真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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一日目終了

「あっという間の一日だったな。」

 

「……どこがだ。」

 

「なに疲れてんだ、海斗?」

 

「そりゃ疲れるだろ。誰かとすれ違うたびに手をつないでるのを見られて咎め

られないように物陰に隠れて……ステイシーは何も動かねぇし、一日中気を張

ってなきゃいけないのはきつかったぞ……。」

 

「ハハッ、お疲れさん。つーか、根本的なことを言や、とっとと手を放しちま

えばよかったんじゃねぇのか?」

 

「それはちょっとな……。ステイシーが俺のためにわざわざ考えてくれたご褒

美なんだろ?女の子の厚意を無下にはしたくない。」

 

「……ハッハー、ほんと天然ジゴロだな、海斗は。そんなんだから、周りに女

が集まってくんだぜ。」

 

「はぁ……?」

 

 

ステイシーに後ろに回りこまれて肩をばんばんと叩かれる。

位置的に表情は伺えないが、少し声の調子がおかしく感じた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「海斗、今帰ったぞ!」

 

「おー、お帰り紋白。」

 

 

海斗を見つけた途端に駆け出して胸に飛び込む。

それを優しく受け止めてやる海斗。

もはやテンプレと化した一連の動作にヒュームも口出しはしなかった。

 

 

「海斗、今日はな、今日はな、お茶の稽古で先生に褒められたのだ!姿勢のよ

さと、あとは準備の作法と……」

 

「そっか、偉いぞ。ちゃんと勉強していったんだな。」

 

「うむっ!」

 

 

こんな風に屈託ない笑顔を見せてくれる紋白を目の前にして、それだけでここ

で一週間働くという決断が正解のように思えた。

 

 

「そうだ、海斗。今日はこれから一緒に風呂に入るぞ!」

 

「え?」

 

「っ、お待ちください紋様。流石にそれは見過ごせません。」

 

「ヒューム、元々海斗は我の執事ということで一週間いてくれるという約束だ

ったのだ。自分の執事に生活の手助けをしてもらうのは当然であろう。外出時

は我慢したのだからこれくらい……」

 

「むぅ……了解しました。」

 

「だそうだぞ、海斗。早速行こうではないか!」

 

「ちょっと待てよ、紋白。普通に風呂入るんだよな?」

 

「普通ではない入り方があるのか?」

 

「いや、そうじゃなくてだな……。当然、風呂入るときは裸だろ?」

 

「無論である。」

 

「そうなると嫁入り前の女の子が他人の男と一緒に入るのはいくらなんでも問

題あるんじゃないか?」

 

「心配いらないぞ。風呂に入るのは専属執事として当然の仕事であるし、それ

に……我は海斗以外に嫁にいく気はないぞ……。」

 

「ごほっ……!」

 

「………………」

 

 

思わずむせてしまった。

というか、後ろのヒュームの視線が人を殺す勢いだ。

ただでさえヒュームにとって海斗は気に食わない存在であるのに、こんなこと

を言われればますます目を付けられてしまう。

顔を赤らめつつも嬉しそうにしている紋白に指摘できはしないが。

 

 

「とりあえずここから撤退だ!」

 

「海斗、お風呂場はあっちだぞ。」

 

 

指を指してくれるが、方向を気にしている暇はない。

紋白を肩の位置に抱っこをして、一刻も早い逃亡を謀った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「そんなの駄目に決まってんだろうが。」

 

「まあ、当然の反応だよな。」

 

 

風呂も目指せない逃亡の道中であずみと出くわした。

そして事情を説明した結果、予想通りの展開となった。

 

 

「何故皆揃いもそろって反対するのだ。」

 

「紋様、しかし風呂場となるともしものときに対処ができません。」

 

 

あずみの言い分ももっともだ。

そもそも一応償いという形で雇われている、いわば罪人のような立場の者をど

うして密室の空間で主と二人きりにさせることがあるだろうか。

狂気の沙汰と言うほかにない。

 

 

「海斗は優しい奴なのだぞ、なんで誰も許してくれないのだ。」

 

「……分かりました、紋様。今日は初日で色々海斗にも話しておかなければな

らないこともあるので明日からでお願いします。」

 

「そうか……分かった。」

 

 

紋白は了解しつつも少し寂しそうに戻っていった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「ああいう約束を勝手にするんじゃねぇよ。」

 

「確かに分かるけど、あんなこと言って明日からどうするんだよ?」

 

「毎日なんとかごまかすしかねぇだろ。」

 

「……あれは嘘か。」

 

「なんだ入りたかったのか……?お前もハゲの人種か。」

 

「おい、人を性犯罪者呼ばわりするな。俺も正直風呂に一緒に入るのはあまり

良くないことだと思うけど……、紋白って一番年下なのに相当周りに気を遣っ

て過ごしてるだろ?」

 

「まぁな……」

 

「やっと最近になって自分の希望を言ってくれるようになったんだよ。だから

俺が出来る範囲のことはきいてやりたいんだ。じゃないと、紋白は誰にも頼ら

ず自分ひとりで抱え込んじまう。」

 

「…………なら明日から責任持てよ。」

 

「え、いいのか?」

 

 

あずみは最後の海斗の質問には答えずに肩に手を置いただけだった。

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