真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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執事の海斗

「サイズとか大丈夫ですかー?」

 

「ああ、問題なさそうだ。」

 

 

カーテン越しの声に答えながら、服に袖を通す。

全てを着替え終えて、カーテンを開ける。

 

 

「とりあえず着てみたが、こんなんでいいのか?」

 

「………………」

 

「おーい?」

 

「…………、すごくお似合いです……」

 

「かっこいい……///」

 

「いや着方が合ってるかを教えてくれよ……。」

 

 

見当違いな意見を述べるメイドたちに海斗は肩をすくめた。

ここは九鬼邸、今日から海斗にとっての期間限定の職場となる。

ここでの仕事をするにあたって、最初に通されたのが試着室。

そして、手渡されたのは新品の執事服だった。

どうやら1週間はこれを着て頑張れということらしい。

 

物が真新しいからか、着慣れないからか、少々落ち着かないが仕方ない。

ただ、着こなしのほうは完璧で早速係のメイドを虜にしてしまっていた。

彼女たちの目線から言わせれば、普段少し荒々しい感じのある男性がスーツで

正装をしているというのがポイントが高いのだ。

海斗の場合、元々の素材のよさも大きく関わっているところではあるが。

 

 

「ちょっと写メ撮らせてもらってもいいですか?」

 

「別にいいけど。」

 

「あーずるい!私もお願いします。」

 

(業務報告か何かか……?)

 

 

海斗は勝手にそう勘違いしていたが、勿論行く先は上司の携帯端末などではな

く、彼女たちの個人用保存フォルダだ。

 

 

「あーもう着替えは終わったのか……って、何してんだお前ら。」

 

 

部屋に入ってきたのは忍足あずみだった。

九鬼英雄の付き人であり、大勢のメイドを束ねるメイド長でもある。

その責任者がさながら撮影会のようなこの状況にツッコミをいれるのは至極当

然なことだった。

 

 

「はぁ、これだからコイツみたいなのを九鬼で働かせるのにあたいは反対だっ

たんだ。ほらお前らさっさと持ち場に戻りな。」

 

「「……はーい」」

 

 

やはりメイド長の言葉は重いのか、渋々といった感じで二人のメイドは退出し

ていく。

取り残されたのは急遽仕事をすることになって呼ばれた海斗と、それを明らか

に歓迎していないあずみの二人きりだった。

気まずいことこの上ない。

 

 

「えーと、それじゃ非常に不本意だが今日からお前にはここで働いてもらうこ

とになる。」

 

「不本意なのは顔で十分に伝わってる。」

 

「いちいち口を挟むんじゃねぇ。これから基本、お前の担当はあたいとステイ

シーが受け持つ。つっても、あたいはほとんど英雄様の用事で外すことが多い

からステイシーとの時間が大半だろうが、出来る限りあたいの監視下において

おく。」

 

「なんでまた……」

 

「他のメイドたちじゃ、お前を甘やかしたり、仕事に支障が出たりするのが目

に見えてるからだ。そうすると残るのはあたいとステイシーくらいだからな。

けど、ステイシーもあまり長い時間過ごさせると何があるか分からねぇから、

あたいもサポートするってことだ。」

 

「んー……?」

 

「あーはいはい、鈍感なお前には分からねぇだろうよ。とにかく担当は今の二

人だ。李も仲良いっていう話だしな。あくまでお前は罰としてここに来ている

んだってことを自覚しろよ。」

 

「分かったって。」

 

「それはそうと、なんか足りないと思ったらお前、首もとのスカーフはどうし

た?執事服と一緒に渡されただろ。」

 

「あの赤いひらひらか?あんなのうっとうしくて仕事に集中できなくなる。」

 

「自覚しろってさっき言ったばかりのはずだろ……、ならせめて、タイくらい

はきちんとしてくれ。」

 

 

呆れたようだがまた予想の範囲内でもあったようで、あずみは懐から黒いネク

タイを手渡す。

 

 

「さすがメイド、気が回るんだな。」

 

「おちょくってんのか、あぁ?」

 

「いやいや……。で、これどうすりゃいいんだ?」

 

「ネクタイに首に巻く以外の用途はねぇ。」

 

「そのやり方がいまいち分からんのだが、生憎こんなもん一度も身につけたこ

とないからな。」

 

「確かに学園の制服でもつけてんのは見たことねぇか……。にしても、一度も

ってのは相当な変わりもんだな。……ちっ、ほらこっち寄れ。」

 

「おっと、」

 

 

あずみの強い力で襟を引っ張られ、近くに引き寄せられる。

目の前にあずみの顔がきて、首の後ろに手を回したかと思うと、

 

 

「ほらよ。」

 

 

胸をどんと押されてさげられると既にネクタイが巻かれていた。

 

 

「おぉ、なんつー早業。さすがメイ……」

 

「メイドでもネクタイをわざわざつけてやるのなんて仕事にないからな。そん

なことも出来ない奴はお前くらいだ。」

 

「そうなのか。」

 

「金持ちが何にもしないイメージがあるのかもしれねぇが、着替えの面倒はた

まに紋様があるくらいだ。ややこしい着物とかな。」

 

「まぁいい年してりゃ、そんなもんが普通か。」

 

「さて……」

 

 

あずみは準備が整った海斗を見据える。

 

 

「やるからにはきっちり働いてもらうぞ。」

 

「おう、任せろ。」

 

 

海斗の執事一週間が始まった。




ごめんなさい、最近忙しくて予約投稿もままなりませんね。
待ってくださっている方にはご迷惑をおかけしてすみません
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