海斗と燕の戦いは激化していた。
燕の連撃をただかわすだけだった海斗も拳にあわせて手を動かす。
ガードではなく相手の力を受け流すように。
「ふっ」
ならば受け流せないような攻撃を。
海斗の右脇に向けて、広範囲の回し蹴りを放つ。
流れるように伸びる足を回避するのは難しく、右腕で防御する。
今度は海斗が不安定になった燕へ回し蹴りで返す。
危険を感じた燕は咄嗟に後退して、やり過ごした。
「なんと高レベルな戦いでしょう!お互い一歩も譲らない!」
「……はぁ、まずいねー。」
「ん?」
「私も仮にも武人の端くれだからさ、海斗クンが只者じゃないっていうのは分
かってたつもり。でも、てっきり知力の面で秀でてるのかと思ったら……どう
やら勘違いしてたみたいだねん。」
驚いているのにどこか納得しているような。
燕はそんな笑いを浮かべて言った。
「武力も知力も常人の域じゃないみたい。」
「買いかぶるなよ。タイミング見て微力な反撃してるだけだろ。」
「そだね、見てる人にはまだまだ海斗クンの強さの半分も伝わってないと思う。
けど、私の予想が正しければ、さっきの回し蹴り回避してなかったらガードは
はじかれてた。」
「何を根拠に……」
「あくまで予想だけどねん。」
不敵な笑みを漏らす燕はどこか自信ありげに言った。
数々の戦いを経験してきた自分の本能が咄嗟に回避を選択したのだ。
警戒をするのは正しい判断だろう。
「こりゃ本気で勝ちにいかなきゃ。負けるわけにはいかないからね。」
「俺も手を抜くつもりはない。」
「いいよ、私も任務は必ず成し遂げる。」
「じゃ、俺からもいかせてもらうか。」
今までは燕の攻撃に合わせたカウンターであったが、初めて海斗から動く。
ダッシュで距離をつめ、わずかに右側に目をやった。
(っ!来た、視線のフェイント……!)
動画で見た映像と重なる。
この後に繰り出されるのは左拳。
何もかもが計算どおりの光景。
しかし、燕は咄嗟に左腕を動かした。
……その腕はしっかりと海斗の右足の蹴りを防いでいた。
「やっぱり、思ったとおり。」
「……よく防げたな。」
「そう言うってことは作戦だったんだよね。」
「ああ、燕が相手のことをよく分析して戦いに臨むっていうことは分かってた
からな。餌でも撒いておこうと思ったんだが。」
「私はそんな安い女じゃないよん。」
「そうみたいだ。まさかバレるとはな。」
「……海斗クンのことはずっと見てたから。」
「………………」
燕は動画で確認したときから、違和感を感じていた。
隙も捉えどころもない変則的な戦い方をする海斗にこんなにも1つの決まりき
ったパターンがあることに。
燕レベルの実力者でないと気づくことすらできないほどの小さな罠。
発見が難しいからこそあたかも真実のように見せられる。
燕はそこまで冷静に考えていたのだ。
そして動画だけの情報ではなく、海斗自身を知っていたからこそ見抜けた。
ずっと見てた……その言葉の真意は何なのだろう。
「小細工は通用しないってことだな。」
「そ、こっからが真剣勝負。来てくれるよね?」
「……ああ。」
燕が拳を振るう。
拳同士は初めて衝突した。
「やっぱ、海斗クン強いね。」
二つの拳による衝撃の余波が発生していた。
「タイミングを見計らってるだけだ。」
「でも、あっちはもつかな?」
そう言って目を向けたのは李と由紀江のほうだった。
回避を続けていた李にも疲れの色が見え始めている。
「……言っておくが、静初は強いぜ?ルール無用であるほどな。」
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「はぁ……」
時間を重ねていくにつれ、李と由紀江の距離は詰まってきていた。
由紀江の実力を考えると危険な間隔だ。
しかし、由紀江が一歩踏み込もうとすると……
「……!はぁっ!」
李とは違う方向から衝撃が飛んでくる。
そこには海斗と燕が拳を交える姿。
海斗が生じた衝撃の余波をこちらに流してきているのだ。
燕ほどの実力者との戦闘の最中、どこにそんな余裕があるのか。
由紀江はそちらの対処に追われ、近づくタイミングが見出せない。
離れていても連携を使ってくる。
これが怪盗アサシンのチームワークだった。
「海斗、ありがとうございます。……準備は整いました。」
「どういうことですか。」
「私の目的はあなたを出来るだけ疲れさせること。そこに私の疲労は関係あり
ません。勝利の一手は既に用意済みですから。」
李は自分の横にクナイを一本投げる。
それは誰もいない方向へ飛んでいき、壁へと突き刺さった。
そして袖口から怪しげなスイッチを取り出すと……
「これで終了です。」
一気に手をかけてそれを押した。
瞬間……
「な!」
由紀江たちが戦っていた狭い端のフィールド一帯に爆発が巻き起こった。