「弁慶、こんなところにいたのか……ってどうしたんだ!」
「海斗ー…………うへぇ。」
時間も結構過ぎた頃、義経が海斗たちのいる教室を見つけた。
中には完全に顔は赤くなり出来上がった弁慶の姿。
弁慶は完全に海斗によたれかかっていて、一人で立てそうにない。
「なんか、知らん間にこんなに酔っちゃったらしい。つまみで持ってきたイカ
も全部なくなってるし。さっきからずっとこの調子で俺にもたれかかってるん
だよ。」
「そうか、すまないな流川君。弁慶、ほら弁慶。」
「ん〜〜……ふふ……」
一方の海斗は完全に元に戻っていて、今の状況をあまり理解してはいない。
弁慶のこともただ酔っていることによって、自分に絡んできているのだと思っ
ている。
弁慶の心は今完全に海斗に支配されているのだ。
「はふーん……もうかーいとぉ……」
「今日は九鬼の迎えを呼んでやってくれるか?たぶんこれじゃ家まで無事辿り
つけないと思う。」
「分かった!今から義経が連絡する。」
今も海斗の胸にすりすりと頬擦りしている。
スキンシップが過剰なのも酔いとは全く違う理由なのだが。
「あ、義経は俺と一緒に歩いて帰らないか?」
「うん、なら義経はそうする。」
ということで帰りは義経と海斗の二人という組み合わせになった。
弁慶はというと、九鬼の従者達にやや強引に海斗から引き剥がされて車でつれ
ていかれたのだった。
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帰り道、二人は適当に川に寄り道していた。
「やはり綺麗な自然だな。」
「それだけ周りの人たちがここを大切にしてるってことなんだろうな。」
「義経はしきりに感心する。」
川神は街として発達しながらも美しい自然もそこかしこに残されている。
それが街の良さであり、温かさである。
「あ、見てくれ流川君!カルガモだ。」
「お、ほんとだ。」
目の前には水面を滑るように移動する数羽のカルガモたち。
その姿は見ているだけで癒されるようだった。
「とっても可愛いな。」
「見てはしゃいでる義経も可愛いけどな。」
「えぇ……義経はそんな……」
「はは、英雄なのにそういう自信は持ってないんだな。」
「それはそうだ、本来義経は女性ではないのだから。」
「それは関係ないだろ。俺の知ってる義経は紛れもなく可愛い女の子だ。」
「流川君……。」
「ほら、カモがもっと来てるぞ。」
「あ、本当だ!」
今日のこの寄り道は海斗のほうからこの前の義経の自由研究で興味が出たとい
うことで、義経をここに誘ったのだ。
義経はそれはもう満喫していた。
ただ海斗のほうは楽しみつつも周りを気にしているようだった。
義経はカルガモに夢中でそんな海斗の様子には気づいていない。
「そうだ、義経。のど渇かないか?」
「ああ、少し。」
「じゃあ買ってきてやるよ。」
「なら義経も……」
「いやすぐだから、ちょっとの間ここで待っててくれ。」
そう言って海斗はその場を離れた。
川のほとりに義経だけが残る。
「カルガモ……。」
ザッ
「あれ、流川君早かっ……」
「やっと一人になったな。」
「な、誰だ!」
「今朝のことがあったにもかかわらず、のんきなものだ。」
複数人の男たちが義経を取り囲む。
最初は不良かとも思ったが、すぐにそれを否定する。
考えなしに大勢で圧倒しようという並び方ではない。
一人一人がきちんと陣形を築き、最小限の人員が割かれている。
「よし、さっさと連れて行くぞ。」
「見事にひっかかってくれたな。」
「流川君!」
海斗が外側から男たちの肩をつかんでゆっくりと割り込んでいく。
そして、義経の隣に立った。
「君は飲み物を買いに行ったはずじゃ……。」
「やっぱこそこそ盗み聞きしてたか。あれはお前らを表に引きずり出すために
言っただけだ。」
「そうか。だが私たちは別に争うつもりはない。うちのボスがそこにいる彼女
と話をしたいというので少々強引な手段をとらせてもらっただけだ。」
「少々ねぇ……。」
「私たちのボスは大きな志を持っている。その目的の達成の足がかりのために
この現世に返り咲いた英雄との会談の機会を求めているのだ。」
「胡散臭い話だな。」
「流川君、義経は困っている人の力になれるなら出来ることはしたい。」
「義経……。」
「話をするくらいなら行ってあげたいと義経は思う。」
「おお、流石英雄、心が広い。ならば早速私たちと一緒に来てくれ。」
「待て、それには俺も同行する。文句があるんだったら、義経を連れて行くこ
とは認められない。」
「本当は不必要な者はアジトに招待したくないのだが、そう言うなら仕方ない
な。ボスに相談してみよう。」
男が連絡のために少し距離をおく。
「本当に行くつもりか?」
「義経が役立てるならそれは嬉しいことだ。」
「そっか……。」
一言二言の確認だけで義経の気持ちを変えるのは無理だと悟った海斗はそれ以
上何も言わなかった。
すぐに連絡に行った男も帰って来る。
「ボスから許可が出た。これから君たち二人を私たちのアジトまで案内する。
後についてきてくれ。」
海斗は警戒しつつも義経とともに男の背中を追うしかなかった。