真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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昨日投稿しようとして忘れたんですねぇ


強者の孤独

「俺の勝ちだな」

 

 

そう宣言した海斗は手刀を百代の首から離し、立ち上がった。

 

 

「勝負あったようじゃな」

 

 

試合を見届けていた鉄心が寄ってくる。

 

 

「勝者は海斗じゃ」

 

「待てじじい、私はとどめをさされていないぞ。まだ体は動く」

 

「モモ、海斗に首に手刀を添えられたということをよく考えるんじゃ。戦いの中で技を見

ていたなら分からんはずはないじゃろう」

 

 

海斗は百代から離れ手刀を宙でふるうと、海斗の足元の地が裂かれた。

もちろん手刀は地面に接触していない。

しかしはっきりとそこには斬撃の跡があった。

あの手刀が直接首筋に触れていたということは、つまりそういうことだ。

 

 

「敵なら私は命を奪われていたということか、ははは……」

 

 

自然と笑いがこみあげていた。

全力で戦い、自分の敗北を実感した今。

惜敗であれば悔しさも悲しさも怒りもあっただろう。

しかし海斗には全く歯が立たなかった、笑うしかなかった。

 

―「自分の技を過信するな」

―「技の使いどころ、他の立ち回りとの組み合わせ、磨くことはいくらでもある」

―「攻撃に使っている以外の気をしっかりコントロールしないとな」

―「瞬間回復に頼りすぎだ」

―「感知能力も少し伸ばしたほうがいいな」

 

思い返してみれば対等な戦いなどできていなかった。

試合中にされた助言の数々、見事に自分の弱点をあぶりだされていた。

これでは師と弟子の実践指導もいいところ、レベルの差が嫌というほど見えてしまう。

海斗の真剣とは圧倒的な実力を見せて完膚なきまでねじ伏せることではなかった。

相手にアドバイスする余裕まで見せながらこちらの行動を完封してくることだった。

確かにろくに体は傷ついていないのに、身に染みて理解してしまった。

 

 

「海斗、最後に聞かせてくれ。あれほどの結界は一瞬でやったのか?」

 

「感知能力を鍛えろって言っただろ?もっと前から用意してたさ」

 

「それで私が気づかないとはな……」

 

「木を隠すなら森の中、ってな」

 

「……まさか」

 

 

百代は気づいた。

あらかじめ用意されていたにも関わらず、自分が気づけなかったという事実。

そして“木を隠すなら森の中”だ。

初めからこの戦闘場を囲っていた結界がある、鉄心が発動した人の侵入を防ぐ結界だ。

木を隠すのが森の中なら、結界を隠すなら結界の中だろう。

海斗は自分の気を鉄心の気の中に隠すことで密かに作り上げた結界を気取られないように

したのだ。

 

これが海斗の言う“気の使い方”なのだろう。

自分が持て余している気をどうコントロールするか。

戦局を予想し、手札を用意しておく。

己の力や作戦を過信せず、非常の事態にも常に備える。

結界を仕込まれた、そのことに気づけなかった時点で既に百代は負けていたのだ。

 

 

「最初から敵いっこなかったんだな、馬鹿みたいだ私は」

 

 

海斗の実力が測れない?白黒はっきりつけたい?

これだけ歴然とした差を見せつけられて、そんなことを考えていた自分が恥ずかしい。

 

 

「なーに諦めモード入ってんだ」

 

「いたっ!何をする」

 

 

海斗に百代が頭を小突かれる。

脱力して仰向けにくたばっていた百代は海斗に抗議の目を向ける。

 

 

「武神が敗北味わって絶望してんじゃねぇ。よっと」

 

 

海斗が百代の手を握って、体を引き起こす。

 

 

「俺がわざわざ真剣を見せたんだ。強くなれよ、こっから」

 

「……っ!」

 

 

百代は海斗の言葉に目を丸くすると……

 

 

「はははは!」

 

「何いきなり笑い出してんだ、壊れたか百代」

 

「はは、いや、どうにもおかしくてな。武神だの最強だのと崇められることはあったが、

この私に“強くなれ”なんて面と向かって言ったのは海斗くらいだ」

 

 

百代は相当おかしかったのか、ひとしきり笑った。

 

 

「そうだな、私はまだ強くなれる」

 

「ああ」

 

「……正直言うとな、私は強くなりすぎることを避けていた。もちろん毎日の鍛錬で手を

抜いたりはしてないが、それでも心のどこかでセーブしてしまう自分がいた。これ以上強

くなれば私の相手となる奴などいなくなってしまうんじゃないか。上りつめた先に待って

いるのはただの孤独なんじゃないかってな」

 

 

強者ゆえの孤独。

その気持ちを海斗が理解できないはずがなかった。

不安に顔を伏せるような百代をそっと抱き寄せた。

 

 

「お、おい……///」

 

 

百代が羞恥に顔を染める。

見たことのないような珍しい表情だったが、伝えないわけにはいけなかった。

 

 

「百代は一人じゃない。たとえどんだけ強くなろうと孤独は感じさせねぇよ。女の子にそ

んな悲しい顔させるわけにはいかない」

 

「海斗……」

 

「どうだ?」

 

「ああ。私よりも遥か上で悠々とたたずんでいる男を見つけてしまった。これで私はまだ

まだ安心して進んでいける。強くなれる」

 

「上出来だ」

 

 

今だけは、この一時だけは、武神じゃなく、か弱い女の子に。

胸に抱きつく百代の頭を安心させるように撫でていた。




皆様の感想がまさに的を射ていましたね。
まるで指導のような戦い、それだけの実力差ということでしょうか。
そしてついにフラグが……。
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