真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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「海斗さん、実は妹が遊びに来るんです!」

 

「お、おぉ。」

 

 

いきなり話があると由紀江に呼び出されたので、何事かと聞いてみれば第一声

が今の一言だった。

それほど重大発表とは思えない。

 

 

「それでですね、海斗さんにも妹に会ってほしいんです。」

 

「俺がか?またどうして?」

 

「え!それはですね……い、妹が海斗さんの話をしたら会ってみたいと言うの

で!」

 

「はぁ、別に構わないけど。」

 

「ありがとうございます!」

 

 

由紀江がこんなことをお願いすることになったのは昨日のある一通の返信メー

ルだ。

由紀江は海斗に出会ったときからその人となりやこんな風に優しいというエピ

ソードをずっと妹の沙也佳にメールで送っていた。

とはいえ恥ずかしさもあるので直接好きだとかいうことは言わずにとにかく海

斗という素晴らしい人がいる一種の自慢のようなものを書いていたのだが。

沙也佳も姉の性格を重々知っているのでまさかと思い、そんな結論には至らな

かったのだがあまりの由紀江の推しに流石に疑念を抱き始め、送ってきた文面

が……

 

“その人お姉ちゃんの彼氏?”

 

などというド直球な質問だった。

由紀江は誰が見ているわけでもないのに慌てふためき、急いで否定したのだが

その後の徹底的な追及で最後には“私の好きな人です。”と白状させられる始

末。

それを確認した沙也佳が“お姉ちゃんの見る目が正しいかちゃんと私が確かめ

てあげる”などというメールをよこして現在このような状況だ。

勿論、そんな恥ずかしい経緯

いきさつ

を海斗に包み隠さず話せるわけもない。

思い出して顔を赤くする由紀江に海斗は首を傾げるのだった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

そして妹がやってくる日。

海斗は由紀江たちの寮で待っていた。

 

 

「どうも、初めまして妹の黛沙也佳です。あなたが……」

 

「ああ、俺が流川海斗だ。由紀江とは仲良くさせてもらってる。」

 

「ふむふむ……」

 

「なんだなんだ。」

 

「ちょっと沙也佳!」

 

 

沙也佳は海斗のまわりをぐるぐるとまわりながら隅から隅まで眺めていく。

しばらく見続けた後、由紀江に顔を向ける。

 

 

「お姉ちゃん……見た目で選んだでしょ。」

 

「えぇっ!?」

 

 

いきなりの沙也佳の言葉に由紀江は思わず叫んでしまった。

 

 

「確かにかっこいい顔がいいとかいうのも分かるけど……お姉ちゃんはそうい

うのに左右されないと思ってたんだけどなぁ。」

 

「ち、違います!私は海斗さんの人としての優しさをお慕いしてるのであって

……!」

 

「お姉ちゃん、さすがにこの人を前にその嘘は無理があるでしょ。」

 

「あうう……確かに海斗さんは外見もとても凛々しくて見惚れてしまうことも

ありますが、そうじゃなくて内面のほうがもっと素敵で……!!」

 

「ど、どうした、由紀江?とりあえず落ち着け。」

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

必死に否定する由紀江だが、確かに何も知らない者が海斗を見れば一番最初に

伝わるのはその整った容姿なのだ。

誤解が生じるのは不可避といえばそれまでである。

 

 

「それじゃ流川さんでいいのかな?川神を案内してもらえませんか?」

 

「沙也佳、案内くらい私が……」

 

「お姉ちゃんはいいから。……だめですか?」

 

「俺でいいならいくらでも。」

 

「お願いします。」

 

 

沙也佳はにこっと自然に微笑んだ。

なるほど、これなら友達が多いというのも頷ける。

そう感じるような柔らかい笑顔だった。

そんな沙也佳は外に出る前に一度振り返り……

 

 

「お姉ちゃん、しっかりチェックしてくるからね。」

 

 

取り残された由紀江には不安しかなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「どっか行きたいところあるか?」

 

「うーんと……じゃあお買い物で。」

 

「お土産とかか、なら少し大きめのとこ行くか。」

 

 

店という目的地を決めつつも海斗はゆっくりとした歩調で進んでいく。

沙也佳にとっては初めての街なのだ。

興味をそそられるものもいくつかあるだろう。

 

 

「人が多くなってきたな。」

 

 

この近くでイベントでもやっているのか。

はたまた単に休日だからという理由なのかは分からないが、店までの道に結構

な人混みがあった。

 

 

「一応はぐれないようにな。」

 

「あ……」

 

 

海斗の手が沙也佳の小さな手を優しく握る。

確かに知らない土地ではぐれてしまうなんて一大事だ。

沙也佳は自分の手を包む温もりを感じながら、海斗のちょっとした気遣いに感

心していた。

 

 

「…………」

 

「ちょっと休むか?」

 

「え、なんで……」

 

「顔が疲れたって言ってるぞ。」

 

 

事実、ちょっと慣れない人混みでやられていたのだがまさかそれを悟られると

は思っていなかった。

感情の機微まで読み取るなんてどれだけ相手のことを見ているのだろう。

それでも全く表に出していないつもりだった沙也佳の変化に気づけたのは海斗

だからであろうが。

 

 

「そこのベンチに座るか。」

 

「いえ、大丈夫で……」

 

「いいから、ちょっとそこで待ってな。」

 

 

そう言って海斗が一旦離れて戻ってくると、その手には何か持っていた。

 

 

「ほら、くず餅だ。甘いものでも食って休憩しようぜ。」

 

「あ……ありがとうございます。」

 

 

沙也佳はそれを受け取るとすぐに海斗の笑顔から目をそらした。

 

 

「流川さんって恋人とかいるんですか?」

 

「ん?別にいないけど。そういう沙也佳はいるってか?」

 

「私のクラスの男子なんて将来性ないですし……頭は良くても馬鹿ってかんじ

なんで。」

 

「ははっ、厳しいんだな。」

 

「………………」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「ただいま、お姉ちゃん。」

 

「帰ったぞ。」

 

「あ、海斗さん、沙也佳、おかえりなさい。」

 

 

夕方ごろ、寮に戻ってきた二人を由紀江が迎える。

そんな由紀江に沙也佳はぼそっと一言。

 

 

「流川さんってお姉ちゃんの彼氏じゃないんだよね。」

 

「え!沙也佳なにを……、違うに決まってるじゃないですか。海斗さんは…」

 

「なら私がもらっても問題ないよね。」

 

「え!?」

 

 

とびっきりの笑顔で放たれたとびっきりの言葉。

冗談なのか本気なのか妹の笑みに困惑させられるばかりだった。

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