「さて皆様ごゆっくり休憩できたでしょうか。では、これよりタッグマッチト
ーナメントも佳境、準決勝に参りたいと思います。」
イベントも午後に突入し、いよいよ大詰め。
準決勝ということもありさらにレベルが高い試合が見られるのではと、観客の
期待も大いに高まっている。
「第一回戦はその和洋の剣技で華麗に勝利を収めた“侍&ナイト”と見事なま
での息の合った連携で勝利した“怪盗アサシン”の対決だ。」
「遂にあのときの借りを返すことができるな、海斗。」
「クリス…………」
クリスが言う“あのとき”とはまだ海斗と出会って間もない頃。
放課後に行われたオーディエンスもいない決闘。
それはクリスが惹かれていったきっかけでもある。
彼女が知ったのは海斗の実力ではなく海斗という人間そのもの。
「私も九鬼のメイドをしていて、まさか義経と戦うことになるとは思いません
でしたね……。」
「義経は全力でいくぞ、かかってきてくれ。」
「では、準決勝第一試合はじめぇ!」
「静初、任せたぞ。」
「分かっています。」
準決勝ということで互いに相手の戦いは一度見ている。
当然戦闘スタイルの分析もある程度は可能ということだ。
「おーっと、これは怪盗アサシン。開始早々相手チームを分断した!」
海斗たちがとった行動は二手に分かれ、それぞれで一人ずつ相手をするという
いたってシンプルな作戦。
海斗が義経の、李がクリスの前に立ちふさがる。
「この作戦はどうなんだ?」
「ああ、作戦自体は一試合目で京の狙撃を的確に防いでいくくらいのチームワ
ークプレイを潰すためという誰でも思いつきそうなものだが……」
言いながら百代はリングを見る。
「あの義経を一人で請け負うなんて海斗だからできる作戦だろうな。」
普通なら英雄との一騎打ちなんて真っ先に回避すべきようなこと。
タッグマッチなのだからそこを作戦でどうにかするのが妥当なのだが……。
進んで義経を一人で押さえ込む作戦をとってしまうのが海斗の凡人とは違うと
ころだろう。
「早くクリスさんのもとに……!」
「その前に俺を処理しないとな。」
「海斗君、悪いが手加減はできない。」
「……望むところだ。」
義経は言葉どおり、間髪入れずに無数の斬撃を放つ。
海斗は達人のそれを完全に見切りかわしてみせた。
「く、全く当たらないなんて……」
「どうした、義経?もっと本気で来いよ。」
「はぁっ!」
もはや剣速は常人では見えない域に達している。
連続で何発放たれているのかも数え切れない。
それを前にしてなお、海斗の無傷は揺らがない。
「もはやどちらにしろ人間業じゃないな。あの攻撃を避けられるのか。」
「いや、海斗はただ避けているだけじゃない。義経の一連の剣技の流れを最初
の数回で見極め、わざと次につなげにくいところを選んで回避している。目が
良いっていうのもとんでもないステータスだな。」
一見攻撃している義経のほうが押しているようだが、戦いの主導権を握ってい
るのは海斗だろう。
対して李とクリスのほうは……
「そんなことではいつまでも勝負がつかないぞ!」
「…………」
李がクリスから逃げ回っている完全な防戦一方だった。
時たま抵抗としてクナイを投げるが敵を捉えきれない。
散々逃げ回ったところでとうとう隅まで追い詰められる。
「もう逃げられないな。」
「くっ……」
苦し紛れにまたクナイを放つ。
しかしクリスは至近距離の飛び道具も上手くいなしてみせた。
それでもまたクナイを構えようとするが……
焦りのせいか手が滑ったのか、得物を取り落としてしまった。
当然目の前のクリスがその隙を見逃すはずはない。
「今だ!」
渾身の突き。
当たれば勝負が決まる必殺の一撃。
それに対して体勢を崩した李は左手でガードを行おうとする。
勿論素手でのガードなど無意味もいいところ。
だが李の手の甲にはいつの間にか手蓋が装備されていた。
これも暗器の一つということだ。
とはいえ、クリスの全力の突きを防具一枚で防ぎ切れはしない。
…………それが“本来”のクリスの力ならば。
「ぐ……」
重い金属音が響く。
手蓋は…………壊れていない。
武器と防具のぶつかり合いで硬直が生じる。
李はそこで右手を軽く引いた。
その一瞬を待っていたかのように。
「くぁっ……!」
李のわずかな手の動きとともにクリスは身動きが取れなくなった。
何かが体に巻きつくような感覚。
目を凝らしてやっと気づいた。
それは視認しにくいように加工されたワイヤーだった。
しかしいつの間にこんなものを仕込んでいたのか。
その疑問はすぐに氷解した。
逃げていたとき考えなしに放っていたように見えたクナイ。
よく考えれば、一試合目であれだけの精度を見せたのにあんな大量に明後日の
方向に外すはずがない。
あれらは全てこのための伏線だったのだ。
「あなたは全力で攻撃をしましたが、身体がついてこれなかった。だから防具
にはじき返され、そこに隙が生まれます。」
李の行動は一貫していた。
最初からクリスが一回戦で小雪の蹴りで受けたダメージを計算に入れて、ここ
まで持ってきたのだ。
「強者に必要なのは絶対的な力かもしれませんが、勝者に必要なのはその場に
応じた状況判断能力です。」
李は構える。
身動きの取れないクリスに抵抗は許されない。
逃げる術のない獲物を仕留めることなど元暗殺者にとって造作もなかった。
「勝者、怪盗アサシン!」