「ほぉら、いくぞっ!無双正拳突き!」
百代の必殺の拳をギリギリでかわす。
気を纏ったフルパワーのパンチだ、当たれば即戦闘不能。
試合開始時よりも確実にギアが上がってきている。
おそらくそれは単純に体が温まってきたというだけのことではなく、この相手
なら本気でぶつかれると判断したから。
どこまでも戦闘に魅入られた少女。
彼女と張り合える相手がいなかった。
最強ゆえの孤独……
しかし、今の彼女はそんな空しさを忘れていた。
「まだまだだぁっ!!」
心の底から楽しみながら、連撃を繰り出す。
下手にカウンターは狙わず、海斗は回避を徹底した。
今の百代の近距離戦闘に付き合うこと自体、分が悪いと判断した海斗はタイミ
ングを見計らい後退を選択するが……
『ネット』
「なに!?」
ちょうど海斗が撤退してくるのを待っていたように網がとんでくる。
燕は先の行動を読み、チャンスが来るまで沈黙を守っていたのだ。
これは完全に作戦にやられた。
「海斗クンは、ちょっとそこで休んでてね。」
「燕、お前も存分に私を楽しませてくれよ!」
「言われなくてもっ!」
『アイス』
「なんだっ!?」
百代が殴りかかろうとしたところに冷気が放たれる。
今にも振り下ろされようとしていた右手は氷漬けになった。
「これは……」
「隙ありだよ、モモちゃん。」
『スタン』
「ぐはっ……」
「やっと当たったねぇ。」
「くそ……」
百代の動きが鈍ったところにすかさず電撃を撃ち込んだ。
二撃目を避けるため距離をとるが、体には痺れが残っていた。
(気をつけていたが当たってしまったか。凍らされているとこの腕は機能しな
い。反応も遅れる……。)
「今のうちにどんどん攻めちゃうよっ!」
「くっ……」
直撃はなんとか避けていくが、燕の容赦ない連続攻撃に確実にダメージが蓄積
されていく。
完全に燕のペースだ。
「このまま一気に倒す!」
「そうはいくか、川神流・炙り肉!」
「うぁっ……!」
百代は凍結された腕を気によって炎に変化させ、無理矢理拘束を解除した。
そのまま油断して近づいてきた燕に正拳を見舞う。
燕は大きく宙を舞い、そのままステージ端まで吹っ飛ばされた。
「はぁ……さっすが掟破りの武神だね。」
「そう簡単に……やられるわけには、いかないからな。」
燕の扱う平蜘蛛のリカバリーは百代の瞬間回復とは異なり、回数制限に加えて
回復量も全体の40%程度と完璧ではない。
人間爆発やかわかみ波、百代の幾つかの大技をくらい、海斗からの蹴りの一撃、
そして今の百代の一撃と着実にダメージは積み重なっていた。
対する百代も短時間とはいえ燕の電撃のラッシュをくらってしまい、完全に疲
労を取り除くことは出来なくなっていた。
(モモちゃんは完全に電撃を警戒している……。このまま持久戦に持ち込んで
も今の私の状態じゃやられる危険もかなり高い、これ以上長引かせるのはどう
考えても得策じゃない。数発は既に電撃を撃ち込めている……なら、距離の離
れている今がチャンス!)
「お互いに疲労困憊、これで終わらせるよ。」
「まだ何か技を隠していたのか?」
「うん、そりゃもうとっておきのヤツをねん。」
「ふはは、いいだろう!私も全力の奥義で迎え撃ってやる。」
『フィニッシュ』
その最後の機械音とともに燕は天に腕を伸ばす。
それを合図に衛星から巨大な蜘蛛が降り立った。
燕の手甲と融合し、決戦武装・平蜘蛛が完成する。
百代はその間一歩も動くことなく、ただ前にいる敵だけを見据え、全身に気を
充填していった。
その規模は周りの大気が震えるほどだ。
二人の強者の気迫は会場全体にも影響を与える。
武道に縁のない素人でも肌を刺すような緊張感を嫌というほど感じていた。
誰もが息を呑み、頬を伝う汗を拭うことも忘れている。
「これはちとまずいことになりそうじゃのう……観客席に被害が出んように細
心の注意を払うんじゃ。」
「そんなことは分かってらぁ。」
「結界が必要ではないですカ!?」
「おーおー、ものすげぇ闘気だ。ったく、面倒な仕事増やしてくれるぜ。」
「これは……赤子の戦いにしては少々穏やかではないな……。」
「あの四人に任せておけば心配はないと思いますが、もしものときは頼みます
よ、ヒューム。」
実力者たちも成り行きを見守るしかなかった。
「「これで終わらせる!!」」
「静初!!!」
「了解しました、海斗!」
まさに膨大なエネルギーが激突しようというその瞬間……
外から投げ入れられたのは煙玉だった。
ステージが瞬く間に煙に包まれていく。
「これは……」
視界が完全に白で覆われる前。
一瞬だけヒュームが目にしたのは……
「いっけぇーー!!!」
「くらえ、星砕き!!!」
二人の間に飛び込む一人の男の姿だった。