見ただけでは分からずとも足を踏み入れ雰囲気を感じればその異常さが分かる
場所、親不孝通り。
その道を遠慮なく歩く影が二つ。
「はぁ、まさかお前と出かけることになるとはな……」
「そこまで嫌なら、別の日に英雄と行けばよかったんじゃないか?」
「ずっと続けてきた週に一度の行事、欠かさないことに意味があると英雄様も
考えておられるんだ。だから、あたいも今日ばかりは英雄様のお側にいること
を断念してこっちに赴いてるんだ。主の意思を汲み取るのが真のメイドっても
んだからな。」
「立派な心がけだな。」
「つっても、本当は一人で十分に事足りるんだが……。英雄様に不要な心配を
おかけして集中を妨げることなんてあっちゃならねぇから妥協したまでだ。」
「今まではどんな感じだったんだ?」
「どうもこうも毎回ただの巡回で終わってるさ。事件に出くわしたなんてこと
は一度たりともねぇ。」
「まぁ、そうだろうな。」
ユートピアのことで随分とここにも捜査の手が回った。
一時期はびこっていた悪も大方根絶やしにされ、平和とはいえずとも酷いとき
に比べれば、大人しく沈静化したものだ。
何にせよあの事件がこの場所にとって、大きなターニングポイントとなったこ
とは間違いない。
「けど、今日は逆に英雄様がいないから念入りに調べられるな。」
「そりゃまあ、リスクは減ってるだろうが……。」
「こういう路地裏なんかもいつもは入れねぇからな。」
ちらっと細く暗い小道に目をやる。
そこに少し入っていって辺りを見回す。
「つっても、ゴミ箱が転がってるくらいか。」
「そうそう、異常なんてあってたまるか。」
「ま、そうだな。あっちも一応見とくか。」
もう一つ向かい側にある裏路地にあずみが入ろうとしたその瞬間、海斗の直感
が何かを告げる。
気づけば、あずみの手をとってその進行を止めていた。
「あ、何しやがんだ?」
「………………」
切り取られた景色が見せているのは平生の顔、しかしそこから感じたのは確か
に日常から乖離した異質だったのだ。
それはある種海斗だけにしか分からない変化。
「出てきたらどうだ?」
「おい、何言って…………!?」
一切気配のなかった路地からぞろぞろと四、五人が出てくる。
あずみほどの実力者でも姿を現すまで全く気づけなかった。
「そこの男、よく俺らがいることに気づけたな……。お前、そっちの世界の人
間じゃないな。」
「なんでそう思う?」
「ふん、平和ボケしたぬるい世界の住人が俺らの気配に気づけるわけがないだ
ろう。現にそこの女は何も感じ取れなかった。」
「まぁな、確かに元はつくが俺もお前ら側の人間か。」
「何を話してやがんだ、状況が分かるように説明しろ。」
あずみは驚きと焦りを表情から隠せないでいる。
当然だ、自分の知識・見聞の領域外にあるものに触れているのだから。
そう、“常夜”という名の異質に。
「部外者でも分かるように説明してやろうか?俺たちは常夜の住人だ。」
「常夜……噂には聞いてたが本当に存在したとはな。」
「お前みたいな無知の女が入ってきてれば、身ぐるみを剥いでやったのにな。」
「はっ、てめぇらみたいなのにやられるほどやわじゃねぇよ。」
「へっ、お前みたいな勘違いしている奴が一番やりやすい。」
「ともかく、もうお前らの目当ては手に入らないだろ。さっさと元の巣に戻った
たらどうだ?」
「へっへっへ、出身者だからって強気な発言だな。別に不意打ちじゃなくとも、
力に訴えてお前らからあらゆるものを奪ってもいいんだぜ。」
「悪いけど、手を出したらどうなっても知らないぜ?俺だけならまだしも、守
る奴が今日はいるんでな。」
「お前に守られる覚えはねぇよ。」
「そこは今いいだろ……。」
「なかなかに余裕ぶってくれてるがな……これでも同じ口が利けるか?」
男たちのさらに背後。
そこから新しい気配があった。
影が近づいてくる、随分と巨大な影。
暗がりから姿を現したのはごつい図体をした2mほどの大男だった。
「お前もこっちの出なら流石に名前くらいは聞いたことあるだろ。聞いて驚く
なよ、こいつがあの常夜の伝説“死神”さ。」
「…………へぇ、それで?」
「ふん、常夜で俺様のことを知らないなんてずぶの素人もいたもんだ。流石に
これを見たら恐れを知るだろうさ。」
そうして男が取り出したのは人の身長ほどもある大きな鎌。
それを軽々と扱っている。
「冗談じゃなくなってきたな。」
「へへっ、逃がしゃしねーよ。」
「……しょうがねぇ。あずみ、さがってろ。」
「あ?お前何様のつもりだ。あたいがお前に守られなきゃいけねーんだ。」
「別にあずみがこいつらに実力で劣ってるとは思わないさ。けど、冷静に判断
して無傷ではまず無理だ。それくらいは分かるだろ?」
「ちっ、ならどうすんだよ。」
「心配ない。」
海斗があずみの前に出て、構える。
「俺なら無傷でやれる。」