―川神院
そこでは激しく薙刀とゴルフクラブがぶつかり合い、火花を散らしていた。
いつもより衝突音のインターバルが短い。
それが二人の気合いの入りようをありありと表していた。
「はぁはぁ……やっぱりこれだけ毎日練習してれば呼吸も分かってくるわ。な
んだかんだで強さも認めてるし。」
汗を拭いながら言う一子。
自分と組むペアを海斗以外で考えたとき真っ先に浮かんだのはこの川神院で毎
日修行を共にし、毎日海斗を奪い合っていがみ合っているいいライバルの顔だ
った。
「へっ、いいぜ!ウチもちょうどペア探してたとこだしな。海斗が組めないっ
ていうなら今回は共同戦線で決まりだな!」
一子から海斗が皆の誘いを断った話を理由まで詳しく聞いた天使も既に一子と
考えていることは同じらしい。
いつもはひたすらに戦いあう敵でしかないが、いざ味方の立場となればこれほ
どまでに都合のいいパートナーはいない。
激しい打ち合いの末、一子と天使は固く握手を交わす。
ここにまた新たなペアが誕生した。
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「……やっぱ実際に確かめるしかないよな。」
海斗がやってきていたのは九鬼の本社だった。
しかし今日は誰にもお呼ばれしていない。
なのでこのまま入れば客人ではなく不法侵入者だ。
「とりあえずは外から埋めてくか。」
入り口を守っているメイドに近づき、海斗は聞き込みをすることにした。
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―川原
そこには遠目からでも目立つ赤髪と金髪の美人が決闘を繰り広げていた。
辺りの草がむしられ、地面が抉られていることから戦いの激しさが垣間見える。
「ほう、なるほど。口だけではないようだ。なかなかやりますね。」
「ファーーック!てめぇこそ喧嘩っぱやいそこらのチンピラとは違うようじゃ
ねーか。」
「当然です、私は気高きドイツの軍人。いくら九鬼のメイド相手といっても遅
れをとるようなことはありません。」
「お、なんだなんだ。そっちも戦場で戦ってきたのか。」
「む……そっちもとは?」
「私は元々傭兵で“血まみれステイシー”なんて呼ばれてたからな。そこらの
メイドとは違うってことよ!」
「その名は聞いたことがありますね。私も戦場では“猟犬”として数々の戦果
をあげてきました。」
「猟犬……そうか納得いったぜ。」
「ほう……ますます面白い。いいでしょう、決めました。どうです?私とペア
になって大会に出場というのは?」
「おっ!ちょうど私も強い奴がいなくて困ってたとこだが……てめぇなら強さ
は心配なさそうだな。」
ここにまた強力な異色ペアが誕生した。
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「そうか、ありがとうな。」
「いえ、私の話なんかでお役に立てたのであれば……」
これで尋ねたのは何人目のメイドだろうか。
そこから得られた情報は全てが海斗の予想を裏付けるものだった。
ある人物の出入り、使用施設の類い。
それはいわゆる機密情報などではなく、一メイドが知るような切り取った日常
のワンシーンでしかないのだが、それらを自分のもっている情報、予想などと
組み合わせていけば自ずと答えに辿り着く。
(しかも、新しいことも見えてきた。)
それは決して具体的ではなくまだ雲を掴む程度なのだが、今やるべきことは確
実に見えた。
「これは俺も参加しないとまずい状況かもな。」
知ってしまった以上、もう黙ってみているだけというのは出来ない。
放っておけばおそらく無事にはすまない、そんな気がする。
だが、今更出場を決定したところでどうすればいいのか。
せっかく誘ってくれたものは既に断ってしまって、今頃他のペアを見つけてし
まっていることだろう。
天衣も予想通りなのだが、出場する気はないと言っていた。
最悪の場合は大会自体をぶち壊してでも……
「海斗。」
そんな思考を遮ったのは聞き覚えのある落ち着いた声。
「こんなところで突っ立って、どうしたんですか?」
そこにいたのはやはり海斗からすればまだ慣れないメイド服に身を包んだ李静
初だった。
たぶん李を知らない者なら無表情でこんなこと言われたら、退散してしまうに
違いない。
けれど、海斗は別に李が咎めているわけでも責めているわけでもないことは知
っているし、一見ポーカーフェイスの中に見える微細な表情の変化もわかって
いる。
「ああ、ちょっとな。」
「私でよければ力になりますよ。」
「え?」
「いえ、私はてっきり若獅子タッグマッチトーナメントのペアでも探している
のかと。」
「……なんで分かったんだ?」
「元暗殺者の勘です。」
「そんな物騒なもんで当てないでくれ。」
「冗談です。私は海斗の力になりますよ。海斗も公衆の面前であまり力を出し
たくないでしょうし、事情を分かっている私のほうが色々とやりやすいと思い
ますし。」
「頼んでいいのか?」
「任せてください。ただし……」
「なんだ、条件でもあるのか?」
「チーム名は怪盗アサシンなんてどうでしょう、くくっ。」
「……もう勝手にしてくれ。」