真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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思惑

「ようこそ、海斗クン。私の家に。」

 

「ああ、邪魔する。」

 

 

やってきたのは燕宅。

なんで来たのかと言われれば答えは非常に単純で、この前の買い物のときと同

じようにいきなりの電話で、“明日うちに遊びに来ない?”と言われた。

理由などを聞く前に“じゃあ、来れるってことだね。楽しみにしてるよん。”

それだけ言われて一方的に電話を切られてしまったのだ。

 

 

「いきなり呼ぶなんてなんか用でもあったのか?」

 

「一緒にショッピングも行ったし、そろそろ順番的にお家に招待するくらいか

なーと思って。」

 

「何の順番だよ……。」

 

「ふふ、さてなんでしょう。」

 

 

もうこんな燕のからかいにも慣れたものだ。

にやにやと企み笑いをするのは毎回のことだった。

 

 

「男のコでこの部屋に上がったの海斗クンが初めてなんだからね。」

 

「そりゃ引っ越したばかりなんだからな。」

 

「京都に住んでたとき含めて私の部屋の中に入ったのは正真正銘海斗クンが初

めてだよ。」

 

「……そうか。」

 

「それじゃ私お茶でも入れてくるねん。」

 

 

燕はぱっと立ち上がって台所と思われるほうへと向かった。

いつも軽い調子の燕が時たま見せる真剣な感じは逆にふざけているときよりも

調子が狂うのだった。

それも含めて燕の演技なのかもしれないが。

 

 

「はーい、お茶だよん。お好みで納豆をどうぞ。」

 

「いや流石に入れないからな。」

 

「それは残念。」

 

 

もう早速かき混ぜ始めていたのできちんと最初に意思表示しておかないと、冗

談でもぶっこまれる可能性がある。

他はどうか知らないが燕ならやりかねない。

 

 

「じゃ、これはそのまんま食べよっか。はい、あーん。」

 

 

燕がかき混ぜた納豆の粒を箸ですくい、差し出してくる。

 

 

「ん、美味いな。」

 

「でしょ?良かったぁ、海斗クンにそう言ってもらえて。」

 

「納豆ってほとんど食ったことなかったけど、これは美味い。」

 

「納豆を食べたことなかったの?相当貴重だね。」

 

 

海斗はほとんど家では外食もしくは買ってきた市販品、学校では由紀江たちが

持ってきてくれる手作りの弁当を食べている。

そこに納豆が入っていることはまずない。

だから今まで口に入る機会はなかったのだ。

 

 

「もっと食べる?はい、あーん。」

 

「ああ。」

 

 

わざわざ燕の家までやってきて繰り広げられているのは奇妙な光景だった。

納豆も1カップ空けて一息つき、改めて海斗は部屋を見渡す。

 

 

「なんか本がいっぱいあるんだな。」

 

「海斗クン、本好きなんだってね。」

 

「まぁな。」

 

 

本棚は多くの本で埋められていた。

ただ並んでいるのは漫画や恋愛小説などではなく、到底少女の部屋には似合わ

ないような難解な経済学の本や歴史小説ばかりだ。

 

 

「読んだことあるのとかある?」

 

「見た限り結構あるな。」

 

「へぇ、本当に本好きなんだね。百代ちゃんの言ってた通りだ。」

 

「あいつそんなことまで言ってんのか。」

 

「百代ちゃんはよく海斗クンのこと話してるよん。なんだかんだですっごく気

にしてるみたい。今一番戦いたいらしいしね。」

 

「そんなの俺なんかは避けるのだけはできるから、長く戦えるとか思ってるだ

けだろ。」

 

「もう毎日のように話してる。」

 

「そういえば朝一緒に川神院で修行してるんだってな。」

 

 

一子が興奮気味に話していたのを覚えている。

やはり強い者、それも武神と渡り合えるほどの実力を持つ者の戦いを間近で見

れるというのは貴重なことなのだろう。

 

 

「うん、武神と直接戦える機会なんてそうないからね。」

 

「こっちにしてみりゃよく体がもつなって感じだ。」

 

「そうなんだよね、もう体のあちこちが痛くて見えないとこは傷だらけだよ。

……見てみる?」

 

 

そこでまた笑いを含んだあの顔をする。

お決まりのからかいパターンだ。

 

 

「いや、いいから。」

 

「ふふ、でもやっぱりまだまだ敵わないかな。百代ちゃんって技のバリエーシ

ョンも凄いから。」

 

「確かに近距離遠距離何でもありだもんな。」

 

「海斗クンもよく見学しに来てるんでしょ?百代ちゃんの技だっていっぱい見

てきたってことだ。」

 

「俺でもたぶん全部は見てないけどな。思いついたことを即やってみる、言う

のは簡単でも普通の奴には無理だ。それを難なく実践できちまうから、限界な

んてそれこそないだろ。」

 

「でも一番凄いのは瞬間回復だよね。戦いにおいてどんな傷でも瞬時にちょち

ょいっと治療なんてまさに武神の技!」

 

「けど、それにも弱点はある……」

 

「…………!」

 

 

その言葉を聞いて、燕が硬直する。

まるでいたずらが見つかった子供のように。

 

 

「……といいよな。」

 

「え?」

 

「じゃないと、誰も勝てなさそうだろ。」

 

「……そうだね。あるといいかも。」

 

 

その日は解散になり、海斗は帰っていった。

燕は外まで出て、その姿が遠ざかるのを見送りながら呟く。

 

 

「海斗クン、しっかり私の反応を観察してた……。やっぱ要注意人物だねん。

もう……ますます気になっちゃうな。」

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