真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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義経回です


裏切り

随分と歩かされて連れて来られたのは人気のない場所に建つ風変わりな建物。

風変わりといっても外観はコンクリート一色でデザインも何もないのだが、こ

んな何もないところに建っているにしては少々造りがしっかりしすぎているよ

うな印象を受ける。

簡単に言えば、馴染んでいないのだ。

 

 

「よし、この奥の部屋だ。」

 

 

中も複雑に入り組んでいて、入ってみると結構広いのが分かる。

そして重そうな鉄の扉の前まで案内される。

 

 

「ここで荷物をお預かりします。」

 

「俺は手ぶらだ。」

 

「義経はこれを……」

 

「待て、目を離すことはあまりしたくない。」

 

「大丈夫です、見ているところで金庫に入れさせていただきますから。中まで

お運びいたします。」

 

 

義経がいいというので海斗は渋々と納得し、中へ入った。

そこには椅子に座った人物。

 

 

「ようこそ、俺がここのボスだ。」

 

「よろしく、義経だ。」

 

「今日はここまでのご足労感謝する。かの義経と話せるのを楽しみにしていた

よ。」

 

「義経も力になれて嬉しい。」

 

「ゆっくり話をしたいから、こちらへ来てくれ。」

 

「ああ。」

 

 

義経がボスの座っている方へと近づこうとする。

 

 

「ちょっと待て、義経。」

 

「ん?どうかしたのかな、もう一人の客人。」

 

「それで“自然に”ポケットに手を突っ込んでるつもりか?」

 

「……よく意味が分からないな。」

 

「肩に力が入りすぎだ。それじゃ得物を握ってんのがバレバレだぜ?」

 

「流川君?なにを……」

 

「…………ふ、ふはは。なるほど、報告どおりおまけのお前は相当厄介な奴ら

しい。」

 

「やっと本性を現したか。」

 

「はぁ……わざわざ慣れない声色まで使ったっていうのに。」

 

 

ポケットからナイフを取り出して、横に放り投げる。

 

 

「どういうことなんだ?」

 

「だから言っただろ、最初っからこいつらに話す気なんてないんだよ。」

 

「お前は川で監視してたのにもすぐ気づいたらしいな。どうしてだ?」

 

「朝のひったくり事件の時点でだよ。」

 

「どういうことだ?」

 

「あのバイクの奴、耳に通信機みたいなもんつけてただろ。あれで個人の犯行

ではなくバックに組織があるってことが分かる。」

 

「だが、それだけでは見抜けないだろ。」

 

「登校のあの朝の時間帯、人があれだけ多いなかでわざわざ犯行に及んだ。考

えなしにもほどがある。あからさまな挑発をする馬鹿か、そうでなければ単純

にさっさと行動に出たいってことだ。それで今日は一応義経についていようと

思ったってわけだ。まさか本当にこんなすぐ行動に出てくるとは予想してなか

ったけどな。」

 

「どうやら相当なキレ者がついてきちまったようだな。」

 

「で?お前らの本当の目的は何だ?」

 

「話があるっていうのは嘘じゃない、とはいってもそっちの言葉を聞く気はな

いけどな。俺たちはお前らクローンの存在を認めない。」

 

「なに?」

 

「クローンなんて命への冒涜だ。細胞なんかから人間を新たに創造するなんて

神の真似事は愚か極まりない。俺たちの組織はそんなクローンという悪を滅ぼ

すいわば正義のもとに行動している。」

 

「だからクローンの主である義経をピンポイントに狙ったわけか。はっ、しょ

うもないな。」

 

「凡人には崇高な正義など理解できないだろうよ。」

 

 

はなから相容れない者同士。

噛み合うはずなどない。

 

 

「さっきお前のことをキレ者だと言ったが……」

 

 

男がパチンと指を鳴らす。

 

 

「無理矢理にでもこの場に来るのを止めるべきだったな。」

 

 

すると桁違いの数の部下が部屋に入ってきた。

それは広い部屋がほとんど埋め尽くされるほど。

 

 

「あのときは一応街中だったからな、ここなら誰に見られることもない。」

 

 

とにかく量にものを言わせている。

一人一人の強さなど知れているだろうが、それをしのぐほどの圧倒的な数。

しかも義経は先程刀を没収されているときた。

 

 

「義経、もう流石に状況は分かってるよな。」

 

「ああ、話し合いは無理なようだ。」

 

「義経の背中は任せろ、だから俺の背中は預ける。」

 

「え……わ、分かった!!」

 

 

敵の相当な数に海斗が言った言葉。

その言葉を義経は嬉しく思う。

 

 

「やれ!」

 

「いくぞ、義経。」

 

「ああ!」

 

 

戦闘が始まれば流石の二人。

敵の攻撃をしっかりと回避し、一人一人確実に倒していく。

だが、その数は全く減る様子がない。

途中でまだ外から足されているようだ。

このために一体何人を用意しているのだろうか。

 

そして疲れは動きを鈍らせる。

義経が敵に押されたときだった。

 

 

「うわ!?」

 

「義経!」

 

 

いきなり床が抜け落ちる。

相手は海斗たちを切り離す作戦に出たのだ。

見ればボスの姿もそこにはない。

向かったところは容易に想像がつく。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「くっ、ここは……」

 

 

落とされた義経は立ち上がろうとするが……

 

 

「う……。」

 

 

上手く体に力が入らずふらついてしまう。

別に立てないほど疲れているわけでもないのに。

 

 

「この部屋にはガスが充満しているんだよ。お前は力を発揮できない。」

 

 

そこにガスマスクをつけた相手のボスが現れる。

後ろには同じく装備を整えた大勢の部下が。

圧倒的な実力差があっても刀なしでこの状況下では厳しい。

そこへ追い討ちをかけるようにボスが言葉を紡ぐ。

 

 

「俺達が用があるのはクローンであるお前だけだ。もう一人のあいつは今頃俺

の仲間が帰しているだろうよ。なにせ安全は保証しているからな。お前は裏切

られたんだよ。その程度の価値しかないってことだ。」

 

「……裏……切られた……?」

 

「さっさと悪は滅びな。」

 

 

呆然とする義経に大勢が一斉にとびかかる。

ガスでほとんど力を持っていかれた義経に回避する術はない。

 

 

「なにそんな奴の言葉信じてんだよ、義経。」

 

「え?」

 

 

そこには諦めたはずの背中があった。

一緒にいて安心させてくれる後ろ姿。

 

 

「俺の背中は預けるって言っただろ?」

 

「海斗君……!」

 

 

咄嗟に叫んだのは“名前”だった。

泣き顔になって海斗に抱きつく義経。

ショックで何も考えられなかったのが晴れて、思わず溢れてしまった感情。

 

 

「どうしたんだ、俺が裏切るわけないだろ。」

 

「うん……!でも、その言葉を聞いた瞬間に怖くなって……!」

 

 

義経は歴史上でも兄である頼朝に裏切られている。

海斗が離れていく想像をした途端に自分では感情の制御が効かなくなってしま

ったのだろう。

海斗は義経が泣き止むよう、ゆっくりと頭を撫でて男達のボスをにらんだ。

 

 

「てめぇらの言い分は別に自由だ。クローンが非人道的だとか、それを貫きた

いなら勝手にやってればいいさ。けど、一人の女の子を大勢で囲んで正義を名

乗るなんて馬鹿なことはねぇよな。」

 

 

海斗は先程とは違う強さで敵を速く的確に倒していく。

それは背負うものを確認したから。

 

 

「何故、ガスマスクなしであれだけの動きが出来る……!?」

 

「要は空気を吸い込まなけりゃいい話だろ。次用意するなら催涙ガスとかにす

るんだな。ま、そうなれば目を瞑るだけだが。」

 

 

人間離れした能力。

あっという間に海斗によって組織は壊滅させられた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

帰り道。

 

 

「……海斗君、これからもずっと海斗君の背中を守らせてくれないか?海斗君

のために強くなりたいんだ。」

 

「いいぜ、そのかわり俺も義経のこと守るからな。文句はなしだぞ?」

 

「うん、分かった!」

 

 

義経は自分のことを守ってくれた男の横顔をじっと見ていた。

自分を一人の女の子として、熱くなってくれたそのかっこいい横顔を。

 

 

「…………………………大好きだ。」

 

 

海斗には聞こえない声で呟いた。

歴史上での悲劇のヒーローは救われ、こうしてまた一人恋に落ちたのだった。




これが海斗です
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