分かるぞ」
「なっ、技が発動しない!」
「自分の技を過信するな」
海斗は何の変哲もない掌底で武神を弾き飛ばした。
気を使用して強化したというわけでもないのに。
ゼロの状態でどこにこんな力が、そんな疑問を抱かずにはいられなかった。
「私の技がまた止められた……」
そういえば、燕を含めた三人のエキシビションマッチでもこんなことがあった。
あのときも首筋に海斗の手が触れたような感覚があった。
接触により、気を乱されて技が発動しなかったと考えるのが普通であるが、気を乱すとい
うのは口で言うほど簡単じゃない。
相手が実力者、技の精度も高ければ尚更だ。
「必殺技を身につけたらそれで終わりじゃない。技の使いどころ、他の立ち回りとの組み
合わせ、磨くことはいくらでもある」
「致死蛍!」
複数の光を発した気弾が海斗目がけて襲いかかる。
海斗はその気弾に対して手のひらを向けると、一つ一つ払うようににしてかき消した。
「素手で弾き返した!?いや……」
百代は一瞬だが今オフにしているはずの海斗の気を感じた。
まさかとは思うが、接触の瞬間だけ気を行使して対処したというのか。
それにしたって一瞬の展開だけで致死蛍をかき消し、気の使用も最低限にとどめるとは、
パワーもテクニックも桁違いではないか。
「気は量があればいいってもんじゃない。むしろ量があるからこそその使い方が重要にな
ってくるんだ」
「川神流・星砕……」
「今この瞬間、技に充ててない気はどうしてる?」
「なっ……!?」
またもや全く捉えられないまま後ろに回り込まれ、背中に手を置かれていた。
海斗の動きを目ですらまともに追いきれていない。
「必殺技は確かに強力だが、多くの量の気を有し持て余しているからこそ、攻撃に使って
いる以外の気をしっかりコントロールしないとな。今であれば防御にまわしておくべきだ
った」
「ぐあっ!」
海斗の手のひらで気の爆発が起こり、百代は吹っ飛ばされた。
先ほどの致死蛍を消したのと同じ要領だろう。
何メートルも吹っ飛ばされたこの威力がたった一瞬の爆発力。
「くそ、ひとまず治療が先か」
威力はおそらく手加減されていたとはいえ、戦いに支障が出る傷は早々に取り除くに限る。
得意の瞬間回復でまずは態勢を立て直そうと……
「あとは前も言ったが、瞬間回復に頼りすぎだ」
「!」
また技は発動しなかった。
瞬間回復の前に海斗の手が肩に置かれていたからだ。
(また気を乱されているのか……っ)
「封じようと思えばいくらでも手はあるってことを忘れるな」
「はぁっ!」
海斗の手を振り払い、そのまま攻撃に転じようとするが……
『スタン』
「が……っ!」
肩から痺れが伝わる。
これで回復は困難になってしまった。
ならば短期決着でいくしかない。
「川神流・畳返し!」
百代は無理やり海斗との間に壁をこしらえ、隔絶した。
そしてそれは次の技で終わらせるための準備だった。
「光龍覚醒!」
それは天神館の石田が使っていた奥義だった。
しかし百代のそれは石田よりも完成されている。
その体を黄金に輝く巨大な龍へと変化させるものだった。
「勝負を決めに来たな。このときを待ってた」
海斗が左手を前に突き出すと、突如百代が変化した龍のまわりを結界が覆った。
巨大な龍を包み込むほどの結界はいとも簡単に百代を捕縛した。
龍への変身も解けてしまう。
「この結界……気が吸い取られて……」
自分の気が吸収されていく感覚。
ここまでの効果を持ち合わせたあれだけ巨大な結界を咄嗟に展開できるわけがない。
「俺のことを褒めてはいたが、感知能力も少し伸ばしたほうがいいな」
「くそ……」
百代は結界に拘束されて、うつぶせの状態で身動きがとれず地面に転がっている。
「俺の勝ちだな」
海斗は百代の首筋に手刀を添えて、そう宣言した。
海斗はどこまで力を隠してるのか。
私も分からなくなってきました。
百代に対する真剣な姿勢がこの戦いなんでしょうね。