真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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嘘と本当

「じゃあ当日は一緒に戦ってくれるってことで。ありがとねん。」

 

 

燕は今まで話していた相手に手をひらひらと振って見送る。

これでとりあえず断られてしまったから参加できずに失格なんて事態は免れる

ことができた。

 

 

「……さってと。ペアも作れたことだしあとやることは1つだけだね。」

 

 

ペア探しのために走り回って、乱れた髪をさっと直す。

浮かべるのはいつもの笑顔。

そして一人、自分にだけ聞こえるような声で呟く。

 

 

「……海斗クン。」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

本屋で立ち読みをしていた海斗に携帯の振動がメールの着信を伝える。

時間帯的に珍しいものだったので誰だろうかと考える。

もしかすると京からのラブ爆撃メールかと思いながら携帯を開くと……

 

 

「ん?燕からか。」

 

 

メールの内容はこうだ。

 

“海斗クン、今時間あるかな?ちょっと大事な話があるから学校の屋上に来て

くれると嬉しいな。私待ってるから。”

 

簡潔に用件が書かれている。

しかし、大事な話とはなんだろうか?

つまりメールじゃ伝えられないことなのだろうが。

 

 

「とりあえず行くしかないか。」

 

 

海斗も1つ思うところがあったが……

携帯をしまうと川神学園に足を向けるのだった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

夕方の屋上。

いつもと同じはずのそこは何故か不思議な雰囲気を纏っていた。

 

 

「海斗クン、来てくれたんだね。」

 

「よぉ、燕。」

 

 

燕は座っていた手すりからぴょんと飛び降りると、海斗の前に着地した。

その表情もやはりいつもと違う感じがする。

 

 

「そういえば海斗クン、出場決めたんだって?」

 

「……情報がはやいな。」

 

「まぁねん。でも今日はそれは関係ないよ。」

 

 

燕の咳払いに変な予感がした。

 

 

「あのね……」

 

 

明らかに声のトーンが違った。

顔も夕日ではごまかせないくらい赤らめている。

 

 

「私、海斗クンとここで初めて会って、一緒にデートとかして……。今じゃも

うずっと海斗クンのこと考えちゃうんだ。」

 

 

いつものからかいではない真剣な表情。

続けられる甘い言葉。

 

 

「好きだよ海斗クン、私と付き合ってほしいの。」

 

「…………」

 

 

海斗はすぐに何かを返すことはできなかった。

 

 

 

「どうかな?」

 

「…………ふざけるなよ。なんでそんなことが言えんだよ。」

 

 

海斗の声にこもっていたのは怒りか悲しみか。

そんな判断しがたいものだった。

 

 

「え、海斗クン?」

 

「川神百代の討伐……。」

 

「!」

 

「それがお前に課された依頼だ。そうだろ、燕?」

 

「……そういえば前から私にカマかけてきてたよね。」

 

「確証がとれたのは本当に最近だけどな。」

 

 

海斗にふざけた空気など微塵もない。

燕はばつが悪そうに俯いている。

海斗はそんな燕を真剣な眼差しで射抜く。

 

 

「俺は別に策を使って有利に進めることに文句なんてないさ。俺から情報を引

き出すのも、百代の注意をそらせるために利用するのも勝手にすればいい。け

ど、そんな作戦のために告白するのは違うだろ。」

 

「そ、それは……」

 

「誰もが卑怯だっていう手を使うくらい構わない。けど、自分の気持ちを犠牲

にするやり方なんて間違ってる。そんな嘘の告白、いくら燕みたいな可愛い子

からのものでも嬉しいとは思わない。」

 

「……っ。」

 

「俺との戦いを避けるっていう目的もあったのかもしれないけど、俺は関係な

くやらせてもらう。かといって、知ったところで止めたりしようなんて思わな

いから安心しろ。」

 

「ちょっと待っ……」

 

「今度するときはちゃんと心から好きになった奴にな。」

 

 

最後に振り返ったその表情はとても優しい微笑みで。

それだけ言うと、燕に行動させてしまった気まずさからか海斗はその場からさ

っさと去っていった。

屋上に一人取り残される燕。

 

 

「やっちゃったなぁ。」

 

 

海斗の言ったとおりだった。

百代の調子を崩すこと、海斗との衝突を避けること。

それらを目的とした告白、ちょっと上手くいかなかっただけだ。

そう、ただそれだけのことのはずだ。

 

 

「あれ?」

 

 

自分の頬に何か温かいものが伝う感覚があった。

そのとき初めて気づいた。

自分は泣いているんだと。

 

何故?

練りに練っていた計画が簡単に看破されたから?

隠し通そうとしてきた考えが悉く見抜かれたから?

今まで確実に成功してきた自分の作戦が失敗したから?

 

 

「……あははっ。」

 

 

……分かってる。

そのどれもが答えじゃないなんてことも。

本当の答えがもっと単純で近くにあるものだってことも。

自分がわざとその答えから目を背けて気づかないふりで逃げてることも。

 

 

「はぁ……」

 

 

高い空を見上げる。

そこには雲も何もない夕焼けが広がっていた。

飲み込まれてしまいそうなくらいの一面の橙色。

カラス一匹くらいうるさく鳴きながら横切ってくれれば、燕が烏に笑われてる

なんて馬鹿なこと考えて気を紛らわすこともできたかもしれないのに。

こんなとき空はとても優しかった。

包み込んでくれるような温かさを持って。

それはもう残酷なほどに。

 

 

「海斗クン……。」

 

 

全て作戦だったはずだ。

どこからおかしくなってしまったんだろう。

それはたぶん、最初に会ったとき……

 

“燕でいいだろ。”

 

自分の名前なんて言うつもりじゃなかったのに。

自然と連絡先まで教えてしまっていた。

もうあのとき既に惹かれていたのかもしれない。

 

 

「……最初っから依頼とかなければ結果は変わってたのかな?」

 

 

宙に投げかけた問いの返事は返ってくるはずもなく。

本当の気持ちは心の中に留める。

流れ止まなかった涙はいつの間にかすっかり涸れていた。




ちなみに私はそう簡単に、はいとは言えません
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