盛大に盛り上がった歓迎会も終わった。
溢れかえっていた生徒たちはほとんど会場を去り、片付けもおおかた終わって
すっかり会場も空っぽの状態だ。
「海斗ー、ふにゃぁーー」
「いくらパーティだからって飲みすぎだって。」
弁慶も随分上機嫌でいつにも増して川神水が進んでいた。
またそこが指定席のように海斗にもたれかかっている。
どんなに酔っていても他のところには行かなかった。
「ほら、弁慶。海斗君に迷惑かけてはだめだろう!」
「大丈夫か?」
「うん、今日は車で帰ることにする。弁慶、もう離れて。」
「あぁ……海斗ぉ……」
残念そうな顔で弁慶が強制的に引き剥がされる。
義経も言葉どおり海斗に迷惑をかけないようにという心半分、嫉妬半分だ。
そんな二人が車に乗り込むのを見届けて海斗も帰路に着いた。
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「ふぅ……」
川辺を散歩しながら海斗は息を吐く。
今の落ち着いた空間がちょっと可笑しく感じられる。
そのくらい今日の歓迎会は騒がしく、賑やかだった。
義経たちも喜んでくれたし、満足の結果だ。
なんとなく食後の運動というのもかねて散歩してみているが……
そのとき、ぽつんと橋の下に人影が見えた。
人の少ない広がる草原の中では不自然に目立っていたが、それだけなら気にす
ることはなかった。
その者がいるちょうど真上。
橋の一部が何の前触れもなく崩れ、拳ほどのコンクリートの塊が分離した。
見たところ老朽化もしていない普通の橋でそれはあまりに異常な事態だった。
勿論、そのまま落下すれば下にいる者の頭に直撃、あの大きさであれば打ち所
が悪ければ死は確実だ。
誰かが攻撃するために計算しつくされていたとしても、ここまで上手くはいか
ないだろう、それほどの偶然。
しかし、ありえないと困惑している場合ではない。
海斗は近くにあった鋭利な石を拾い上げて投擲する。
流石にこの距離、正確に当てられるかに命がかかっているので蹴りではなく、
確実な方法を選んだ。
そうまでしただけあって石は見事にぶれることなく落下する塊を狙う。
勢いも衰えることなく完璧な状態で直撃した。
これでなんとか難は逃れた…………
「な……!?」
…………はずだった。
位置も速さも威力も向きも全てが計算どおりに上手くいき、無事塊を破壊する
ことには成功した。
しかしバラバラになった幾つもの破片は衝突の衝撃で飛び散ることもなく、ま
るでホーミング機能でもついているかのようにそこに佇む者に向かう。
大きさはマシになったとはいえあの数が被弾すれば無事では済まない、結局状
況はさきほどから何も好転していなかった。
「くそっ……!」
どれだけ偶然が重なればこんなことになるのかは分からないが、今目の前で起
こっていることこそが現実だ。
もう小手先の手段でどうこうしている暇はない。
海斗はそれを認めた瞬間、駆け出した。
一気に近づきその体ごと押して、避けさせようとした。
その海斗の手が触れる直前、塊がぶつかる直前、そこにいた女はわずかに身を
いた場所からずらした。
まるで上からの危機を察知したかのように。
ただ動き出してしまい全速力でここまで辿り着いた海斗はとめられない。
「うわっ!」
そのまま女を巻き込んで倒れてしまう。
勿論海斗は自分が下敷きになるように体を滑り込ませているのだが。
女は何が起こったのかも分からずいきなりのことに声を上げた。
「なっ……新手の賊か!」
「いや落ち着け、色々と説明しなきゃいかんがとりあえず俺は敵じゃない!」
「む、そうなのか?」
「とりあえずこの体勢を解こう。」
海斗がしっかりと相手を抱えてしまっている状態だ。
このまま話を進めるのは非常に気まずいので、お互いに立ち上がる。
適当に衣服に付着した砂埃を払い落とし改めて向き直る。
「一体お前は誰なんだ?」
「俺は流川海斗、普通の学生だ。お前が言ってたよく分からん賊とか組織の一
員とかじゃないから安心しろ。」
「そうか、よく襲われるものだから勘違いしていた、すまない。」
「俺はただ降ってきたコンクリートが危ないと思ったから、あんなことしただ
けだ。取り押さえようとかじゃない。まぁ、俺が手を出す必要はなかったみた
いだけどな。落ちてきてるの分かってたんだろ?避けようとしてたからな。」
「こんなこと慣れたものだからな。いちいち騒ぎ立てるほどじゃない。」
「“こんなこと”ってな……。一歩間違えれば待ってるのは死だぞ。」
「私は生まれながらの不幸体質だからな。気にしていたらきりがないんだ。」
「…………」
海斗は目の前の女を見て、何かを感じた。
単なる同情とかいう感情ではない。
さっきの出来事を普通といえるくらいの大変な過去があったのだろう。
呟いたその顔は何もかもを諦観しきっているような。
喜びとか楽しみとかそういうのを忘れてしまった表情だった。
「お前の名前は?」
「橘天衣だ。」
どこかで見たようなそんな表情を放っておけるわけがなかった。
ごめんなさい、更新忘れてました