真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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九鬼への招待

昨日のこと、メールで紋白から相談があるといった旨のメールが来た。

大したことではないのだが家への招待も兼ねたいらしく、紋白のような娘が素

直に頼ってきてくれるのは嬉しいので海斗も二つ返事で承諾した。

そして、トンネルを抜けて九鬼の本社までやってきたわけだ。

 

 

「でかいな……。」

 

 

あまりこっち側に来ることはないので初めて間近で目にしたその建物の大きさ

に圧倒される。

今世界で一番の企業というのも納得だ。

あっちの世界ではこんな大きな建造物はそもそも地下に入りきらないだろう。

 

今日はそんな建物にお呼ばれしたわけだが……。

入り口ではただでさえ強固そうな扉の前にいかにも実力者といった二人のメイ

ドたちが門番をしている。

友達の家にでも軽く遊びにくる程度のものだと思っていたのだが、どうやらテ

ンションを間違えたようだ。

場違いのような雰囲気が否めない。

 

そうは思いつつもまさかここまで来ておいて引き返すわけにもいかないので正

面から堂々と近づいていく。

せめて不審者だとか勘違いされて面倒ごとにならないよう祈るばかりだ。

 

などと考えていたら、早速前にいたメイドたちがこちらに気づいたようで駆け

寄ってくる。

最悪の予想が早くも現実になったかと思ったが……

 

 

「あの……この前矢から守ってくれたの覚えてますか?」

 

 

思っていたよりも相当友好的に接してきた。

 

 

「あー、あのときは与一が本買いたいって言ってたから色々迷惑かけて悪かっ

たな。」

 

「いえ、そんなのはよくて……。あのときは本当にありがとうございました。

あの状況だったら敵の私を助けてくれて、なんてお礼を言ったらいいか……」

 

「俺は別に敵なんて思ってなかったぞ。そっちは仕事として当然のことをした

だけだし、何より俺が傷ついてほしくなかったからしただけのことだ。」

 

「あ……///」

 

「とにかく怪我とかがなくて良かった。」

 

「あぅぅぅ…………」

 

 

間近で見るのに加えて、こんなことを言われてしまったら平常心を保っていら

れるはずもない。

メイドは顔を真っ赤にして今にも倒れそうなくらいふらふらだ。

海斗はその原因を自分が作り出していることにすら気づいていない。

 

 

「私もこの前荷物を持ってもらって……」

 

「重そうな買い物袋提げてたからな、イカは美味かったぞ。」

 

 

どうやらもう一人とも面識があったらしい。

運がいいことに海斗に決して悪い印象を持っていないメンバーが今日の見張り

役だったようだ。

 

 

「あと、メールもとても嬉しかったです……。」

 

「迷惑じゃなかったか?間違えて入ってただけとも考えたんだが……」

 

「いえ、あの……私がメールほしくて入れたんです。」

 

 

お礼にともらったイカが入っていた袋の中に一緒にあった紙切れ。

そこにはメールアドレスが書いてあったのだが、海斗に意味など分からずとり

あえず入っていたからには何かしら連絡をするべきかと思い、非常に簡潔な文

章“無事に帰れたか?”というのを送った。

それが非常に好印象だったということだ。

 

 

「その今度良かったらお茶でも……」

 

「ちょっと!抜け駆けはだめでしょ。」

 

「そんなルールはないし。」

 

「あんたメールのやりとりしたことあるんだから、そういうのは他に譲って後

回しが普通でしょ。」

 

 

何故か仲間割れが始まった。

海斗には理由が分からなかったが、その解決よりも今は急務がある。

 

 

「えっと……」

 

「あ、すみません。つい仕事を忘れてました。」

 

「今日はわざわざお越しいただきありがとうございます。」

 

 

さっきまでの雰囲気はどこへやら。

切り替えの速さは流石メイドといったところか。

 

 

「流川海斗様でよろしいですよね。」

 

「あ、ああ……」

 

 

自分の名前に様がつく日がくるとは思っていなかったので妙にむずがゆい。

やはり海斗にとって嫌だとかではないが、慣れないものにはかわりない。

 

 

「紋様からお話は聞いておりますので中にお通しします。」

 

「ああ、頼む。」

 

 

中に入るとやはり目に付くのはその広さだ。

廊下の幅だけでいくつも部屋を設置できそうなくらいのスペースがある。

 

 

「…………ねぇねぇあれってこの前のイケメンじゃない?」

 

「…………本当だ!なんでこんなとこにいるんだろう。」

 

 

すれ違っていくメイドたちがひそひそと話している。

どうやらあの追っかけっこの日に海斗のことを知った者たちだ。

そんな一部ではさながらちょっとしたスターの来日のようになっていた。

 

 

「おぉ!海斗来てくれたのか!」

 

「よ、紋白。」

 

 

廊下の向こうからやってきた紋白と挨拶を交わす。

厄介な執事は今は鳴りを潜めているらしい。

ただ何かあったら承知しないという殺気は重々伝わってきた。

 

 

「今日は何の悩みだったんだ?」

 

「いや特にはないのだが、海斗を一度招待したいと思っていたのでな。相談し

たいことがあると言ったら海斗は断らないであろう。」

 

 

見事に紋白に性格を暴かれつつある海斗だったが、こんな冗談も言えるくらい

打ち解けたということだろう。

 

 

「そういえば……」

 

「お久しぶりです。」

 

 

紋白が何かを言いかけたところで別の声が割り込んできた。

落ち着いたその声に、海斗はどこか聞き覚えがあった。

 

 

「やっとあなたを呼ぶことができますね、海斗。」

 

「……静初?」

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