少女の予想外の技によって気絶させられて地面に転がった男。
敵と対峙する彼女に先刻までの落ち着かない様子はなかった。
別人のような凛とした姿がそこにはあった。
「どうする、お前も同じように襲い掛かってくるのか。」
残された男も流石に状況が飲み込めたのか、すぐさま退散していった。
この倒された男も弱すぎたおかげで上手く技にかかって怪我はしていないよう
だし、意識が戻れば帰るだろう。
「残るはお前だけだが。」
「え?いや、俺はあいつらの仲間じゃない。」
「だって私を同じように連れて行こうとしたじゃないか。」
「違うって、なんか困ってたみたいだからさ。」
「ほら、その言い方だってあいつらと全く同じだ!」
「なんでそうなるかな……」
今だけはテンプレ化されたナンパ野郎どもの誘い文句を本気で恨みたかった。
まあ、あんなことの後で警戒心を捨てろというほうが無理な要望か。
「俺はただ……」
助けようとしただけだ、と言おうとして口を止めた。
実際俺は何もせずに彼女が自分の力で窮地を切り抜けただけだ。
後から助けようとしてたなんて言葉だけもらったって、それこそ都合のいい嘘
にしか感じられないだろう。
だったら、ここは正直に……
「放っておけなかったから。」
「ほら、やっぱり同じだ。」
「…………」
おい俺、言うに事欠いてもそれはないだろ。
確かに俺の気持ちに嘘偽りない言葉ではあるが、ナンパ野郎どものマニュアル
ブックにも巻頭掲載してそうな台詞回しを選んでしまうとは。
これじゃ同じことの繰り返しだ。
「そうじゃなくて、なんでこんなとこに突っ立ってたんだよ。本当に人と待ち
合わせでもしてたのか?それで来てくれないとか?」
「……お前には関係ないだろう。」
「……質問を変えるか。なんで泣いてたんだ?」
「な、そんな私は別に泣いてなんて……」
「目尻にしずくが溜まってるぞ、ほら。」
軽くぴっと指で払ってやると、やっと自分でも明らかな証拠に気づいたのか顔
を赤くしてしまった。
見れば見るほど、さっきの落ち着いた雰囲気が嘘のようだ。
照れたり涙目になったり、表情が豊かな普通の少女にしか見えない。
「つーわけで理由話してみ。」
「別にいいだろ。何故お前に話さなければならない。」
本当にここだけは頑なだな。
だったら……
「俺だって暇なわけじゃないんだけどな。」
「だからさっさとどこかに行けばいいだろう。」
「あーあ、時間がもったいないな。」
「な、なんだ、私が悪いのか……?」
「誰かさんが早く話してくれれば済む話なんだけどなー。」
「……うぅ……ごめんなさい、話すからぁ……怒らないで……ぐすっ。」
なんとなくだが、この子の扱い方を掴めた気がする。
とはいえ少々効果がありすぎなんだが。
………
……
…
「つまりは待ち合わせ相手が時間になっても来ないんだな。」
「ああ、それで土地勘もないから下手に動けないんだ。」
まあ、こんな時だから外部からの者も多いからな。
この子もタッグマッチを見に来たとかなんだろう。
「じゃあ、俺と一緒に飯でも食うか?」
「何故私が……」
「はぁ、時間も少ないうえに一人寂しく食事か……。」
「分かった、お願いするから!」
慌てた様子で答えてくれる。
本当にいい子だ。
というわけで近場の食事処を探して、とりあえず歩き出した。
「そうだな、なんか好物とか……あ、そういや名前聞いてなかったな。」
「名前は悪いけど言えないんだ。別にお前のことを警戒しているからとかそう
いうのではないんだけど……すまない。」
「別にいいよ、事情はあるだろうしな。俺は海斗だ、別にお前のままでもいい
けどな。」
「いや、なら海斗と呼ばせてもらう。……あ、あの店はなんだ?」
「ん?」
指を向けた先を見てみると、そこには何の変哲もないファミレス。
紛れもなく日本全国にあるチェーン店だと思うのだが。
「え、あそこでいいのか?」
「初めて見るから、ちょっと興味がある。」
断る理由はなかったので入店したはいいが、“初めて見る”とは。
もしかしたらとんでもないお嬢様とか……想像できん。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「二人で。」
こんなマニュアルとのやり取りのようなものを物珍しげに後ろで見ている。
本当にどう育ってきたらそんなことが…………俺も人のことは言えないな。
まあ、有り得ないほど高いとこに入りたいなんて言われなかっただけ、ラッキ
ーと考えたほうがいいのか。
店員に席へと案内され、着いて早々メニューを広げる。
少女はそれを隅から隅まで食い入るように見つめていた。
時々“なんだこのカラフルなのは……”とかいう呟きが聞こえてくる。
ページ後半のほうなので、おそらくデザートのパフェか何かだと思う。
正直、この様子は見ていて飽きない気がする。
―数分後
「ど、どうしよう……」
「………………」
休憩時間内に帰れるだろうか……。