それはとある日の夜のこと。
この日、風間ファミリーはキャップが持ち帰ってきた高級食材でちょっとした
パーティを開いていた。
なんでも偶然手を貸した人が相当気前のいいお金持ちだったらしく、お礼にと
こんな豪勢なものをゲットしたのだが、普通ではありえない運だ。
そこは流石キャップというべきか。
「おー、これも美味いな。」
「これなんていくらするのかしら?」
「遠慮せずにじゃんじゃん食いな!それにしてもこんなに美味いんだから、海
斗も来ればよかったのになぁ。」
キャップがぶつくさ文句を言う。
せっかくのご馳走なので、さっき電話で呼び出そうということになったのだが
気持ちは嬉しいが外せない用事があるとかで断られてしまった。
「ま、あいつにも用があるっていうんだから仕方ないだろ。」
「…………」
ガクトは海斗の言葉を真に受けて、特に気にした様子もなく言うが、大和や海
斗のことを思うヒロインズたちは海斗の思惑を読み取っていた。
用事なんて本当はない、咄嗟に出た出任せだろう。
海斗はファミリーの集いを邪魔しないように気を遣っているのだ。
確かにファミリーへの勧誘は断り続けているものの、今では唯一反対派であっ
た京もしっかり海斗にメロメロなわけで何も気にすることはないというのに。
まあ、そんな優しい心を持つ海斗だからこそファミリーの皆も拒むこともなく
なっていったのだろう。
「……ねぇ、この料理少し取っておいてもいい?」
そんな一子の提案に反対する者はいなかった。
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盛り上がっていた秘密基地の中もパーティは終わり、残っているのは一子、ク
リス、由紀江、京の四人だけだった。
そこにやっと目的の人物がやってくる。
「うわ、すごい散らかってるな。」
「海斗!来てくれたのね。」
「お待ちしておりました。」
先程もう一度連絡をとり、今度はファミリーのパーティじゃなく彼女たちが海
斗を招待する二次会みたいなものだ。
その旨を伝え、4人が懇願すると流石の海斗も折れたようですぐに向かうよう
に言ってくれた。
部屋には少しだけ残された料理とそれだけでは寂しいと思い、新たに買い足し
てきたスナック菓子等々。
ほとんど前のパーティのものが残されているのも、四人が場所を使わせてもら
うかわりにと片づけを請け負ったからだ。
「なんか急いできたら、喉渇いちまったな。」
そう言って海斗は近くの少し水が入っていたグラスを手に取って、一気に飲み
ほした。
「ん?なんか変な感じだな……」
「え!?海斗、ここにあったの飲んじゃったの!?」
「それって確か……」
「うん、川神水。」
それは百代が気分を作るためにと持ってきた川神水だった。
川神水とはアルコールが含まれておらず……(以下略
たまたまグラス一杯分残っていたのを海斗が飲んでしまったらしい。
「水だと思って飲んだから驚いたんじゃない?」
「まったくモモ先輩にも困ったものだ。」
「まあ、害のあるようなものではないですから……」
「それに海斗ならなんとも感じなさそうだけどね。でも大丈夫だった、海斗…
………海斗?」
黙り込んでいる海斗のほうを見ると明らかに様子がおかしかった。
瞳は虚空を見つめ、発する空気もどことなく荒い。
「…………れ……」
「え?」
「俺の前に全員座れ。」
普通ではない海斗が発した最初の言葉はそれだった。
やはりどこかいつもからは異なる物言い。
「なんかやっぱりおかしくない?」
「ちょっと海斗、大丈夫なの?」
「聞こえなかったか?」
その声色に全員がびくっと肩を震わせる。
直接脳に語りかけられるような感覚。
「もう一度言うぞ、お座りだ。」
「わん!」
「ちょ……!?」
いの一番に行動したのは京だった。
海斗の前に飛び出して、跪くと迷いも躊躇いもなく犬になってみせた。
こういった適応力で右に出るものはいないだろう。
「京……なんというか流石だな……」
「わんわん!」
「京偉いぞ、よくできたな。」
「へ?」
ある種命令されるというプレイ自体を楽しんでいた京からしたら、そこからの
展開は予想外であり僥倖であった。
海斗にぎゅっと抱き寄せられ、その腕の温もりの中で撫でられる。
今まで味わったことのないような至近距離と気持ちいい手の動き。
まさに京にとって至福のときだった。
「ん〜〜〜〜……」
ここぞとばかりに顔を擦り付ける京。
海斗の腰に手を回して思う存分抱き着けるなんてまたとないチャンスなのだ。
そしてそんな様子をまざまざと見せ付けられた三人は……
「海斗、アタシも……!」
「自分も……」
「は、はい!」
綺麗に横並びに座って整列していた。
そこには従順に期待の眼差しを向けてくる少女しかいない。
「よしいいぞ。」
「はぁ……っ……」
頭を撫でられ充足を得る。
もはやこの一室は海斗が支配する空間となっていた。
「スナックでも食べるか?」
置いてあった一口サイズのスナック菓子を複数個、手に乗せる海斗。
そのままやってきて、座っている高さまでかがむ。
「自由に食べろ。勿論、手は使わないでな。」
「それって……」
食べ方は自ずと小鳥が啄ばむようなものに限られる。
それでも今更躊躇の気持ちなどなかった。
最初からノリノリの京に限らず、一子、クリスも順番に1つ食べていく。
そして、由紀江が最後の1つを食べ終えた。
「海斗さん……」
「ん?」
「……綺麗にしますね……んっ……」
「「「な!?」」」
あろうことか由紀江はスナックの粉で汚れていた海斗の手を舐め始めたのだ。
食べるときに唇が触れそうになるのも恥ずかしいというレベルであったのに、
あまりにもぶっ飛んでいる。
全員どこか変な気分にはなっていたのだが、その大胆すぎる由紀江の行動には
揃って目を丸くした。
おそらく由紀江自身も今一体自分がどんな行動に及んでいるのかをはっきりと
理解してはいないのだろう。
彼女の頭の中にあるのは純粋な海斗への奉仕の精神だけなのだ。
「はぁ……ちゅ……れろ……」
ただ、上目遣いでうるんだ瞳、赤く熱く火照った顔……
そんな状態で指一本一本に隅々まで舌を絡めて掃除していく様子はあまりに刺
激が強すぎた。
いつもなら即中断させられているようなことだ。
「ちょっとまゆっちストーーーップ!!!」
流石にこの状況でも止めが入った。
「……んむ?」
おそらく正常に頭が回っていないだろう由紀江はそんな一子の呼びかけにも、
薬指をくわえたまま首を傾げるだけだった。
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―数時間後
「それじゃ覚えてるの!?」
「だから、なんで俺が忘れなきゃいけないんだよ。」
少しの眠りから覚めた海斗が通常に戻ったようなのだが、てっきり酔っていた
と思っていた面々は記憶があることに驚いていた。
「じゃあスナックとかも……?」
「だから覚えてるけど?まあ、確かに後半は少しあやふやだが……」
おそらく最後のほうは眠気で朦朧としていたのだろうが、ほとんどのことは忘
れていないようだ。
しかし、どうやら異常なこととは捉えていないらしい。
それがある意味副作用みたいなことなのか。
「かーいと。」
「ん、どうしたんだ京?やけに甘えんぼだな。」
「おぉ……振りほどかれないしかわされない。」
京が海斗の腕を取るがツッコミの1つもこない。
この余韻の時間も若干ガードが緩くなるらしい。
「うーー、この
「なんか凄い疲れたぞ……」
勿論、本心を言えば疲れただけでなく嬉しいこともあり複雑なのだが。
何はともあれ大変なパーティになってしまったのだった。
「ところで由紀江はなんであそこで突っ伏して寝てるんだ?」
「…………完全燃焼よ。」