真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

72 / 132
駆けつけたヒーロー

「流川海斗……貴様は確か入院中だと聞いたが。」

 

「即退院だ。そもそも俺は大して怪我してない。」

 

「それはそうとしましても、一体何故ここにいるのでしょうか。今、反逆者の

粛清を行っていたところなのですが邪魔されては困ります。」

 

「何故って、まだ分からないのか?九鬼の執事ともあろうものが案外鈍いんだ

な。パンドラメモリの奪取は俺が燕に命令したことだよ。」

 

「海斗クン、何言って……!?」

 

「ほう……、理由が知りたいものだな。」

 

「単なる好奇心さ。連続物の小説だって最終巻だけ抜かれていたら、どうして

も気になって読まなきゃ気がすまないだろ?謎に包まれた膨大な情報なんて一

度興味を持ったら、知りたくて仕方ないだろ?」

 

「なるほどな。」

 

「それが本当ならば貴方も見逃せませんね。」

 

「燕は俺に半ば脅されて行動したにすぎない。制裁を与えるっていうんだった

ら、この場合俺だけにするのが適当だ。」

 

「そんなことを言って、粛清を受け入れる顔はしていないぞ。」

 

「勿論、抵抗はさせてもらうに決まってる。」

 

「ふ、何の自信があるかは分からんが、俺と貴様ではそもそも積み上げた年数

が違いすぎる。」

 

「経験の差っていうやつか?ほんと老人は懐古趣味がすぎる。」

 

「口だけは達者だな。貴様など俺からすれば赤子にすぎん。」

 

「赤子ねぇ……」

 

「なんだ、不満か?」

 

「いや、赤子で結構。それじゃ、赤子の手くらい捻ってみせてくれよ。」

 

 

その言葉を引き金にヒュームが一撃必殺の蹴りを繰り出すが、海斗は後方に宙

返りをしてやり過ごす。

そのまま燕を抱えて、立ち去ろうとするが……

 

 

「逃がしはしませんよ。」

 

「ちっ、糸の結界ってこれのことか。」

 

「大人しく諦めるんだな。」

 

「それは聞けないな。」

 

「む!?」

 

 

海斗はすぐさま片側の壁に蹴りを放った。

たったの一発で広範囲が崩落する。

 

 

「じゃあな。」

 

「……なるほど、糸そのものではなく仕掛けられた壁を狙いましたか。よく攻

略法を心得ている。」

 

「ふん、この場をしのいでも所詮無駄なことよ。」

 

「はい、とりあえずは主たちに報告ですね。」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

夜の街を疾走する。

こうして女の子を抱えながら逃げるのは何度目だろう。

 

 

「海斗クン、どうして……?」

 

「どうして燕の行動が分かったかって?九鬼で燕と会ったとき覚えてるか?あ

のとき燕、ごく自然な動きでカメラの位置チェックしてただろ。それで少し気

になってな、悪いが燕の母親の事情とか色々調べさせてもらった。」

 

「それもそうだけど!そうじゃなくて、それを知ってなんで来てくれたの?そ

れにあんな嘘までついて……」

 

「俺がそうしたいと思ったからだ。」

 

 

下から見上げる真剣な表情に燕は顔をそらしてしまう。

 

 

「そんなのおかしいよ。私、告白だって断られたのに。」

 

「なんか勘違いしてないか、燕。俺は作戦のための告白をやめろって言っただ

けだ。好きでもない奴を助けるほどお人好しじゃないから。」

 

「……っ!!」

 

 

そらした顔を覗き込まれ、そんなことを言われた燕はみるみる顔を赤くしてし

まう。

男子のこういう攻撃を受け流すのは得意のはずなのに……。

これじゃまるで初心な生娘のようではないか。

 

 

「あのさ……」

 

「見つけたぞ。」

 

 

燕の言葉を遮るように低い声が聞こえた。

振り返るとそこにはあの老執事たちがいた。

 

 

「追いつかれたか。」

 

「もう貴様は終わりだ。」

 

「そうはいくかよ!」

 

 

燕を下ろすと、ヒュームに向かって突っ込んでいく。

そのまま十分な助走の勢いを乗せた正拳突きを放つ。

 

 

「だから、赤子だというのだ。」

 

「く……」

 

 

ヒュームは楽々とその直線的な攻撃をかわし、海斗の右手首を掴む。

その握力は老人のそれとは思えないほど振りほどけなかった。

 

 

「そういえば、赤子の手くらい捻ってみせろと言っていたな。これくらいは制

裁として文句は受け付けん。」

 

「っ!?やめてっ!!」

 

 

ヒュームが思い切り手首を握ったまま、軽くねじる。

燕の叫び声も空しく、鈍い音が聞こえた。

 

 

「海斗クン!そんな……っ」

 

「九鬼に刃向かったのが運のつきだったな、こぞ……がはっ!?」

 

 

格の差を見せつけ、完全に気を抜いていたヒューム。

海斗はにやりと笑うと、至近距離で手加減なしの蹴りをぶちこんだ。

骨を折れた痛みにも動じずにこの蹴りをうてるのは海斗くらいだ。

だから、ヒュームも対処しきれなかった。

 

 

「ヒュームを……!」

 

「こんな苦労して入れた一発だ。ちょっとは効いててくれよ。」

 

「油断は命取りですよ。」

 

 

クラウディオが両の手を動かす。

またお得意の糸攻撃を仕掛けてくるのだろう。

 

 

「大丈夫だ、そっちも忘れずに相手してやるよ。けど、ここは外、糸の結界は

使えないぜ。」

 

「ふっ、それなら糸で切り刻むまでです。」

 

 

糸は海斗を正確に狙い、襲い掛かってくる。

それは言葉どおり、斬撃といっても過言ではない。

 

 

「片腕でどこまで受け切れますか?」

 

「勝手に決めんなよ。」

 

「な……!」

 

 

海斗は折れた右手を突き出すと切り傷も躊躇わず、糸をまとめて掴み取った。

そのまま一気に距離をつめ、掌底を打ち込んだ。

 

 

「このくらいの怪我で使えないと判断した油断が命取りだったな。」

 

 

九鬼の最強の従者二人を相手にして引けをとらない男がそこにはいた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。