真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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未知なる力

一子の前に立つ正体不明の相手。

先程の敵とは入れ替わりに出てきたそいつから発せられる違和感。

純粋な気とも殺気とも違うそれ。

言うなれば、本能が告げる危機感といった感じだろうか。

何も状況は展開していないのに自分が崖っぷちに追い詰められたような。

漠然とそんな不吉なビジョンを浮かべさせた。

 

 

(怯んでなんかいられないわ。)

 

 

姿を隠すことでより一層不安を煽られているだけだ。

人間にとって未知とは恐怖である。

しかし、そうなればそれこそ相手の思う壺になってしまう。

だから一子は意志を強く持ち直した。

 

依然相手のほうから仕掛けてくる様子はない。

先程の者にしても無抵抗とまではいかないが、少なくとも積極的にカウンター

を狙ってくるということもなかった。

ならば、臆することはない。

反撃の余地を与えず攻め続けるだけだ。

 

一子は一歩踏み込んで、上段へ正拳を見舞う。

そこからまたコンボにつなげていけばいい。

だが、予想外に相手は初撃をわずかな上体の動きのみでかわしてみせた。

回避に無駄な動きがない分、攻撃を仕掛けた一子の隙が明白となる。

それを待っていたかのように相手の右の拳が繰り出される。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

咄嗟に防ごうとするが、正直追いついているとは言い難い。

元々浅い攻撃なのでダメージこそ大きくないが、そこから拳の応酬へと持ち込

まれ、蹴りの連打へとつなげられる。

 

 

(なっ、はやい……!)

 

 

守りをかいくぐるような高速の連撃。

それは一撃目をくらえば抜けられない砂地獄にはまったようだった。

だが、追い詰められているのをよそに思考は別のところに向いていた。

先程からの相手の戦闘スタイルに何かひっかかりを覚える。

単純な強い弱いとかの話ではなく、上手く言い表せないのがもどかしいが、は

っきりとしない違和感が確実にあった。

それでも実際、気にかけている余裕はないほどの攻撃が続く。

 

 

「あんにゃろー、なにやられてんだっ!」

 

 

相手が今まで片方ずつ前に出るという特殊なスタイルをとっていたため、後ろ

で非常時に備えて様子を見ていた天使も黙っていられない。

 

 

(しかも、あの攻撃は……)

 

 

 

まだ不確かな部分もあるが、第三者の視点から見ていて何かに気づいた様子の

天使。

うってかわって形勢逆転された一子のピンチに助けに入ろうとするが……

 

 

「あ!?ンだよ、テメー!」

 

「……………………」

 

 

援護に向かおうとした天使の前に立ち塞がったのは一子と最初に戦っていて、

今は後ろで控えていたはずのもう一人だ。

 

 

「どきやがれ!今まで大人しくしてやがったくせに……」

 

「……………………」

 

「……いーぜ。なら、ウチのゴルフ護身術の餌食になりなぁ!」

 

 

ゴルフクラブを構えた天使は相手の反応も待たず、速攻で叩きつけた。

速さ威力十分のその攻撃は海斗と出会い、川神院で毎日真面目に鍛錬を積んで

きたことによる賜物だろう。

その一撃を敵は同じく一瞬で取り出した武器によって防ぎきっていた。

そして天使は初めて見せた手の内に驚いた。

 

 

「な……棒?」

 

 

一方で一子は一方的な展開を強いられていた。

終わりの見えないラッシュ、状況は不利になるばかりだ。

だが違和感の正体はなんとなく掴み始めていた。

先刻から相手の次の動きを予想している自分がいること。

何故そんなことを考えているのか。

 

そして、一子は確信することになる。

突如一定に保たれていた乱撃のリズムが崩れ、大振りなハイキックが来る。

これ好機と思う一子はすぐさまその一撃をしっかりガードしにいくが……

どうしてだ、これは罠だと知っている自分がいる。

感じていたのは違和感ではなく、“既視感”。

もう防御を解くことは間に合わない。

気づくのが数秒遅かった。

 

 

「く……しまっ……!」

 

 

その蹴りは重く、ガードの手を痺れさせた。

硬直した一子を確認した相手の次の一手はもはや言うまでもない。

 

 

(やっぱり……この動きは……!)

 

 

相手は一瞬低くかがんだかと思うと、そこから強烈なサマーソルトキックを繰

り出してきた。

そう、まさしくつい何分か前に一子が放った技、“鳥落とし”と一切の違いは

見当たらない。

そっくりそのまま返されたのだ。

 

気づけば最初の右ストレート。

あそこから全部一子の技の完全なコピーだったのだ。

しかもただの模倣ではなく、威力・精度・速度、どの点を取り上げても一子の

オリジナルを数段進化させている。

序盤で一子が披露したのを初めて見たばかりにも関わらずだ。

一子の知識で例えるとするなら、それは海斗並のコピー能力。

 

 

「っ……はぁ、はぁ……」

 

 

もろに入った蹴り上げのダメージは甚大なものだった。

朦朧とする意識、だが一子は最後の一線は踏みとどまった。

諦めない心、これもまた彼女が持っている強さだ。

 

 

「勝負あり!」

 

「……え?」

 

 

だがその声は無情に響く。

上手くまわらない首を向けると、もう一人に棒で場外にはじきとばされ、膝を

ついている天使の姿があった。

 

 

「クソ……!」

 

(こいつ、アミ姉と同じ……いやそれ以上に棒術がつえー……)

 

 

 

会場は今までとは違う種類の驚きに包まれていた。

 

 

「勝者ストレンジャーズ!!」




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