海斗がやってきたのは屋上。
今の時間考え事にはもってこいの静かな空間だ。
(やっぱ調べるには実際に行ってみるしかないか……)
「おや、こんなとこでまた寝転がってる海斗クンはっけーん。」
海斗の顔に影が落ちたかと思うと、そこに立っていたのは燕だった。
この立ち位置は前にもあった気がする。
「燕こそこんなところに来てる暇あるのか?今は若獅子タッグマッチトーナメ
ントのことで忙しいだろ。」
「モチロン私も出場するし、お誘いもありがたいことにいっぱいもらってるん
だけどねん。私にも一応組みたい人はいるんだよね。」
「そりゃ強い奴と組まないと勝てないからな。」
「でしょ?で、どうかな海斗クン?」
「どうって?」
「私とペアになってくれない?」
「俺がか?なんでまた……何の戦力にもならんぞ。」
「私は優勝を目指すのはもちろんだけど楽しくやりたいんだよ。それなら海斗
クンかなって。回避は得意だって言ってたし、海斗クンは作戦とかたてるのに
頭がまわりそうだからね。」
「買いかぶりすぎだ。ふさわしい奴は他にいるだろ。」
「……私と組むのは嫌かな?」
「そんなんじゃない。燕からの誘いはありがたいが、俺にもちょっと所用があ
ってな。そもそも出場もまだ決めてないし、俺なんかよりもっと強いペアでも
探してくれ。」
「そっか……残念だけど仕方ないね。じゃっ、私は私で頑張るよ。」
燕はひゅっと跳躍すると風のように去っていってしまった。
海斗も続くように屋上を後にするのだった。
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海斗が去った教室に残された乙女たち。
もう目的は達成されなかったので用はないのだが……
「というかこれだけ集まっているのでしたら、この中から見つけることもでき
るのでは?」
「うん、確かにマルさんの言うとおりだな。自分もたまには違う人と組んで、
腕を磨かなければ。」
「お嬢様……、分かりました。ならば、私もお嬢様の越えるべき壁となるべく
最強のパートナーを見つけてみせます。」
そう言うと、マルギッテは颯爽と窓から飛び降りていった。
「んー……」
「…………」
首をかしげている小雪と京が数秒間に見つめあう。
そして、何かを感じ取ったのか……
「ペア決定だねー♪」
「うん、よろしく。」
似たような空気を纏う二人は互いに引き寄せられるかのように即ペアが成立し
た。
「義経、自分と組んでくれないか。その剣の腕を見込んでの頼みだ。」
「そんなことを言ってくれるなんて……ありがとう、だけど……」
「いいんじゃない、義経。私のことは気にしなくていいよ。元々義経と組む気
はなかったし。私は私でのんびり探すとするよ。」
弁慶もそれだけ言うと、後は任せたという感じで去ってしまった。
「じゃあよろしく、クリスさん。」
「ああ!チーム名はもう考えてあるんだ。“侍&ナイト”。和と洋の一対みた
いでかっこいいだろう。」
どうせならドイツ語にしろよというツッコミは誰もが喉まで出かかっていたが
発することはなかった。
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「海斗、おかえり。」
海斗が帰宅するとアパートの外で天衣が掃除をしていた。
おそらく大家が家賃のかわりとか言ってやらせているのだろうが、あんな程度
で本当にただで住まわせてやってるのだからつくづくお人好しだ。
「あの大家はどうした?」
「部屋でまた酒を飲んでいる。」
「ったく、あいつは天衣に掃除なんかやらせて……。狙われてるってのをちゃ
んと理解してるのか。」
「いや、これは半ば私が強引にやると言ったのだ。本当は何もしなくていいと
言われていたのだが、それでは私の立場がない。」
「…………」
どうやらあの大家はお人好しなんてもんじゃないらしい。
変人で、だらしなくて、人として終わっているところさえ除けば、物凄くでき
た人間だ。
「あ、そういえば天衣は若獅子タッグマッチトーナメントのことは耳に入って
るのか?」
「ああ。大家さんの部屋のテレビで見ていた。」
「どうするんだ?もし出たいなら俺がペアになってやらないとな。外の不幸か
らは守ってやるって言ったし。」
「海斗……。気持ちは嬉しいのだが、私は出場する気はない。一応黙認されて
いるとはいえ、九鬼の追っ手を既に武力で追い返してしまっているのだ。そん
な私が流石に九鬼主催のイベントに参加するのはまずい。」
「まぁそうか。そう言うとも思ったんだけど、一応な。」
「ありがとう、海斗。もしかして私のせいで他とペアが組めなかったんじゃな
いのか?」
「そんなの気にすんな。天衣が出場するって言ったときに俺が付き合えないほ
うがよっぽど最悪だろ。」
大家のことをお人好しなどと思っていた海斗であったが、自分も大概そうであ
ることなんて全く自覚がないのであった。
「あ、そうだ。天衣って九鬼の情報とかなんか知ってるか?」
「九鬼の情報?よく分からないが私は九鬼に出入りすることはほとんどなく、
管理されているという感じだったからおそらく海斗の求めているものはやれな
いと思う。」
「そっか……。」
天衣の答えに立ち止まること数秒。
海斗は次に自分がやることを見つけ、その日はとりあえず家に入るのだった。