真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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海斗VS最強の執事

序列0位と3位の九鬼家従者。

その最強の二人があろうことか地に伏していた。

軍一つ動員しても不可能であろうそれをたった一人で成し遂げたのは、燕を助

けるためだけに来た海斗だった。

 

 

「凄い……あれだけの二人をこんな一瞬で……」

 

 

武道を磨く者の一人として素直に感じるところだった。

世間が九鬼の強さはトップレベルと言うからではない。

この二人の実力は実際によく知っている。

だからこそ、驚きもそれだけ大きいのだ。

 

 

「く、やってくれる……」

 

「そんな!」

 

「俺としたことが油断していいのを一発もらってしまった。」

 

「やれやれ、直接打撃を受けるのは久しぶりですね。」

 

「簡単に立ってくれるよな……。まあ、そのまま起き上がらなくてもそれはそ

れでなんか困るんだが。」

 

「だが、詰めが甘かったな。殺るならさっきの一撃できめておくべきだった。」

 

「どういうことだよ。」

 

「捨て身で来たのは実に賢い作戦としか言いようがないが、仕留められなけれ

ば貴様は片腕というハンデを背負うことになる。」

 

「私も二度同じ手はくらいませんよ。」

 

「この状態でもまだ希望があると思うか?」

 

 

ダメージは与えているものの二人の執事はまだ十分に動ける様子。

対して海斗は片腕は折られていて満足には戦えない状態。

客観的に見れば、確かに絶望的としか表現できない。

 

 

「だから決め付けるなってのっ!」

 

「気合だけでは、さっきの糸のように俺の攻撃は防げんぞ。」

 

 

ヒュームが高速の拳撃を放つ。

流石に今の右腕ではこの攻撃を受け止めたりすることは不可能だ。

糸とは全くの別物、ベクトルは海斗の向きへ一直線なのだから。

 

 

(むっ、これは……!)

 

「っと。」

 

「なに……!?」

 

 

海斗はヒュームの拳をしっかりと止めていた。

あろうことか、その右手で。

 

 

「川神流、」

 

(まずい……!?)

 

「無双正拳突き!」

 

「ぐぅっ……」

 

 

左手の正拳になんとか腕のガードを間に合わせることができたヒューム。

けれど、その体は勢いを一手に背負って、地面と靴裏が激しく摩擦しながら相

当な距離を後退させられた。

 

 

「……思い出しました。ヒュームの拳撃を受け止める前に一瞬感じた気、その

技……私は見たことがあります。」

 

「…………」

 

「そう、あれは李が九鬼に暗殺者として忍び込んだとき、ボロボロになった彼

女に突如として働いた回復。そのときのものと全く同じです。」

 

 

クラウディオが興味を惹かれた一つの要因でもある。

しかし、あの出会いの後からいくら九鬼で仕事をこなす李を見ていても、二度

とその特殊な技を見ることはなかった。

それもそのはずだ、そもそも術者が違ったのだから。

そして今目の前にいる男がその術者、クラウディオはそう確信した。

 

 

「最初からいつでも腕は治すことができたにも関わらず、カウンターのチャン

スを作り出すためにあえてそのまま戦い続けたのですか。」

 

 

腕を折られているのだから、常に尋常ではない痛みが襲うはずだ。

それでも数々の戦闘を積んできた強者の目を欺くために、警戒心の強い相手の

油断を引き出すために、わざわざ折れたままの腕で刃物のような切れ味の糸を

掴み取るという荒業をしてまで、回復の手立てはないということを無意識下に

印象づけた。

異常なほどにきれる頭と脳内に描いたプランを実行できるだけの実力を兼ね備

えていなければまず無理だ。

 

痛みを無視してまで戦った理由は一つ。

自分のためじゃない、後ろに背負った者を守るためにこの男は立ち塞がってい

るのだ。

 

 

「これは……今まで相手をしてきた中で一番厄介な強敵かもしれませんね。」

 

「ん?」

 

「少々本気でいきましょう。」

 

 

そこでクラウディオの雰囲気が変わった。

つい先刻まで温厚な好々爺だった者の目は完全に獲物を狙うハンターのそれだ。

海斗の周囲をおびただしい量の糸が一瞬で取り囲む。

密度や速さが段違いであるのは明らかだった。

それだけ本気で仕留めにきているということ。

 

 

「だが、糸で来るのは分かってたからな、対策はバッチリだ。」

 

 

海斗はポケットから短い棒のようなものを取り出す。

そしてスイッチを入れるとそこから光線が伸びた。

 

 

「それは……クッキーのビームサーベル……。」

 

「ああ、コンパクトで持ち運び便利だからな。借りてきた。」

 

「しかし、間に合うでしょうか。」

 

 

一斉に海斗を襲う糸。

決して対応しきれる量ではないが……

 

 

「間に合うさ。」

 

「なんと……!」

 

 

目にも止まらぬ速さで一太刀を入れると、いとも簡単に海斗に対する包囲網は

解かれた。

 

 

「それはクッキーの……なるほど、神速の斬撃までもコピー済みということで

すか。」

 

 

そのまま海斗は隙のできたクラウディオに斬りかかる。

 

 

「ジェノサイド・チェーンソー!!」

 

「なっ……!」

 

 

突然の横からの攻撃に回避はできなかった。

なんとか防御をするもガードの上から体力を根こそぎ削られたような感覚。

 

 

「俺の蹴りをうけてなお、まだ立っていられるか。」

 

「はぁ……今の不意打ちは少しまずかったがな。」

 

「だが、もう貴様も完全に終わりだ。」

 

 

そこで上から飛来してくるものがあった。

砲弾でもなければ、戦闘機でもない。

 

 

「フハハハハ!!九鬼揚羽、降臨である。」

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