真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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波乱の朝

海斗の毎日の日課。

それは腕を落とさないための鍛錬。

早朝から街中を走ってまわっている。

一応特訓は見せるものではないとして、秘密裏に行っているのだが一度一子に

バレそうになることもあった。

別に今更疚しいことがあるわけではない。

ただ海斗が努力はあまり見せたくないタイプというだけだ。

 

朝といってももう随分と走りこんだようで人は多くなってきていた。

一応パーカーでフードも被っているが、気をつけなければいけないのは人に見

られることだ。

生徒に見られればそれこそ一発で広まってしまう。

少なくとも油断させるなんて戦法はそれだけで使えなくなる。

 

 

「ま、走ってなければ問題ないか。」

 

 

もう十分に今日のノルマはこなしたということで海斗は歩きにシフトした。

これならただの朝の散歩程度にしか見られない。

渇いたのどに何か飲み物でも買おうかと思ったときだった。

 

にゃー

 

そんな声が聞こえた気がした。

朝に小鳥のさえずり、動物の鳴き声、別に何も不思議なことじゃない。

普通なら気にも留めないようなことだ。

しかし、海斗は聞いた瞬間動き出していた。

 

“気がした”なんて頼りないものの方向を正確にとらえて、向かう。

もはや人間業ではない力で車道に横たわる猫を発見する。

迫るは一台の乗用車、猫に気づいている様子などない。

車に罪はない、小さい猫であるしこんな朝から道路をしっかり気にしながら、

走る優良ドライバーのほうが珍しい。

 

 

「よっと!」

 

 

本当にギリギリ。

車を壊すわけにもいかないので、捨て身のスライディングで猫をすくい、その

まま抱きかかえて転がる。

えらく不恰好でもそんなのは海斗にとって二の次だ。

 

 

「大丈夫だったか?」

 

「にゃー!」

 

 

子猫の命さえ助かれば、何も気にすることはない。

着ていた服も砂埃にまみれ、ところどころ擦り切れていたが、元気に鳴いてい

る子猫を見て、海斗は安心した。

 

 

「OH!オミゴト、ワタシハカミヲミタ!」

 

「おっ……と。」

 

 

猫を助けるのに夢中すぎて現場にいる人物など考えなかった。

だが、ちょうど運悪くいたようだ。

 

 

「チイサキモノノ、イノチスクウ、スバラシー!」

 

 

羽のような大きなアクセサリを頭につけ、可愛らしいくりっとした瞳。

独特のしゃべり方にエキゾチシズム漂う褐色気味の肌。

かなりのインパクトに海斗はどこか見覚えがあった。

 

 

「…………生徒会長か?」

 

「HAHAHA!イカニモ!」

 

「名前が思い出せん。」

 

「南條・(ミシェール)・虎子!アマリナノラナイ、トーゼントーゼン。」

 

「それでもな。悪かった、虎子。」

 

「キミハカイト、シッテル!」

 

「なんだ、生徒会長は全校生徒の顔と名前暗記してんのか?」

 

「モモヨ、ユミコ、ヨクハナス!」

 

 

かくいうこの生徒会長も3−F所属。

百代はいつも戦えないことを愚痴っているらしく、弓子もいつの日からかよく

話題に乗っかるようになった。

 

 

「モモヨ、イウトーリ、トテモスゴイ!」

 

「あー、それは……」

 

 

どうやら完全に猫をスライディングで助けるのは見られていたらしい。

でなければ、神だの何だの言われないだろう。

確かにあんな間一髪で自分の身を危険にさらしてまで助けるのは相当な自信を

持っているか、自分の命より猫のほうが大切かのどちらかだ。

虎子は今も言葉に詰まっている俺に不思議そうに首をかしげている。

 

 

「その、なんつーんだ……今起きたことは……」

 

「OK!OK!」

 

 

海斗が言い終わらないうちに虎子は大きく頷いた。

さっきまで顔を覗き込んでいたが、何か読み取ったように。

 

 

「ワタシト、フタリノヒミツ!ノープロブレーム!」

 

 

相手の求めることを即座に理解してあげられる。

このコミュニケーション能力こそが彼女が生徒会長に選ばれている所以なのか

もしれない。

 

 

「ありがとな、虎子。」

 

「バーイ!」

 

 

そのままいつもより少し伸びてしまった朝の鍛錬を終えるのだった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

朝、登校時。

海斗は珍しく風間ファミリーたちと合流していた。

 

 

「珍しいわよね、海斗とこんな時間に会えるなんて。」

 

「今日は色々とあってな。」

 

「色々とは?」

 

「別に京に説明するような大した出来事はなかった。」

 

「どうせ寝坊したとかだろう、よく分かるぞ。」

 

「そんなクリスじゃないんだから。」

 

「なんだと!?自分もちゃんと起きれているぞ!」

 

「お手伝いの人が起こしてくれてるからね。」

 

「むむむーーー……」

 

「私は海斗がこの朝にまた余計なフラグをたててたんじゃないかと不安なんだ

よね……。」

 

 

「流川君、おはよう!」

 

「ちわーっ。」

 

 

そんな一行に義経たちが合流する。

九鬼の車で登校する日もあるらしいが今日は歩きだ。

与一は少し離れて後方を歩いている。

 

 

「やっぱ美人と登校するだけで男として箔がつくよな。」

 

「ガクトー、小さいぞー。」

 

「モモ先輩にはわからねぇんだよ!」

 

 

モテない男の悲痛な叫びであった。

皆でそう談笑していたとき……

 

 

「いっただきぃぃぃ!!」

 

 

一瞬の出来事だった。

バイクに乗った男がすれ違いざまに義経の鞄をひったくった。

ただ由紀江が突然のことにも関わらずバイクに一太刀をくらわせる。

……が。

 

ガキン

 

バイクは由紀江の刀をはじき返す。

おそらく義経対策の防刃加工が施されているのだ。

用意周到、完全に計画的な犯行。

 

 

「主の持ち物を盗むとは……」

 

 

そう言いながら弁慶が落ちていた小石を投擲する。

ただの石も弁慶のパワーを乗せれば、弾丸となり武器となる。

 

 

「うぉらっ!」

 

「なにっ!?」

 

 

強いのは乗り物だけではなかった。

乗っていた男が運転しながら小石を拳で撃ち落とす。

もう距離も離されその姿も小さくなった時……

 

 

「あいつ、俺達から逃げられると思っているな。……いいだろう、まずはその

思い上がりをぶち壊す。」

 

 

決め台詞とともに大きな弓矢を構える。

その瞳は捕捉した獲物を逃がしはしない。

 

 

「お前は生と死の境界線を彷徨うだろう……奥義!七大地獄への誘い(ワールド・ツアー)!!」

 

 

矢はそれ自体が獲物を狙う鷹のように唸りをあげて飛んでいく。

まるで導かれたかのように離れた距離をものともせずひったくりに命中した。

 

 

「おー、すげーな!!京ばりの芸当だったぜ!」

 

「流石、那須与一って感じだよね。」

 

 

仲間達から賞賛の声が飛び交う。

九鬼の従者達が犯人を拘束し、鞄を回収しようとするが……

 

 

「あ?どうしたんだ?」

 

 

肝心の鞄が見当たらなかった。

流石に今の転倒で吹っ飛んだということはないはず。

男が何かをしたのかとも考える。

 

 

「鞄なら俺が持ってるぞ。」

 

 

そんな思考は海斗の鞄を掲げながらの一言で中断された。

 

 

「え!?海斗、いつの間に?」

 

「いや、鞄盗ったあと俺ともすれ違ったからそんときに。」

 

「なら焦る必要なかったじゃねぇか!」

 

「なんですぐに言わなかったんだよ。」

 

「なんか盛り上がってるみたいだったから。」

 

「………………」

 

 

皆、言葉を失う。

今までの一連のあれは何だったのか。

 

 

「ほら義経、しっかり持っとけよ。」

 

「ありがとう、流川君!」

 

「ふむふむ……」

 

「流石、特異点といったところか。」

 

 

義経は感謝して、弁慶はそれを感心したように眺めている。

与一は……相変わらずだった。

 

 

「………………。」

 

「海斗?どこ見てるの、早く学校行きましょうよ。」

 

「……あぁ、そうだな。」

 

 

一子は少し様子がおかしい海斗に疑問を感じながらも、海斗が歩き出したので

皆で学校に向かうのだった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『……作戦は失敗。アタッカーも拘束され、続行は不可能。繰り返す、作戦は

失敗……』

 

「邪魔が入ったか。……まぁいい。」

 

 

薄暗い部屋で笑う。

 

 

「まだ序の口だ。」

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