真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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煙の中

会場は動揺と驚きに包まれていた。

 

 

「何がどうなってんだ!?」

 

「煙で何にも見えねーぞ!」

 

「二人の戦いはどうなったんだよー!さっさとみせろー!」

 

 

視界が遮断されてから、音も聞こえてこない。

あの二つの大技がぶつかれば大爆発は必至なはずだが……。

兎にも角にも濃い煙幕で状況は確認できない。

 

 

(一切の音がしない……まだぶつかっていないとは考えられないだろう。とな

ると今、中で何が起こっている?)

 

 

ヒュームは訝しげに白煙を見つめる。

何もその視界から得ることは出来ない。

それでも煙は風に乗せられて、徐々に晴れていく。

 

 

「なんだ、あれ?」

 

 

ステージがはっきりと姿を現すようになって、観客の目に飛び込んできたのは

リングの両端で膝をつく百代と燕、そして中央に両腕を外側に向けて突っ立つ

海斗の姿だった。

 

 

(これはどういうことだ……?)

 

 

ヒュームが隅から隅まで視線を送る。

さっきまで激しい戦いを繰り広げていた百代と燕は立ち上がることも出来ない

様子だったが、攻撃を食らったとかではなく、息を荒げていてただ疲労がピー

クに達しているだけだろう。

第一、あの必殺の奥義がヒットしたら先ほどまでの静寂の説明がつかない。

 

 

(地面の痕跡から察するに中央までは両者のエネルギーがそのまま届いたはず

だ……だがどちらもそこで止まっている。)

 

 

あの大技は確かに発動し、その軌道上の地面を抉っているのだ。

しかし、海斗の地点に到達した時点でその荒々しい爪あとは途切れている。

隠されていたあの一瞬に何が起こったのか。

李ともあらかじめ打ち合わせをしていたかのようだった。

名前を呼ぶのを合図に煙玉を放り込んだ。

考えられる目的なんて一つしかない。

海斗の何らかのアクションを周りの目から隠すためだ。

 

 

「一体、何をした……?」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

立ち尽くす海斗は疲弊しきっていた。

両手を中心に多くの傷も見られる。

 

時間にしてみればほんの数秒間のことだった。

両側から迫ってくる膨大なエネルギーの塊。

下手に受け流すことはできなかった、確実性がないからだ。

仮に失敗すれば取り返しのつかないスケールの被害が出る。

 

選択肢は限られていた。

こちらも少し劣るくらいの気で威力を抑え殺しながら、相手の技に使用された

エネルギーを吸収する。

そんな荒業をそれぞれ腕一本ずつでやらなければ、四人の豪傑が守るリングの

外側はともかく、燕と百代に甚大な傷がいくのは明白だった。

 

 

(静初の機転にも感謝しなきゃな……。)

 

 

何にも言ってなかったのに海斗のすることがすぐに分かったのか、名前を呼ん

だだけで対応してくれた。

本当に頼れるペアだ。

 

 

「これは戦いはどうなるのでしょうか。」

 

「三人ともこれ以上は戦えない。勝者はなしだ。」

 

 

海斗は短くそれだけを司会に告げると早々とリングからおりて去る。

残りの二人も抗議をしようにも体が動いてはくれなかった。

 

 

「エキシビションマッチの結果は引き分けです!!」

 

 

通路を歩く海斗の背からそんな宣言が聞こえた。

なんとか無事に終わった……そう思った途端に世界が傾いた。

 

 

「はぁ……」

 

 

気がつけば体はコンクリートの冷たい壁にもたれかかっていた。

思うように体に力が入らない。

よくこの距離を歩けたものだ。

 

 

「海斗!」

 

「……おぉ、静初か。」

 

「もう無理しないでください。」

 

「静初も身を削って頑張ってくれただろ、だから俺もこれくらいな。」

 

「やりすぎです。自分がどれだけ大変なことをしてると思っているんですか、

まったく……。あれだけやると、気が空っぽなんじゃないですか?」

 

「いや、気は常に吸収もしてたからな。その分も攻撃に充てられたから底をつ

きるとかいう事態にはならなかったんだが、莫大な量を取り込んで、莫大な量

を放出する作業を連続で行うのは流石に負担が大きかったらしい。」

 

「強すぎる攻撃がある意味功を奏してはいたんですね。まあ、その分海斗はこ

んなにボロボロになってしまったわけですが……」

 

「それにしてもよく分かったな。俺が結構キテるってのに気づいて、追いかけ

てきたんだろ?」

 

「……はぁ、一度言っておきますよ、海斗。確かに海斗は感情や痛みやら疲れ

を表に出さず何事もないように振舞うのがとても上手いです。……それでも、

きちんと海斗のことを見ている人にはこのくらいのことは分かるんですよ。」

 

「海斗!!」

 

 

そこで駆けてくる足音が聞こえてきたかと思うと、一子たちが心配そうな顔を

しながら走ってきていた。

 

 

「海斗、大丈夫なの!?」

 

「海斗、怪我はありませんか!?必要ならドイツ軍特製の緊急用傷薬などもあ

るので……!」

 

「海斗、心配しないで。私が愛の触診をしてあげる!」

 

 

皆、海斗のことを心配して駆けつけた。

李の言うことはもっともだったのだ。

 

 

「いいから、まずは入院よ!」

 

「病室のお世話は妻である私が。」

 

「おいおい、大げさだって。」

 

「そんなふらふらで言っても説得力に欠けると知りなさい。」

 

 

そうして海斗は強引に乙女たちに連れられていった。

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