真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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アットホーム

工場が立ち並んで複雑に入り組んだ重工業地帯。

煙で視界は制限されているがもうすっかり道を覚えてしまうほどに海斗はここ

に通いつめていた。

いつものように進んでいくと一軒の新しくもボロボロでもない何の変哲もない

家が見えてくる。

だけど扉を開けてそこに待っているのは……

 

 

「海斗!来たのか、入れよ。」

 

「海斗くーん、待ってたよー。」

 

「はぁ……まぁあがりな。」

 

 

温かい三姉妹の出迎えだった。

 

そう、ここは板垣家。

カーニバルの後から頻繁に出入りするようになった。

天使や辰子、亜巳に会うという目的も勿論あるが、海斗には他に大切な目的が

あるのだ。

 

 

「ほら、これ少しだけど。」

 

「海斗……またアンタこんなもん持って来たのかい?別にいいって言ってるだ

ろ。」

 

「いや、俺も大して使わないし。三人もいるんだから食費だけでも結構大変だ

ろ?俺だってたまに飯ご馳走になってんだから気にすんな。」

 

 

亜巳に手渡した封筒の中身は小額の紙幣が数枚。

川神院で修行をしているということはそれだけ時間は制限される。

朝から晩まで毎日というわけでは勿論ないのだが、バイトなどに割けるような

時間は自ずと少なくなってしまう。

そんな状況下で両親不在の女の子3人が暮らしていくのはあまりにも苦しいと

思い、海斗はこんなことをしている。

 

 

「っていっても私の稼ぎもあるし、学生なんかに金をもらうのもねぇ。」

 

「その稼ぎってのも夜の仕事だろ?俺としては亜巳にもあんまそういうことし

てほしくないわけよ。もっと自分のこと大切にするべきだろ。」

 

「別に体を許したりはしないさ。豚どもを徹底的に痛めつけて、金を巻き上げ

るだけ。生意気に触れてこようものならお仕置きさね。」

 

「それでもな。」

 

「ふふ。なんだい、嫉妬でもしてんのかい?」

 

 

亜巳は小馬鹿にしたような口調で言う。

突っかかってくるのを茶化して、からかっているのだろう。

 

 

「そりゃ嫉妬もするだろ。」

 

 

海斗はそんな亜巳に真面目な目をして答える。

 

 

「亜巳のことを本当に好きならまだしも、こうやって家族のために働く亜巳の

優しいところも知らない、きたねぇ金持ちの奴らと亜巳みたいな女の子が関わ

るのはそれだけで嫌だけどな、俺は。」

 

「はぁっ!?……アンタねぇ…………」

 

「海斗君かっこいいなー、もーう。」

 

「お!アミ姉が顔赤くしてんぜ!」

 

「天、今すぐ黙んないと後が怖いよ。」

 

「……はーい。」

 

 

どこまでも仲の良い姉妹だった。

一朝一夕では真似できない、ずっと支えあってきたからこその絆が見える。

海斗がお金を渡す理由の1つはこんな3人を見ていたいからでもあった。

自分の過去には全くないその光景は自然と笑顔になるものだった。

 

 

「じゃ、俺は帰るから。」

 

「え〜、海斗君帰っちゃうのー。」

 

「あんま長居すると迷惑だからな。」

 

「うるさいよ、四の五の言わずに晩御飯食べてきな。これから辰が作るんだ。

ただで金をもらうわけにはいかないからね。」

 

「アミ姉もこう言ってるし、ウチも海斗がいてくれたほうが楽しいぜ!」

 

「そうか……なら食っていっていいか?」

 

「うんうん〜、じゃあ私張り切って作っちゃうよー。」

 

「そっか辰子料理できるんだよな……。ちょっと後で頼みがあるんだけど。」

 

「なんでも言ってよー、海斗君のためなら頑張るからー。」

 

 

辰子が果たして本当にやる気を出しているのかというマイペースな動きで台所

に向かう。

 

 

「んじゃ、海斗はこっち来てゲームしようぜ。」

 

「うーん、亜巳なんか手伝うことないのか?」

 

「特にないねぇ。この前来たときにも風呂掃除とか洗濯物とか手伝ってくれた

だろう。そこまで気遣う必要はないさ。」

 

「けど、ただ飯食わしてもらうわけだからな。」

 

「それなら天の相手してやっておくれよ。それも立派な手伝いさね。」

 

「分かった、なんか他にあったら遠慮なく言えよ。」

 

「…………お人好しだねぇ。」

 

 

天使のところに行き、二人プレイでガンシューティングのゲームを始める。

海斗にとっては初見だったが、二人の連携は随分とゲーセンで鍛えられたもの。

次々と出てくるゾンビを倒し、ステージを進めていく。

 

 

「なんか亜巳に気遣わせてんのかな。」

 

「どうしたんだ海斗、いきなり?」

 

「俺が金渡してるから、こうやって食事に誘ってくれてんじゃんか。別に俺は

そういう目的じゃないけど、あの空気じゃ誘わないわけにはいかないのかなと

思ってな。」

 

「もしかして“ただで金もらうわけにはいかない”のこと言ってんのか?あれ

は単にアミ姉の照れ隠しだと思うけど……。」

 

「俺が手伝うのも遠慮するし、逆に疲れさせてんのかなとかさ。」

 

「……でもアミ姉あれでもかなり海斗には感謝してたんだぜ。海斗には直接言

わないかもしんねーけど、ウチらなんて本当だったら川で魚とか獲って食わな

きゃいけねーくらいなんだからな。」

 

「でもそれを気にして、貸しとかには思ってほしくないんだよな。」

 

「……海斗はさ、気づいてねーと思うけどこの前隣に並んで洗濯物干してたと

きとかアミ姉、ウチやタツ姉にも見せたことないような顔してたんだぜ。ほん

と自然に微笑んでるっつーか、上手く言えねーけどアミ姉の負担になってるな

んてことはゼッテーないぜ。」

 

「……そうか、ありがとな。」

 

「今日だって海斗が来るって連絡あってからなんかアミ姉風呂入ってたし、意

外に海斗のこと……」

 

「……天?何話してんだい?」

 

 

ドスのきいた声に天使の肩がびくっと跳ね上がる。

恐る恐る振り返るとそこには目が笑っていない姉の姿。

 

 

「……あ、アミ姉……。いつからそこに?」

 

「お仕置き決定だね。」

 

 

……本当に仲が良すぎる姉妹だ。




板垣姉妹はみんな可愛い
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