九鬼へのご招待、その広い家で起こったまさかの遭遇。
そこに立っていたのは李静初だった。
「……静初?」
「はい、お久しぶりです。」
「お前こんなとこでそんな格好してどうしたんだ?」
「見ての通りのメイドです。」
「そっか……ちゃんと変われたんだな。」
「あなたのおかげで色々とありましたから。それよりも覚えていてくれたんで
すね、……海斗。」
「いや俺はそりゃ忘れてないけど、そっちこそよく覚えてたな。」
「私があなたのことを忘れるはずもありませんから。」
そんな李の言葉が素直に嬉しくもあり……
色々と聞きたいこともあったがそこで現在の状況を思い出す。
「なんだ、二人は知り合いであったのか?」
「えっとな、それは……」
「大丈夫ですよ、海斗。九鬼に入るときに素性は全てあちら側にも伝わってい
ますので、問題ありません。」
「ちょっと静初がまだ九鬼のメイドをやってないときに少しな。」
「私も今日紋様が呼ぶという男の名前を聞いたとき、もしかしてと思いました
が顔を見て確信しました。」
「だから少し様子が変だったのだな。」
「川神学園の屋上で少し違和感は感じたのですが、なにぶん海斗は気を感知さ
せませんから。」
「人をこそこそ動いてるみたいに言うな。」
「実際似たようなものです。なにせ……」
「おーい、あんま余計なことは言わないでくれよ。」
「分かっていますよ。」
「なら、いいんだけどな。」
李が頷いたのを見て、海斗もそれ以上は続けなかった。
その様子を見ていた紋白は、
「なんだか二人は相当通じ合っているように見えるぞ。」
「ん、そうか?別にそんなことないと思うけどな。」
「だが、何かお互いに理解している印象を受ける。」
現にさっきまでだって口に出さずとも目で会話しているようだった。
とても再開したばかりの二人とは思えない。
「ツーカーの仲を痛感したということですね。」
「うっわ、なんかこっちからさみぃギャグが聞こえてきたぜ。」
突然そこに介入してきたのは金髪の他のメイドだった。
すっかり話しているのを廊下だと忘れていたが、こんなとこなら誰かが気づい
て寄ってくるのも当然だ。
「……ステイシー、登場早々の発言がそれですか。」
「言われたくなきゃ腕磨きやがれ。」
「ふむ……精進しましょう。」
「で?この集まりはなんなんだ?」
訝しげに見回すステイシーとばったり海斗の目が合った。
かつて戦場を闊歩した傭兵の相手を見つめる眼光は獣のような鋭さも含んでい
たが、凡人ならまだしも海斗が今更その程度で怯むはずもない。
「なかなか肝が据わってる奴だな。」
「いきなり初対面でにらみ合いを始めないでください。」
「いや、見られたから見つめ返しただけなんだが。この金髪の娘も静初の仕事
仲間か?」
「はい、一応は。」
「静初だと?そんな親しい呼び方する奴がいたのか、李?はぁ、やることはし
っかりやってんだな、感心したぜ!」
「違いますから、勝手にテンション上がらないでください。海斗とはその昔に
知り合っただけです。」
「アァン?もしかしてこいつが李の話によく出てくる恩人とかいう奴なんじゃ
ねぇのか。」
「ま、まぁそうなんですが……。」
あまりにも唐突な暴露に李は困惑するが、事実ではあるのでここで否定するの
も何か違う気がして肯定するしかなかった。
「へぇ、こいつがねぇ……。なかなかロックな見た目してるじゃん。李も結構
面食いだったってことだ。」
「そんな下世話な解釈をしないでください。」
「フハハハ、海斗はそれだけではなく頼りにもなる男だからな!」
「頼りに?そんな強そうな感じはしねぇぜ。」
「人を見かけで判断するのは危険ですよ。」
「でもなぁ……」
「そういえば与一と二人でメイド部隊から逃げ切ったのであろう?」
「それお前のことかよ!?」
「あんまり昔のことを蒸し返さないでくれよ。」
「つい最近のことです。」
李の的確なツッコミに返す言葉もなかった。
「そのなりで力も持ってんのか。よーし、海斗だったか?お前を私の部下にし
てやるぜ。」
「いきなり何を言い出すんですか、ステイシー……。」
「ステイシーさん、ステイシー先輩、姐さん、好きに呼んでいいぜ。」
「選択肢が偏りすぎですし、何よりその質問は海斗には無意味です。」
「じゃ、ステイシーで。」
「海斗は基本初対面でも名前を呼び捨てです。」
「ファック、上下関係を教えてやろうか。」
それこそ本気ではないが素早い裏拳がステイシーから繰り出される。
しかしそれはすぐに阻まれた。
「主の客人に手を出すのはメイドとしてどうかと思いますよ。」
「チッ、軽い歓迎だろうが。」
拳は放たれる前に李に掴まれていた。
ステイシーはつまらなそうに腕を下ろした。
「別に止めてくれなくても頑張って避けるぞ?」
「いえ、今のは……」
「勝手に体が動いたとかじゃねぇのか?」
「う……」
「そういえば李にしても早すぎる反応だったし。」
「フハハ、流石海斗だ。大人気であるな。」
「この辱めはなんですか。」
「だからって俺を叩くな。」
軽いじゃれあい程度のパンチなのだが、なにせ元暗殺者。
秘孔とかをついていそうで恐ろしい。
「では部屋にでも移動するか。」
紋白が言って移動を始める。
海斗もその後についていこうとして李に引き止められる。
その向けられた顔はさっきまでとは少し違った。
「……海斗、本当に来てくれたんですね。」
「なんだよ、まさか静初が不安だったとかいうんじゃないよな。」
「不安ではありませんでした。……信じてましたから。」
「そっか。」
二人の交わす言葉は抽象的なものばかり。
それでもお互いに気持ちは伝わっていた。
―二人の出会いは少し昔に遡る。
奇妙な縁。
次回、回想編突入