真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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サボり

「海斗ーー!」

 

「お、紋白。」

 

 

遠くから走って飛び込んできた紋白を胸で受け止める。

以前までなら絶対に紋白が見せなかった姿。

海斗という存在が紋白の甘えられる唯一の場所になっているのだ。

 

 

「もう来ていたのだな、それにその格好……とても似合っておるぞ!」

 

「そうか?俺としては慣れてないし着られてる感じなんだが。」

 

「その……」

 

 

紋白がもじもじとしながら、口の横に手を当てちょいちょいと手招きをする。

察した海斗は紋白の口の位置まで耳がくるようにかがんでやる。

 

 

「……我は九鬼の中でも海斗の執事姿が一番、す、好きであるぞ。」

 

 

こしょこしょと耳元でか細い声を発した後、かぁっと顔を赤く染めてしまう。

隠せないほどの恥ずかしさを感じつつも健気に伝えてくれる紋白に海斗は思わ

ず笑みを漏らした。

 

 

「ありがとな。」

 

「あ……」

 

「紋白がそう言ってくれたことだし、格好については心配ないな。」

 

 

紋白の頭を撫でながら、感謝する。

これは慣れない環境だとか、粛清だとかいうのに対する紋白なりの気遣いなん

だろう。

 

 

「おい、普通にため口利いてるが一応こっから一週間は紋様もお前の主人って

ことだぞ。様とか敬語をしっかりとだなぁ……」

 

 

そんな風に紋白を可愛がっていたら、あずみから注意を受けてしまった。

確かにそういう約束ではあったが、苦手分野であることは言うまでもない。

 

 

「よいのだ。」

 

「ですが……」

 

「海斗はよいのだ。確かに海斗は敬語こそ使わないが、いつも本当の気持ちで

包み隠さず話しておる。心から我や周りの者を思いやってくれておることが分

るからこそ、我は海斗を信頼しておるのだ。」

 

 

敬語という表面上の表現がなくても、思いやりは分かっている。

それは海斗と接してその人間性を理解したからこそ言える言葉だった。

 

 

「では海斗、我は習い事に出てくるぞ!」

 

「ああ、頑張って来い。」

 

「うむ!」

 

 

またぽんぽんと頭を撫でると、紋白は満足げな笑顔で習い事に向かった。

 

 

「まったく……なんでこんな奴がお気に入りなんだか。紋様だけじゃなく、英

雄様も何故かお前のことは買ってらっしゃるし、人に取り入るのが上手いとか

そういうことか?」

 

「俺がどうこうじゃねぇよ。俺の周りの奴らが人一倍優しくて、……少し変わ

ってるだけだ。」

 

「……そうかい、あたいはこれから英雄様の仕事だ。少しの間、あたいが目を

離すからって悪さするんじゃねぇぞ。」

 

「俺は小学生か何かか。」

 

「つーことで、こっからは私のターンだぜ。」

 

「うぉっ……」

 

 

いきなり後ろから首を持ってかれそうな勢いでがっと肩を組まれる。

海斗は声もあるが、その力で誰かをすぐに理解した。

 

 

「ステイシー、俺以外にこれやるな……結構な攻撃力だから。」

 

「アン?なに、ひ弱なこと言ってんだ?」

 

「いや俺はいいけどさ……他の奴は耐えられないと思うぞ。」

 

「心配しなくとも海斗以外にこんなことしねーよ。」

 

「それならいいんだが……」

 

「じゃ、ステイシー、あとは任せたぜ。」

 

「おう、海斗を見張っておけばいいんだろ?」

 

「頼んだ。」

 

 

あずみはそれを確認するとすぐに去っていった。

 

 

「つーか、海斗なかなかロックな格好してんじゃねぇか。」

 

「ステイシーもか、ありがとな。」

 

「そうだ、ロックといえば。聞いたぜ、海斗。あのヒュームのジジイをボコボ

コにぶっ飛ばしたんだってな!」

 

「いや、ボコボコにはしてない。」

 

 

そんな老人虐待みたいな言い方はよろしくない。

被害を受けたのは腕を折られた俺のほうだ。

 

 

「あのジジイは偉そうで気にくわねーが実力も伴ってやがるからな、ざまぁみ

ろって感じだぜ。」

 

「お前はよくそれで首がとばないな。」

 

「やっぱ海斗は他の奴とは一味違うな。李みたいな変わり者が慕うのも分かる

気がするぜ。」

 

 

ステイシーはニヤニヤしながら海斗を見る。

思えばここまで正反対の性格のステイシーが李と仲いいというのも面白い。

だからこそどちらかが合わせていたりするのではなく、素の部分で意気投合し

ていることがよく分かる。

 

 

「よっし、そんな頑張った部下にご褒美タイムだ。」

 

「まだ俺は部下ってことになってるのか。」

 

「今日は仕事さぼっちまおうぜ。」

 

「おい、いきなりあずみとの約束を違ってないか?」

 

「いんだよ、今日は私が九鬼の中を案内してやる。言うなれば、これも二日目

以降の仕事をスムーズにするための重要な準備だ。」

 

「言ってることは間違っちゃいないが……」

 

「決まりだな!私についてきな。」

 

 

歩き出すステイシーを追いかける。

最初からちゃんと仕事を任されるとは思っていなかったし、もし命じられても

出来ないから文句はないのだが……

 

 

「ていうか、これが仕事の一環だっていうなら、“さぼる”っていうご褒美に

ならないんじゃないか?」

 

「アァン?細かいことを気にする野郎だな。ならよ、これで文句ねぇだろ。」

 

「これは何かまた誤解を受けそうな……」

 

 

新たな罰を増やされるのではないかという緊張感を持ちながら……

ステイシーに手をつながれて廊下を歩くのだった。

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