真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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訪問者

地まで届きそうなくらい長く伸びた漆黒の髪。

姿勢よくすらりと構える佇まいからも気品が溢れている。

ただその表情は背中が語る凛とした様子が嘘のように涙目になっていた。

 

 

「うぅ……二人とも昼ごはんは一緒に食べようって約束してたのに、いつにな

っても来ないじゃないか……」

 

 

ぐすっと鼻をすするような音が時折聞こえてくることからも、相当にメンタル

が弱いことが分かる。

待ち合わせ場所と思われる広場で待ちぼうけをくらうそんな彼女の姿は色々な

意味で人の目を集めていたのだった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「出てきたのはいいが、どこで食べようか……。」

 

 

流石にポテトだけで腹は膨れない。

午後からの試合にも備えて、しっかりエネルギー補給をしておこうと思ったの

だが……

 

 

「そういえば一人で外食なんてそうないよな。」

 

 

一子や京たちに連れられて付き合いでというのは何回かあるが、それは自分で

選択する必要がないから楽なものだ。

特に好き嫌いがない俺としては相手に合わせられない場合、どこに行けばいい

のだろうか。

休憩室を出るときに静初のことも誘うには誘ったのだが……

 

 

………

 

……

 

 

 

「静初も一緒に飯食いに行くか?」

 

「いえ、私は海斗から頼まれたアレを済ませておきたいので。」

 

「あー……そっか、悪いな。」

 

「いえ、私で役に立てることならなんでも言ってください。」

 

 

 

……

 

………

 

 

自分で頼んだこととはいえ、あそこまで熱心に取り組んでくれる者もそういな

いだろう。

だからこそ静初に頼んだのだが。

 

 

「ん?」

 

 

結局、回想だけで何の進展もしていない昼飯の案件について考えながら、歩い

ているところに一つの光景が飛び込んできた。

誰もが気軽に待ち合わせに使えるような大きな広場。

その中でまるでタイル一個分から出ることまでを制限されたかのように所在な

さげに小さくまとまっている少女が一人。

なんというか一瞥しただけで分かるくらい浮いていた。

 

見たところ確実に困っている様子なのだが、周りの者たちは何故か関わろうと

せずに通り過ぎていく。

その理由は彼女が首を動かしたことで理解できた。

整った目鼻立ち、真っ直ぐな黒髪でさらに映える白い肌、文句なしの美人だ。

その完璧な美しさがある種の近寄りがたい、話しかけがたい雰囲気を作り出し

てしまっているのだろう。

 

だが可愛い少女に寄って来る虫はいる。

そんなことになる前に声でもかけてみよう。

 

 

「おー、綺麗な姉ちゃんじゃねぇの。なになに待ち合わせ?よかったら俺らと

お茶しなーい?」

 

 

……遅かった。

典型的な馬鹿というのはどこにでもいるものだ。

今はイベントで人が集まってきているし、尚更か。

 

 

「ん……なんだ、お前たちは。」

 

「いやいや君困ってるみたいだったからさ、そういうの俺たち放っとけないか

らさー。」

 

「別に大丈夫だ。」

 

「遠慮なんてしないでさ、ほら。」

 

 

男の片方が彼女の手を握ろうと手を伸ばす。

それをあろうことか少女は躊躇いなく払ってみせた。

 

おいおい、嘘だろ……

あんなんじゃ沸点の低い男たちへの挑発にしかならない。

 

 

「な、ちょっと優しくしてりゃ調子に乗りやがって……」

 

「はい、そこまでにしてくれ。なんか迷惑かけたみたいで悪かったな。俺がち

ょっと待ち合わせに遅れちまったからさ。」

 

 

戦いを回避する賢い術は身につけている。

あたかも知り合いの振りをして、彼女と一緒にこの場から離脱しようと思った

のだが……

 

 

「待て、私はお前のことも知らない。」

 

「…………は?」

 

 

こいつはなんて空気が読めないんだ。

普通流れで理解できるだろう。

 

 

「残念だったな、兄ちゃん。フラれちゃってよ。まあ、お前らが本当に知り合

いだろうが、どの道逃がす気はなかったけどな。」

 

 

そりゃ男たちも馬鹿にされたようにしか感じないだろう。

こんなことでは逆効果だ。

 

相手の狙いは結局少女一人だ。

また先程と同じように手を伸ばす。

今度は払ったくらいで引き下がってくれることはないだろう。

こんな中で目立ちたくはないんだけどな。

仕方がない、そう思って腹をくくったのだが……

 

 

「のわっ!」

 

 

手を伸ばした男は無様にも地に転がされていた。

ちなみに俺は何も手を下していない。

やったのは他ならぬ目の前の少女。

 

手を掴まれそうになった一瞬。

彼女は全く無駄のない最小限の動きで手をひねって回避すると、逆に相手の手

首にその手を添えて、そのまま流すように振るった。

結果、ほとんど腕力などは使わずに相手の勢いだけを利用して制してしまった

のだ。

 

一般人にはばれないような早業だったが、この距離でしっかりと確認できた。

武道をかじった程度の女の子とかいうレベルでは既にない。

相当、戦いなれた者の手際だった。

 

 

「はぁ……」

 

 

一体、何者なんだ。

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