―不死川心
三大名家の1つである不死川家の娘。
幼い頃より優れた家柄であることを教え続けられてきたので、典型的なお嬢様
となってしまった。
誰に対しても自分のほうが身分が上だと思っており、庶民や凡夫、特に2−F
などは一人一人を見ようともせずひとまとめに“山猿”と見下している。
とにかくどこまでも超利己主義な少女。
そんな彼女はある日からずっと一人の男が気になっていた。
男は流川海斗という名だ。
あろうことか山猿と見下し続けているあの2−Fの生徒である。
普通なら近づこうともしない。
毛嫌いしている庶民どもと関わろうとも思わないし、そもそもそんな者たちの
ことを考えること自体時間の無駄だ。
しかし、心はどうしても忘れられなかった。
街が最大の危機に陥ったあの夜。
自分が凶悪なロボットたちに囲まれ絶体絶命のときに現れたヒーローを。
一瞬で数体のロボットを一掃してしまった強さを。
片手で体を抱えられ、下から覗いたその顔を。
ピンチを救った後に自分のことを気遣ってくれた優しい言葉を。
何度か接触を試みたが、いつも海斗の周りは他の女子で囲まれている。
あとは心の名家としてのプライドが邪魔をして、結局あれからろくに話さえで
きていない状況なのだ。
だが、会えなければ会えないほどに気持ちは募っていく。
そんな心に……
ガラガラ
「邪魔するぞ。」
チャンスが訪れた。
………
……
…
2−Sのドアを開ける海斗。
そもそも今日来たのには理由がある。
弁慶に呼ばれたのだ。
用件も聞いていないのでよく分からないのだが。
教室に肝心の弁慶の姿は見当たらなかった。
(な、何故海斗がここに!?……なるほど、やはり此方のことが好きで会いに
来てしまったのじゃな。にょほほほ、仕方がないのぅ。今回は特別に此方のほ
うから迎えに行ってやるとするのじゃ。)
きょろきょろと教室内を見渡す海斗に心は近づいていく。
内心やっと話せるということで心はうきうきしていた。
「海斗、久しぶりじゃのう。」
「あん?えーと………………心?」
「にょほほ、わざわざ来るとは可愛い奴じゃの。」
「あー、ちょっと聞いてもいいか?」
「なんじゃ?此方について聞きたいことがあるなら何でも聞くがよいわ。」
「弁慶ってどこだ?」
「は?」
「いや、俺弁慶に呼ばれて来たんだが。」
心はそのとき悟った。
海斗が自分に会いにきたのではないということを。
というかそんなことは分かっている、分かっていたのだ。
自分のことが好きだったらこんなに話せないままなわけがない。
それは誰であろうと理解できること。
認めなかったのは自分のくだらないプライド。
それを今はっきりと痛感させられて。
やっと会えた嬉しさを全部ひっくりかえされたようで……。
「弁慶など知らんわ!」
「おい、いきなりどうしたんだよ。」
「もうよいわ、お前などさっさとどこか行くのじゃ!……ぐずっ。」
……不死川心、涙腺は人よりも緩めである。
「なに泣いてんだよ?」
「うぅ…………」
海斗が泣き出してしまった心を放っとくわけもなく、優しく親指で目尻に溜ま
った雫を拭う。
そんな優しさがますます心をみじめにさせる。
でも、やっぱり分かってしまう。
いくら体裁を保っていようと、意地を張っていようと。
あのときも見たこの優しさが好きなのだ。
自覚すれば、またそれが余計に現在の状況を苦しくさせる。
心はもう耐え切れなかった。
「ほんとどうし……」
「好きなのじゃ!」
「は……今何を……」
「お前のことを好きだから、こうなっておるのじゃ!」
「な……!」
突然の告白。
勿論それも驚くべきことなのだが、ここは教室のド真ん中。
当然周りのクラスメイトの視線が集中する。
もっとも心に気にする余裕はないが。
「だからもう離さんか!全部此方の勘違いだったのじゃ、此方のことなどお前
にとってはどうでもよいのであろう!」
「自分のことを好きだって言ってくれる奴がどうでもいいわけないだろ。」
「…………!」
語気を強めて迫る海斗。
心はそれだけで息を止めてしまう。
「けど……どうでもよくない奴は心だけじゃないんだ。」
「……それは知っておるわ。別に今すぐどうこうせいというのではない。此方
が面倒になったから言っただけじゃ。」
「……悪いな。」
「ふん、此方を待たせる男なぞお前のような馬鹿者くらいじゃ。」
「そうだな、こんな泣き虫に酷いことしてんだもんな。」
「此方は泣き虫ではないわ!」
少なくとも現場を教室内の大勢には見られているわけだが……。
心がからかわれるのは後のこととして。
「これで此方も心置きなく声がかけられるというものじゃ。」
「それじゃ今まで遠慮してたみたいじゃないかよ。」
「……お前は何も知らなくてよいわ。」
心も笑顔を取り戻し、和やかな雰囲気になる。
と、そんなところへ弁慶が帰ってきた。
教室に入り、様子を見るなり……
「なんか少し準備してる間に凄いことになってるねー。」
こうしてまた海斗を巡るライバルが増えたのだった。