真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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入院中

真っ白な天井、綺麗なカーテン。

そうだ、ここは他でもない病室だ。

 

 

「なんで俺が入院なんだ……」

 

「そこまで重傷で何言ってるのよ。」

 

 

ベッドの脇にいる一子にたしなめられる。

海斗自身には入院する気などさらさらなかったのだが、周りの海斗を愛する過

保護な者たちが許すはずがない。

勝負を終えたときには既に九鬼グループが所有する病院に海斗専用の病室が一

部屋貸切にされていた。

そうして現在、見舞い客は途絶えることがない。

 

 

「いや普通に立って歩けるって。」

 

「今はそうでも海斗が倒れちゃうなんてことめったにないんだから、入院する

機会なんてこれくらいしかないじゃない。」

 

「なんで俺を入院させたいみたいになってんだ。」

 

「だって、こうでもしないと海斗の看病なんて一生出来そうにないし……」

 

「だね。こんなにも尽くせるチャンスなんて夢のよう……!」

 

「いきなり“患者に恋する白衣の天使プレイ”とか始められる俺の身にもなっ

てくれ。」

 

 

頬に両手をあて、顔を赤らめている京につっこむ。

京曰く、愛の小劇場らしいが、完全にショートコントだった。

どこから借りてきたのかナース服を着て、“患者さん、困ったことがあったら

何でも言ってくださいね。何でもしてあげます、それが私たちナースのお仕事

ですから”などとベッドにまたがられながら言われるのだ…………たまったも

のではない。

 

京は現実のナースを模倣する気なんてさらさらないだろう。

あんなもの男の欲望や妄想が作り出した虚像でしかない。

しかし、そういうものの役に入り込むのは京は天才的に上手かった。

 

 

「ミニスカ&ガーター無防備ナースというコンセプトで海斗に元気になっても

らおうと。」

 

 

一体、そのコンセプトで何を元気にしたいのか。

二つの意味で履き違えていると思う。

 

 

「確かに可愛かったけどな。」

 

「はい、婚姻届にサイン頂きましたー。」

 

「おい、口頭でそんな大事なことを決めるな。」

 

「…………アタシも着ようかな。」

 

「何か言ったか、一子?」

 

「ううん、なんでもない!えーと……そういえば、お姉さまは朝から修行だっ

て張り切ってたわ。」

 

「あいつはまだ強くなるつもりか……」

 

「海斗と戦っててとっても満たされたから楽しかったけど、勝てなかったのが

凄く悔しかったんだって。次こそは絶対にリベンジしてけちょんけちょんにし

てやるって言ってたわ。」

 

「あれは別に誰が勝ったとかは決まってないだろ。」

 

「お姉さまが言うには、海斗と直接手合わせしてまだまだ差が開いてることが

よく分かったんだって。」

 

「勝手に悟りきられても困るんだが。」

 

「これ以上最強に近づいたら誰も手がつけられなくなるんじゃ……」

 

 

京の危惧はとても的を射たものだった。

 

 

「海斗さん!お見舞いに参りました。」

 

「お、由紀江。」

 

 

また新たに部屋に見舞い客が増える。

由紀江は両手に何やらビニール袋を提げていた。

 

 

「海斗さんのためにリンゴを買ってきました。食欲はありますか?」

 

「ああ、普通に。」

 

「じゃあ、今から剥きますね。」

 

「気遣わせて悪いな。」

 

「いえ!私が海斗さんのお役に立ちたいんです。」

 

「そっか、ありがと。」

 

「そんな…………」

 

 

海斗から髪を撫でられ、頬を緩ませる由紀江。

 

 

「まゆっち、このために遅れてまで…………恐ろしい娘!」

 

「はい、海斗さん。できました。」

 

「おー、流石由紀江、剥くのも上手いな。」

 

「あの……あーんしてください。」

 

「おう。」

 

 

可愛らしい楊枝に刺して、口元まで運んでくれる。

こういう面倒見の良さは由紀江の長所だよな。

 

そこへ突然ノックの音が聞こえる。

 

 

「失礼する、ここが流川海斗の病室で間違いないか?」

 

 

入ってきたのは……

 

 

「え、橘さん!?」

 

「やはりここだったか。」

 

「お、天衣も来てくれたのか。」

 

「海斗の戦いはテレビで見ていたからな。」

 

「え、ちょっと待って!全然話が読めないんだけど、まゆっちも海斗も、橘と

か天衣とかって……もしかしてあの武道四天王の橘天衣!?」

 

「ん、そうだが。」

 

「何故橘さんがこんなところに?」

 

「ちょっと大家さんに届け物を頼まれてな。」

 

「大家さん……?」

 

「勿論、私たちの家のな。」

 

「ちょっと待ったああああ!!!」

 

 

京が大声を出して、割り込んでくる。

 

 

「私たちの家だと……!?まさか海斗と同棲なんてしていないよね。」

 

「同棲じゃない。私の立場は居候だ。」

 

「それでも一つ屋根の下には違いないんだ!」

 

「周りが騒がしいな……。とにかくこれ、大家さんからだそうだ。」

 

「何だこれ?」

 

 

小包のようなものを手渡される。

 

 

「薬だとか言っていたな。」

 

「あいつは俺の症状を知ってるのかよ……」

 

 

中を取り出してみると……

 

 

「これは…………ピルだな。」

 

「やっぱりそういう関係か!!」

 

 

勿論、錠剤という意味のピルではなく避妊薬だ。

京に疑われても文句は言えない。

 

 

「あの、馬鹿大家……。」

 

 

大家が“礼には及ばないわ”と憎たらしくウインクしてるのが目に浮かぶよう

だった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「…………もう私にはこの方法しかない。」

 

 

一人の少女の瞳には揺らがぬ心が映っていた。

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