真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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努力の成果

試合が終わってしばらく経った今も会場はまだ歓声に包まれていた。

さながら決勝戦レベルの戦いに興奮冷めやらぬ感じだ。

 

 

「今の試合は見事だったな。」

 

「あれがチーム大和撫子の力か……。俺がやられたデス・ミッショネルズをほ

とんど瞬殺となるとその強さを認めるしかないな。」

 

「まあ強い弱いに試合の長さは関係ないさ。今のは比較的短い戦いではあった

が、それだけ内容が濃かった。」

 

「一気に優勝候補だな。」

 

「やはり、まゆまゆも相当面白そうだ。」

 

「さて、お次は最後のブロックとなります。これで第一回戦の進出者が全て出

揃う、リトルシスターズVSストレンジャーズだ!」

 

「お、いよいよ妹の出番か。」

 

「よーっし、いくわよー!」

 

「ぶっつぶしてやるぜ、ぎゃはは!」

 

「……………………」

 

「ほんと何の反応もないと不安ね。」

 

「相手が誰だろうとウチには関係ねーけどな。」

 

 

正体を隠したまま言葉を発することもない相手はやはり不気味だ。

最低限の情報すら得ることができない。

戦いにおいてそれがどこまで鍵を握るか……

 

 

「では行きましょう!試合開始!」

 

「む……」

 

 

合図がかかってもお互いに一歩も動かない。

数秒のことでも緊張感が時間間隔を狂わせる。

 

 

「仕掛けてこないんなら、こっちからいくわ!」

 

 

さすがの一子も未知数すぎる相手の様子見をしようと考えたのだが、一向に行

動に移る様子のない敵を待つ性格ではない。

突撃する一子に相手の一人が迎え撃つように前に出て、もう一人は後退した。

 

 

(謎に包まれてるなら、それを明かす前に倒せばいいだけよ!)

 

「はぁっ!」

 

 

まずは右手のストレート。

当然それは防がれるが、そこからも攻撃の手を緩めず左の拳を放ち、右のロー

キックを織り交ぜ、相手のガードの上から左の回し蹴りを決め、連撃へと持ち

こんでいく。

それ自体は川神の基本練習の型を一子流に少しアレンジしただけの、単純な技

のコンビネーションである。

だが、一子のように毎日毎日練習を積み重ねて強くなっていくタイプの者はこ

ういった一番行っている基礎の技が特に磨かれている。

目立った必殺技でなくとも、日々の努力で体に覚えさせた無駄のない一連の攻

撃は相手を追い込む力となる。

 

 

「せいっ!」

 

 

その逃げる隙を与えない怒涛の連続攻撃は相手のガードの上からじりじりと体

力を奪っていくだけに留まらず、次第に防御をかいくぐってヒットしていく。

一度綻びが生じれば、それはだんだんと広がって大きな穴になる。

決定的なチャンスを逃しはしない。

 

一子は足を高く上げ、首を刈るような蹴りを放った。

主に気絶や戦闘不能へ直結する急所への攻撃というのは、威力よりも速さが重

視される。

それは急所の部分に当たるかどうかが重要であって、ヒットしさえすればそこ

まで重い一撃である必要性はないからだ。

目的がそういうことなら速さをとるのは当然だろう。

しかし一子の首を狙ったハイキックは急所への攻撃にしては重すぎた。

渾身の一撃といっても差し支えないそれを持ってくるのはリスクが高い。

大振りな攻撃はピンポイントへの繊細なアタックには不向きであるし、失敗は

相手に付け入る隙を与えてしまう。

 

だからといって、一子が技の選択を誤ったわけではない。

連撃のなかを相手は防いできたが、さっきまでペースは乱されつつあった。

何度も防御を抜けられれば、少なからず焦りを覚える。

その流れで少しモーションの大きい急所を狙った攻撃が来たのだ。

相手の思考は回避よりも防御へすぐ行き着いた。

 

ガードの体勢をとると見越した上での攻撃。

目的は勿論相手を一瞬で気絶させることなどではなく、ガードの上からでも怯

ませるような衝撃をかわされるリスクなしに打ち込むこと。

そこで気絶には遠く及ばないわずかな硬直が生まれる。

それこそ一子の狙い、次へつなぐためのステップ。

 

 

「川神流・鳥落とし!」

 

 

攻撃の流れからしゃがんだ一子は思い切りその力を解放するようにサマーソル

トキックを放った。

しゃがむという連撃には不向きな動作を自らが作り出した一瞬の隙で完璧に補

っている見事な連携だった。

必殺の蹴りは相手に鋭く突き刺さり、後方へと吹き飛ばした。

 

 

「いきなり決まったー!まるで演舞を見ているかのような流れる連続攻撃で開

始早々決着がついたか!?」

 

「妹があそこまで成長するなんてな……」

 

「なんだよウチの出番なかったじゃんか。」

 

 

天使が文句を垂れつつもこれで初戦突破、嬉しいのにかわりはない。

だが、蹴り上げられた相手が何事もなかったかのようにむくっと立ち上がる姿

でそんな気持ちはぬか喜びにかえられた。

 

 

「え!?確かに手ごたえがあったのに……」

 

「……………………」

 

 

綺麗に顎を打ち抜いた感覚はあったのだが、少し外れていたのか?

確かに正体を隠すため纏っている装備で当たったかの判断は確実ではないのだ

が、それでもよろめかずに立ち上がれるようなダメージではないはずだ。

 

一子が腑に落ちないでいると、さっきまで後ろでスタンバイしていた者が前に

出てきて立ち位置を入れ替えた。

そのとき一子の体に寒気が走る。

表情は見えないのにまるで目の前の敵がうすら笑ったかのような。

 

漠然とした嫌な感じ。

何かも分からないまま構えをとる。

 

試合はまだ終わらない。

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