「俺が助けてやる」
「海斗ちゃんとってもかっこいいんですけど、どうすればいいですか。もうこれ以上毒を抑えてはおけないですよ」
「むしろそれで構わない。自分の体内の毒が制御できずに暴走するくらいなら俺に全部ぶつけろ」
シェイラの体を内部から脅かす毒があるなら、全て放出してしまって一時的に器を空にしてしまえばいい、その理屈はあっている。運動をして汗をたくさんかけば、体内の老廃物を排出することができることと原理としては近いものがある。まさに文字通りのデトックスというわけだ。しかし排出されるものがこれまた文字通りの“毒”である以上、それが意味するところは言うまでもない。
「な、何を言ってるか分かってますか!?毒の威力は……」
「それは何度も聞いた。シェイラを救うために俺を信じてほしい」
「海斗ちゃん…………、分かりました。あと、誤解しないでくださいね。海斗ちゃんのことは最初から信じてますよ」
「……これ以上ない激励だ」
海斗はベッドに横たわるシェイラを抱きしめた。これは体の接触面を大きくして、毒の移動をスムーズにするためだ。
これから海斗が行うことは決して複雑なことではない。シェイラの制御を離れ、自分に向けられた毒に対処すればよい。とはいえ、シェイラの本気の毒になると、元々毒に耐性のある体をもってしても太刀打ちできる可能性はないに等しい。それどころか、並の毒には通じるような気による相殺も期待はできない。
立ちはだかる壁はたったの一枚、だがその一枚が途轍もなく高い。
今相対しているのは自分の安否は棚に上げて、今日会ったばかりの他人を嘘をついてまで守ろうとした一人の女の子だ。相手が戦闘中の敵ならば、毒を使う前に倒す、毒を使えないように技を封じる、攻略の手段はいくらでも講じられる。守ることは圧倒することよりもこんなにも難しい。だが海斗が磨いてきた力は守るためのものだ。今ここで、自分を思ってくれた一人の女の子を守るための……。
………
……
…
「ん……ぅ……」
目が覚めた。まぶたがゆっくりと半目程度まで開く。とはいえ、思考はまったくまわらなかった。見慣れない天井をぼーっと眺めつつ、徐々に意識が覚醒していく。
「海斗ちゃん……!?」
バッと跳ねるように上半身を起こすシェイラ。しかし、衝動的に起こした体をとどめておくことはできず、またすぐに背中をベッドにつけてしまう。体が異常にだるくて力が入らなかった。いや、そうではない。だるいだけだった。先ほどまでの、とは言ってもどれほどの時間が流れたのかはシェイラの知るところではないが、毒に侵されていた辛さはすっかり体から消え去っていた。ついでに言えば風邪の症状すらもなくなっている。残っているのは力を使いすぎたときの疲労感だけ。
「あ……」
そこでハッとして左手の温もりに気づいた。意識が闇に落ちる前にも握られていた手は今も変わらずにつながれていたままだった。
「海斗ちゃん、大丈夫ですか!」
自分の毒が治まっているということは海斗が全部受け切ったということだ。ようやく思考がつながったときに、シェイラは海斗の異常に気付いた。海斗は毒に侵されていた。とは言うものの、シェイラの本気の毒をまともにくらっていたらこんなものでは済まない。
海斗は相殺するという選択肢を断たれたときに、自分の防御力、治癒力を気によって爆発的に増加させる手段を選んだ。対処としては最善の手ではあっただろうが、処理しきれずにわずかにあふれ出た毒が海斗を襲っているのだ。当の本人は、刹那的に気を膨れあがらせて一辺に消費したせいで意識を失ってしまっている。このままでは微量な毒とはいえ、時間をかけて全体にまわりきってしまえば、命を蝕みかねない。
海斗を救うには解毒が必要だった、外部からの解毒が。
「海斗ちゃん……、今度はシェイラちゃんに任せてください……ねっ……」
力もろくに入らず、体を起こすこともままならない。それでもシェイラは手をつないだまま、まるで糸を手繰り寄せるようにして、ベッドの上を這うように進んだ。そして、ベッドに頭だけ乗せて突っ伏した海斗の前までたどり着く。
―息が荒い。こんなに目の前に男の人の顔があることがあっただろうか。
シェイラは毒を生成するのと同様、解毒剤を作り出すことも可能だ。だが、この状況で解毒剤を作るのでは意識のない海斗に飲ませるという一工程をわざわざ増やすことになる。ならば直接解毒したほうが早い、シェイラはそう考えた。
「海斗ちゃん、これは緊急事態ですから、仕方ないんですよ。……んっ」
誰に言い訳するでもなく、か細い声でつぶやくとシェイラは海斗に口づけた。粘膜接触による直接解毒。やったことなど一度もなかったが、シェイラにためらいはなかった。海斗を救いたいという気持ちが強かったのは確かだし、海斗にキスをすることを嫌とは思わなかった。もちろん恥ずかしさはあったのだが、そこは海斗の意識がないことも幸いした。海斗の能力が凄まじかったようで残った毒を解毒するのは完全に回復とはいかないシェイラでも難しいことではなかった。
(海斗ちゃん……ありがとです)
ほどなくして、海斗の体から毒は消え去った。それでもシェイラの唇がすぐに離れることはなかった。
シェイラちゃん、ごめんなさい。とっても空いてしまって。
根本的に時間が取れない、その他諸事情が重なりこの体たらくです。ちなみにA4すらまったくさわれてません。でもマジ恋愛はかわってないつもりです。あぁ、燕の添い寝CD欲しかった……。