「おい、流川。テメェ俺様に殴られる覚悟はできてんだろうな!」
「海斗、これはどういうこと!?」
「いや、俺も今知ったって。」
朝からなにやら問題が発生していた。
それは昨日モロが偶然見つけた川神学園の裏サイトでのスレ。
スレのタイトルは“清楚なあの娘に彼氏がいるらしい”。
掲示板では多くの男たちが発狂し、そのなかで立ち上げた者があげた彼氏の名
前というのが流川海斗だ。
「ただの出任せだろうが。」
「いや、この立ち上げた奴は告白してフラれてんだよ。そのときに本人からし
っかりと聞いたらしいぜ。」
「だとしても、俺に覚えがないんだっつーの。」
「くそ、まだ俺達の希望を摘み取る気かよ……。」
「ガクトにとってはかなり深刻だからね。」
いつの時代もモテる男というのは多かれ少なかれ恨まれるものだ。
多くの、しかも美人の心を奪っていれば尚更のこと。
「……で、誰もツッコまないようだから言うけどその二人は?」
「海斗ー。」
「海斗君。」
「弁慶と義経だな。」
「んなことは分かってんだよ!」
「また知らないうちにフラグ建てて……弁慶はある程度予想していたけど、何
故義経まで……。」
京はもう海斗の凄さに呆れるしかなかった。
一子たちも海斗を好きである以上こういうことは仕方ないと割り切るほかにな
いのだった。
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学校に着くと、ほとんどの男子があの掲示板を見たのかかなり騒がしいことに
なっていた。
そこら中で“清楚ちゃん”だの“流川”だのという名前が飛び交っている。
出来ればすぐにでも事情を確認したかったのだが、こんな状況の中海斗がわざ
わざ3−Sまでいけばさらに変な噂が流れるだけだ。
なので放課後まで待つことにした。
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騒がしさを逃れて屋上で寝そべって風に吹かれる。
結局のところ誤解は誤解、すぐに沈静化するだろう。
「おっ、こんなトコでサボってる男のコはっけーん。」
完全に死角となっている屋上貯水槽。
だから突然の可愛らしい声には驚いた。
いや気が緩んでたとはいえ、ここまで気配なく近づかれた。
一体誰かと思い、見るとそこには川神学園の制服に身をつつんだ見たことのな
い女の子。
「サボってんじゃなくて、今は昼休みだ。」
「ありゃりゃ。それは失礼。」
「そっちこそ学園外の者じゃないのか?」
「……制服来てるのによく分かったね。」
「まぁな。」
綺麗な黒髪に愛嬌のある顔立ち。
容姿はお世辞抜きに整っているので地味で知らないとかではない。
それこそこの学園の生徒であったならば、ガクトあたりが騒いで海斗にも伝わ
っているだろう。
「ただ……“今は”だけどねん。」
「はぁ。」
海斗がよっと体を起こす。
「あれ?どしたの、別に私を気にせず休んでていいよん?」
「いや、俺だけ寝そべってたらなんか覗いてるみたいだろ。」
「大丈夫だよ、そんな隙は見せないから。別に気にしないのに、ふふ。意外と
純情クンなのかな?」
「変態クンよりましだ。」
「あははっ、面白いねキミ。私の名前は松永燕。名乗るつもりはなかったけど、
キミとは仲良くしたいかな。」
「そっか、俺の名前は流川海斗だ。」
「へぇ、海斗クンっていうんだ。私のことは……」
「燕でいいだろ。」
「ややっ、燕先輩でいいよって言おうと思ったけどいきなり名前呼び捨てなん
てやるねぇ。一応私年上だけど。」
「そういうの慣れてないんだ、悪いな。」
「ん〜、でも不思議とイヤな気はしないかな。海斗クンって独特の魅力を持っ
てるカンジだよね。ふーん……」
人差し指を口元に添えて、少し考えるような素振りを見せる。
数秒間、思案顔でかたまった後こんなことを言い出した。
「どう?年上に飼われたい願望とかある?」
「いきなり何言い出すんだ。」
「ちょっとした好奇心好奇心。」
「……俺は年上だろうが年下だろうが誰かの言いなりになるのは御免だ。たと
えそいつのために何か行動するとしてもそれは俺の意志で、俺がしたいからす
る、それだけだ。」
「なんかすっごいかっこいい答えが返ってきたね。ますます海斗クンのこと気
に入っちゃったかも。」
「そういう燕はどうなんだ?」
「私も誰にも縛られず自由でいたいけどねん。……でも、海斗クンになら飼わ
れてみても面白いかな、なーんて。」
「何言ってんだか。」
「でも海斗クンってさ結構モテそうだよね。」
「いや……。」
海斗のモテるイメージといえば万人から愛されるようなこと。
なので、そんな燕の問いは否定する。
だが、実際海斗は数人の女子から一斉に告白を受けている。
全く人から好かれない昔とは少なくとも変わっている。
「ふーん、気づいてないだけだと思うけど。」
燕の言うとおりだった。
なにせ一年生の間でファンクラブが存在することすら知らないのだから。
「おっと、ついつい話し込んじゃった。海斗クン、連絡先教えてくれる?」
「別にいいけど。」
「これ私の連絡先だから、ピッと。大事にしてよん、男の子じゃ海斗クンくら
いにしか教えないつもりなんだから。」
「ああ。」
「よっし、じゃあまたね。トウッ!」
燕は掛け声とともに姿を消した。
「俺もそろそろ戻るか。」
もう結構な時間も経過していたので海斗も屋上を離れることにした。